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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.82(平成27年11月発行)

「科研費が推進した分野横断研究、そして再び」

藤江 幸一 横浜国立大学先端科学高等研究院 副研究院長・教授<br> <br> 平成27年度に実施している研究テーマ:<br> 「プランテーションのダイナミックモデル開発による持続性評価と地域システムへの展開 」(基盤研究(S))
藤江 幸一
横浜国立大学先端科学高等研究院 副研究院長・教授

平成27年度に実施している研究テーマ:
「プランテーションのダイナミックモデル開発による持続性評価と地域システムへの展開 」(基盤研究(S))

  重点領域研究から
    科研費による研究は、まず重点領域研究「人間-環境系の変化と制御」(昭和62~平成4年度) 1)、引き続き重点領域研究「人間地球系-人類生存のための地球本位型社会の実現手法」(平成5~9年度)1)に、それぞれ計画研究班員として加えていただいたことで始まった。化学工学科を卒業した私が、前者では遺伝子工学や植物生理学などの研究者グループと、後者では生態学を中心とした研究者グループと一緒に活動させていただくことになった。上記の重点領域研究には法学、経済学など社会科学系の研究者も多数参画しておられ、所謂“アウェイ”の状態であった。しかし、これが二つの点でその後の研究活動に大変役に立った。一つは、農学、生物学、生態学に加えて社会科学における研究手法や考え方を学ぶ機会になったことである。もう一つは、当時ご一緒させていただいた研究者から、後に研究プロジェクトにお誘いいただいたり、逆に当方の研究プロジェクトにご協力やアドバイスをいただいたりと、人的ネットワークが大いに役立った。
    前者の重点領域で取り組んだテーマは「クロム耐性菌を利用した6価クロム含有排水処理およびクロムリサイクルシステムの確立」であり、生物工学、遺伝子工学の研究者にご支援をいただきながら、引き続き試験研究(当時)に採択され、さらに民間企業との共同研究にも展開することができた。
    後者の重点領域では「農耕地‐森林生態系の持続的保全・修復・創生手法の確立」に取り組んだ。この延長線上に現在進行中の基盤研究(S)が位置しており、熱帯地方のプランテーションを対象として、栽培管理やバイオマス残滓リサイクルの導入による動的変化を予測するシステムダイナミクスモデルの開発を目指している。スマトラ島での調査と各種実測・解析に基づいてモデルを開発し、プランテーションを核とした地域自立システムの実現に貢献する手法と情報の提供をめざして研究を遂行している。ここでも、重点領域を通して得ることが出来た多くの経験、知見、そして多様な分野の研究者との人的ネットワークの有難さを実感している。
    上記した二つの重点領域研究には、数百にもおよぶ多数の研究者が異分野から参画しておられたことから、分野を横断・連携した環境研究を推進する格好の場であり、同時に若手研究者を効率的に育成する機能を果たしていた。その後、残念ながらこのように異分野の研究者が多数結集する大規模な重点領域研究は姿を消していった。
   
    学術システム研究センター主任研究員を経験して
    環境研究の目指すところは、環境の解析・評価、保全・修復などの研究を通して、人間活動が環境生態系と共存できる安心・安全で持続可能な社会の実現に貢献することである。環境科学特別研究から本格化し、二つの重点領域研究を経て環境研究に係る多くの実績、知見そして経験が蓄積されてきた。これらにより、平成25年度に実施された10年ごとの分科細目の見直しでは、従来、「総合領域分野」の下に1分科4細目構成であった環境学が、3分科10細目で構成される単独の「環境学分野」へと大幅に拡充されかつ分野横断による環境研究も推進されている1)
    さて、科研費の応募時に気になるのは種目、細目、調書の書き方程度までであり、科研費全体の予算額やその確保などに関心は及ばないであろう。内閣府 総合科学技術・イノベーション会議「基礎研究及び人材育成部会」の中間とりまとめに、科研費を取り巻く状況と科研費に対する見方がまとめられている2)。簡潔に引用すると “科研費は競争的資金全体の6割を占め、厳しい財政状況が続く中にあって突出した伸びを見せているにもかかわらず、研究論文数は欧米諸国に比較して伸び悩んでいる”という記述がある。釈迦に説法であるが科研費は「研究者の自由な発想に基づく独創的・先駆的な学術研究を発展させることを目的とする競争的研究資金であり、ピア・レビューによる審査を行う」ものであるが、上記の見方は、研究者にとっては譲れない“自由な発想”や“ピア・レビュー”に対する疑問符に繋がりかねない危うさがある。国立大学では運営費交付金の減少に伴って研究活動のための基盤的経費も減り続け、科研費は研究推進のための命綱になっている。このような状況下で長期的な視野に立って、“自由な発想”や“ピア・レビュー”を死守しながら、各分野における研究の一層の推進、新たな研究分野の開拓、それを担う研究者の育成などを合わせて実現するために、説明責任を果たしながら、科研費制度を維持・発展させることが求められており、その実現は研究者自身の活動や情報発信に懸かっている。
    総合科学技術会議(CSTP)は総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に名称を改め“Innovation”が大きなキーワードとなっている。新しい技術やシステムの開発とその社会実装については、多面的な利害得失の解析・評価に加えて、ステークホルダーをはじめ社会の受容性等を総合的に判断した上で意思決定を行うことになる。Innovationを効果的・効率的に実現するには、新たな発想、研究・開発、評価、そして社会実装までを迅速に繋ぐためのTransdisciplinary、すなわち分野を超えた知の統合によって創出された新たな学問分野と学術に裏打ちされた手法が欲しい。これは人材育成を含めて、多様な分野の研究者が連携・融合しながら取り組む課題であり、そのためのTransdisciplinaryな研究推進が必要である。
    平成26年度の公募から科研費に特設分野研究が新設され“スタディ・セクション”方式による審査が行われているとのことである。審査に多大な時間と労力を要するが、競争的研究資金配分機関と審査体制が一層強化充実され、多分野の審査員が議論を戦わせながら課題を選考する機会が拡大し、分野横断による新たな研究分野の開拓に拍車がかかることを期待したい。
   
    1)鈴木基之他、環境研究の発展と環境学分野の創成(前編、後編)、科研費NEWS、2012年度、Vol.2およびVol.3
    2)内閣府 総合科学技術・イノベーション会議・基礎研究及び人材育成部会・中間とりまとめ、
       (http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/innovation/jinzai/)

※所属・職名は執筆時のものです。

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