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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.80(平成27年9月発行)

「私と科研費」

坂口 志文 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授
坂口 志文
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授

平成27年度に実施している研究テーマ:
「関節リウマチを中心とした自己免疫病の免疫学的基盤の解明と新規治療法・予防法の確立 」(基盤研究(A))

このエッセイを委嘱されて思い返してみると、私が科研費を貰い始めたのは40歳を過ぎてからであることに気がついた。以来20年、科研費にほぼ全面的に依存して研究したのは、特定領域研究、特別推進研究のそれぞれ5年、合わせて10年である。科研費依存の研究期間が短いのは、40歳を過ぎるまで米国で研究生活を送っていたことによる。本稿執筆の機会に、米国での研究費獲得体験を思い出し、科研費、特に若手研究者への支援について少し感想を述べてみたい。
    米国での研究期間が長かったのは、渡米後3年目に、破格に気前のよいフェローシップを幸運にも獲得でき、ポストドクとして3年間、自分の研究室をもって5年間、計8年間、給料と研究費の面倒をみて貰えたからである。このフェローシップ(Lucille P. Markey Scholar Award)は、ケンタッキーダービーの優勝馬を何頭も所有するような資産家の女性の遺言で、彼女の死後15年以内に遺産(5億ドル)をすべてバイオサイエンスの振興に使い切るようにとあり、そのための財団が設立されたことによる。バイオサイエンスの様々な分野から、毎年16名が公募で選ばれ、15年の間に113名がこのフェローシップで研究し、現在その大部分が欧米の第一線の医学生物学研究者として活躍中である。このフェローシップは、ポストドクから独立研究者への橋渡し研究費(bridging fund)のモデルとして後々高い評価を受けている(米国National Research Councilの2006年報告)。当時、私の研究は時流の免疫学研究からは異端と見られかねないもので、フェローシップ採用の通知を受けた時には喜ぶと同時に米国の科学の懐の深さを見る思いがした。米国で研究を続けて7年後、フェローシップの終了前に帰国の決心をしたのは、折よく科学技術振興事業団(現:科学技術振興機構)の「さきがけ」研究が始まり、その第一回公募に応募して採用されたためであった。「さきがけ」研究は、利根川進博士のノーベル賞受賞後の提言で、若手研究者の独立を支援するため発足したものと聞いている。私の場合、日米のこのような研究者育成研究費のおかげで、30歳代の10年間、小所帯ながら独立して研究に集中でき研究を継続できたのは、振り返ってみて大変幸運であったと思う。
    科研費は、基礎研究、応用研究に関わらず、創造的な科学の発展を支援するものとされている。では創造的な科学にはお金がかかるのだろうか。少なくとも、医学生物学分野の歴史を見る限り、最初の発見、発明は、必ずしも大型研究費を必要としないものも多いように見える。むしろ、それが広く認められ研究が急速に発展していくとき、研究が競争的になり、ある程度大型の研究資金を必要とするように思う。最近の大発見、大発明であるiPS細胞にしろ、micro-RNAにしろ、最初はあまり大きな研究費は必要としなかったかもしれない。昔から、天才と凡人の差はアイデアの量であって質ではないという。であるならば、創造的な科学の発展には、研究成果の“歩留まり”は悪くとも、ある程度広く、長く、研究費を支援する必要があるとも言える。一方、共通研究設備、共通施設の人員を充実させ、個々の研究者が研究の遂行に必要とする研究費額を軽減する必要もあろう。また、科学の重大発見、発明の意外性、予測不能な面を考慮すると、未成熟でも潜在的に有望な研究を拾い上げ研究費を提供できる余裕が支援制度に欲しいように思う。
    今も昔も、若い研究者が独立して自分の研究室を立ち上げるのは多くの困難を伴う。私の周囲で見聞する範囲でも、研究室の立ち上げ時に、研究スタッフの雇用、新研究室の整備資金を十分提供される例はまれである。誰でも立ち上げに困難を伴うのは当たり前、そこを乗り切るのが甲斐性と言ってしまえばそれまでであるが、現在の科研費制度にも工夫の余地があるように思う。研究資金を競争的にすれば研究が活性化されるわけではない。例えば、科研費応募の際、研究室立ち上げ時であることはどの程度考慮されているのであろうか。研究費の額もさることながら、新たに始めた研究が軌道に乗るのに時間がかかるとして、5年間くらいの継続的支援は可能なのであろうか。研究成果、進捗状況の評価は、厳密、公平に行うとして、高評価ならば同一研究テーマの継続的支援が容易にならないだろうか。人文学、社会科学、自然科学を問わず、科研費制度の一層の充実を望みたい。

※所属・職名は執筆時のものです。

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