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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.79(平成27年8月発行)

「研究者生活AtoZ:研究者としての原点、現状、そして限界突破へ」

加藤 俊一 中央大学副学長、理工学部・教授
加藤 俊一
中央大学副学長、理工学部・教授

平成27 年度に実施している研究テーマ:
「実空間・情報空間におけるグループ内での感性的共生機構の研究開発」(基盤研究(A))

学部4年生の卒業研究が研究者としての入り口と考えると、今日までの研究者生活の約2/3は、何らかの形で科研費のお世話になってきた。3つのフェーズに分けて考えてみたい。

A.研究者としての原点
   いわゆる卒研生として京都大学工学部情報工学科の矢島脩三先生&上林弥彦先生の研究室に配属された時から、「科研費の申請書作り」(正確には、当時は完全に手書きだったので、清書作業)の補助見習いとして参加することとなった。もちろん、研究的な経験をようやく始めた段階で、清書している内容を理解することで精いっぱいだったが、それでも、(a) 研究にはストーリーがある、(b) わかりやすい説明・表現を心がけること、そして何よりも、(c) 研究費は獲得しに行くものであるらしいことを学んだ。卒業研究を本格的に経験する前に、こういう経験ができたことは、工学系研究者としてのコンピテンシーの基礎になったと思う。(そういえばこの年、上林先生は在外研究でほとんど不在。(d) 研究テーマは、与えられるものではなく、自分でテーマを見つけて、(e) 先輩たちと相談しながら問題を定式化し、(f) 人に成果が見えるように進めることも学んだ。)
   大学院は、情報工学専攻の坂井利之先生の研究室に進学した。お世話になった6年間の内の4年間は、いくつかの科研費(一般研究(A)×2、試験研究×2)で走っていたパターン情報処理系のプロジェクトに学生として参加させて戴いた。プロジェクトの成果に自分も責任(の一端)を担うようになると、先生方の研究に対する姿勢、(g) 十年先、二十年先の社会をイメージして、それに必要な基礎技術に目星をつけて、今、取り組む、(h) 基礎研究といえども出口イメージを明確にする、そして、(i) うまく成果につながらない時、代替の方法を思いつくのも実力のうちであることを、自分も体験することができた。(坂井研究室では、学術的知識はたいして学べなかった出来の悪い学生だったが、研究の進め方については、坂井先生から、数度、みっちりとお灸をすえられたことは忘れ難い。)

B.研究者としての現状
   工業技術院電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)に奉職後も、参画していた大型プロジェクトが終わり、次の展開を図ろうという時期に、上林先生にお声がけ戴き、データベース系の総合研究(A)に分担者として加えていただいた。広い意味では情報系の内だが、パターン情報処理とデータベースという、(j) 当時としては方向性の違った二つの分野をつなぐ研究に科研費の枠組みを利用して挑戦させて戴いた。これらの経験は、その後、「感性?何それ?」という通産省内の声にもかかわらず、自分自身がリーダーの一人となって工業技術院のヒューマンメディアプロジェクト(感性をキーワードにヒューマンセントリックな情報技術を構築する)を立ち上げる際にも大いに役立ったと感謝している。
   また、中央大学理工学部に転職の後も、幸いなことに継続的に科研費により、上記プロジェクトの基礎固め的研究や、次の展開を図る研究を、進めさせて戴いてきた(基盤研究(C)、(B)、(S)×2、萌芽研究、挑戦的萌芽研究×2、そして現在は基盤研究(A))。結果として、感性情報処理、感性の工学的モデル化、感性データベース、感性ロボティクスなど、感性情報学に関するいくつかの概念・考え方を世界に向けて発信できたと考えている。
   この間、研究者コミュニティとしては日本感性工学会の設立・発展に取り組みつつ、研究としては、「感性情報学」という領域横断的な性格を持つ学術分野の成立にも取り組ませて戴いた。(k) 科研費の分科細目的には、比較的大きな領域(知能情報学)の片隅から、時限の細目、さらに、細目の一部から、独立した細目へと発展する過程を、研究者の一人として経験させて戴いたことになる。
   一方で、ここ何年か、大学のマネジメント業務(研究推進担当副学長)の忙しさにかまけていたつもりはないものの、研究プロジェクトが基盤研究(S)から(A)に、ややスケールダウンしたことに関しては、共同研究の仲間たちや研究室の学生たちに申し訳ない気持ちである。(l) あるべき研究の方向性を理解し、現場の実情を知り、機関・組織の研究力を高め続けるためには、マネジメント側の研究推進担当自身も、研究者として走り続けるセンスが必要だろうと思っている。

C.研究者としての限界突破へ
   電子技術総合研究所勤務時代、(m) 研究者は、ユニークなことはもちろん、他の研究者が取り組みたくなるような新しい領域の開祖となるオリジナルな仕事をし、かつ、競争の中でもベストな結果を出し続けることが求められると教わった。
    そのような志で進んできた一方で、「感性情報学」の領域が、科学技術の中で認知され始めたころから、自身の発想の仕方が保守的・自己規定的になってきているのではないかとも危惧している。(つまりは、発想のスケールが小さくなってきた?)
   研究者としては、(n) 新しい領域を拓くオリジナルな仕事を志向しつつも、そこに安住せず、自らの仕事・ささやかな成果を打ち破って、より大きな世界を目指すべきなのだろう。研究者生活とは、自己肯定と自己否定の無限ループといえるかもしれない。
   以上、「研究者生活AtoZ」としながら、第n項までしか整理できなかった。研究者としては、まだまだこれから、未熟でもあるし、成長の余地があるということだと思いたい。
(以上)

※所属・職名は執筆時のものです。

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