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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.69(平成26年10月発行)

「科研費改革、今後の課題」

佐藤勝彦 自然科学研究機構・機構長
佐藤 勝彦
自然科学研究機構・機構長

私は宇宙論・宇宙物理学の理論研究者であり、それに必要な研究費は大きなものではない。しかし、国際会議、研究会出席の旅費や計算機関係の経費を大学の基盤的経費、校費(国立大学法人化後は運営費交付金)だけではとてもまかないきれない。これまで研究生活が送れたのは科研費のおかげと深く感謝している。特に昭和57年、東京大学の助教授に採用され、自分の研究室を持った頃はパソコン、計算機ターミナルなど何もない状態で、科研費なくしては研究室の立ち上げは困難だった。一般研究(C)で少額だが基礎的研究費を獲得し、総合研究、重点領域研究の分担者となって研究室の整備を進めていった。院生も増加し、宇宙観測グループとの協力や、また他大学の研究者との共同研究も増えるにしたがって、より大型のCOE形成基礎研究費や基盤研究(S)をいただき成果を出すことができた。
  私が科研費を初めていただいた頃、科研費は外国出張には使用できず、院生の国内旅費すらも出すことができなかった。また使用できる時期もその年度の2月くらいまでで、とても使い勝手が悪かった。民間の科学振興財団の研究援助金と比べると、同額でも半分くらいの価値しかないとも言われたものである。しかし、科研費が国から直接ではなく日本学術振興会から交付されるようになり、また学術システム研究センターが置かれたことから、科研費制度の改革は大きく進み科研費の使いやすさは飛躍的に改善された。特に繰り越し使用が平成15年度より可能となり、さらに平成23年度には、一部科研費については基金化もされ単年度制の弊害も大きく改善された。今後さらに基金化が全科研費に広がることを期待したいが、使いやすさという点では、素晴らしい制度となった。実際研究者の間で使いやすさでは最も評価されている公的研究費である。
  しかし、それにもかかわらず、激動している国際社会、また我が国の少子高齢化社会の状況で学術研究のあり方も問われており、科研費制度もそれに応じてさらに改革が必要である。近年、日本経済の不調から出口指向の研究が必要と広く喧伝されている。科研費を減額し他の科学技術関係予算に変えようとする議論もされている。科研費は学術研究を通じて「知」の創造を進め人間社会に貢献するものであり、目先の出口を求めるものではない。しかしこれは当然ながら日本社会の基盤である科学技術の根幹を強化することであり、同時に研究活動を通じて人材の育成を図っていることから、日本のイノベーションに大きく貢献しているのである。企業人からも直接出口に向けた技術改良を望むような希望はほとんど聞くことはなく、研究者の独創性に基づいて、思いもつかないところに出口を新たに発見することや、さらに新たな入り口を発見することを求めている。これらこそ日本の国力を強めることに他ならない。科研費はまさにその役割を果たしているのである。
  国の予算の半分が国債、借金であることを考えれば、研究費の成果を最大化するために研究費制度の不断の改革が求められている。平成26年7月に発行されたサイエンスマップ2010&2012によるならば、世界の国々と比較したとき、日本の研究分野は伝統ある確立した分野で引用数の上位論文が多いが、新しく生じた分野、分野融合的分野では相対的に少ない。将来を見据えたとき、分野融合的新分野の創生は不可欠である。科研費では、研究種目として「挑戦的萌芽研究」も設けられ、また分野分類表「系・分野・分科・細目表」も時々見直しがおこなわれ、融合分野などが時限付き分科細目として加えられ、融合分野の振興も図られている。しかしながら、そもそも細目表があまりにも細かく、これが近隣分野との融合的研究の妨げになっているのではないかと思われる。分科細目の大括り化が行われれば、自然と融合的研究も進むのではないかと思われる。もちろん大括り化は容易なことではない。分科細目は諸学会の中で年会の分科会名にもなっていることもしばしばで、研究者にとって自分の居城でもあるからである。また、大括り化したとき審査をいかに行うのかも大問題で、審査方式の大幅な変更も伴わざるを得ない。
  現在私は科学技術・学術審議会学術分科会(平野分科会長)の下に設けられている研究費部会の長を務めている。学術分科会では、学術研究の意義など根本にさかのぼって審議を行い、平成26年5月に「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(中間報告)を取りまとめた。その中で学術研究は、イノベーションの源泉そのものであり、まさに「国力の源」であることが強調され、その基盤を支える科研費の充実を求めている。この議論を受け、研究費部会では、科研費改革の基本的な考え方と具体的な改革方策の一定の方向性を取りまとめ、9月に「我が国の学術研究の振興と科研費改革について(中間まとめ)」として公表している。この部会に新たに設けられる作業部会と日本学術振興会学術システム研究センターとの連携により次回研究費部会の為の具体案が作成される。是非多くの研究者から科研費改革について意見を発信していただきたい。

※文部科学省 科学技術・学術政策研究所、サイエンスマップ2010&2012、NISTEP REPORT No.159、2014年7月 http://www.nistep.go.jp/research/sciencemap

※所属・職名は執筆時のものです。

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