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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.68(平成26年9月発行)

「極域における氷の掘削研究」

東 久美子 情報・システム研究機構 国立極地研究所 准教授
東 久美子
情報・システム研究機構 国立極地研究所 准教授
平成26年度に実施している研究テーマ:
「グリーンランド深層氷床コアから見た過去15万年の温暖化とその影響評価」( 基盤研究(S) )

私は大学院修了後、ニューヨーク州立大学、防災科学技術研究所等を経て、1998年3月に国立極地研究所(極地研)へ異動した。極地研での研究テーマは極域の氷床・氷河で掘削した氷(アイスコア)の分析による過去の気候・環境変動の解明である。極地研に異動して以来、科研費から多大の支援を受けてきた。科研費は、研究者の自由な発想で基礎研究を行なうことができる数少ない貴重な研究資金であるとともに、コストパフォーマンスが最も良い研究資金の一つであると思う。近年、科研費制度の大幅な改善がなされてきたが、運営費交付金が年々削減される中で科研費の重要度は一層高まっており、更なる改善を願う。

アイスコア研究の実施には、大きく分けて、アイスコアの掘削、分析、分析データを使った研究、という3つのステップがある。この中で特にアイスコアの掘削と分析には膨大な時間と労力を要する。2000メートルを超える深さまでの掘削になると、掘削だけで3年以上かかり、プロジェクト立案や掘削機の開発、物資の輸送、基地の建設等の準備を含めると10年以上かかることも多い。極域の氷床・氷河は、人が住んでいないアクセスの難しい場所であり、プロジェクトの実現には様々な困難があるため、計画の立案と準備に相当の時間がかかるのである。

南極では、これまでは主に、南極観測事業費として極地研に措置される予算で掘削プロジェクトを推進することができた。長年にわたる準備の後、南極内陸のドームふじ観測拠点では、2006年、3035mの掘削に成功し、70万年以上に及ぶ気候・環境変動を研究することが可能になった。ドームふじで掘削した貴重なアイスコアの分析と研究にかかる経費については、幸いにも私の研究仲間が申請した科研費が複数採択されたことによって、大部分をまかなうことが可能になった。

一方、グリーンランドではNEEM計画(北グリーンランド氷床深層掘削計画North Greenland Eemian Ice Drilling)の下、2008年から2012年にかけて14カ国からなる国際チームが、グリーンランド北西部で2500mを超えるアイスコア掘削を実施した。私は日本の代表としてこの国際掘削プロジェクトに参加したが、北極研究には南極観測事業費のような仕組みがなかったため、この国際プロジェクトに日本が参加できるかどうか、最後まで決めることができなかった。情報・システム研究機構及び極地研の首脳部と事務方のご尽力のお陰で、機構長裁量経費、極地研の運営費交付金などをかき集めていただき、何とか3000万円の参加分担金を支払えることが決まったのは、NEEM計画が走り出して1年を経た後であった。その後、非常に幸運にも平成22年度に科研費の基盤研究(S)が採択され、日本人研究者のグリーンランド出張経費、観測物資やアイスコアの輸送費、アイスコア分析装置購入経費、分析経費などを手当てすることができた。採択が決まった時は、本当に嬉しかった。

南極ドームふじや北極グリーンランドでのアイスコア研究は、科研費がなければ実施することができなかったことは明らかで、科研費には大変感謝している。しかし、国の財政状況が厳しい時代に、今後の掘削計画推進のための経費を確保できるかどうか、大変危惧している。南極内陸では100万年を超える「世界最古のアイスコア」を掘削して氷期-間氷期のサイクルが4万年から10万年に変化した謎に迫ろうと、世界各国が掘削地点の選定とプロジェクトの実現にしのぎを削っている。日本はドームふじ観測拠点近傍に候補地点を持っているが、どのようにして経費の目途をたてるのかは、大きな課題である。グリーンランドでも、デンマークが中心となって、グリーンランド氷床の安定性を研究するための新しいアイスコア掘削計画が立案されており、日本は、アメリカ、ドイツ、フランス、スイスとともに参加要請を受けている。しかし、1億数千万円の参加分担金が必要になり、運営費交付金からの捻出は大変困難である。科研費を頼りにしたいところだが、科研費には大規模な掘削計画を推進できるほどの高額なものが非常に少ない。ドームふじやグリーンランドのアイスコアからは、気候・環境変動に関して従来予想もできなかった意外な研究成果が得られ、Nature誌、Science誌を始めとするインパクトの高い国際誌に掲載されて注目を集めているが、プロジェクト立案から、このような研究成果が出るまでに非常に長い年月が必要であり、5年程度という短期間に一定の研究成果を取りまとめる必要がある現在の科研費の制度では、計画段階での応募が難しい。アイスコア研究以外にも、同様の問題をかかえる研究は沢山あると思う。研究成果創出までに時間がかかる研究や、国際プロジェクトへ参加経費が必要な研究にも対応できるような科研費制度を作っていただけることを切に望む。

国際プロジェクトの場合、日本一国だけで研究を推進することができず、他国と足並みを揃える必要がある。運良く科研費が採択されても、他国の事情により、プロジェクト開始が遅れた場合、科研費の執行を数年延期することができるようなシステムができると便利である。更に、短期的な研究成果への要求がますます厳しくなっていく中で、アイスコア研究のように計画から成果創出まで時間のかかる研究を、若手が夢を持って推進していけるような成果の評価システムを導入していただけることを希望する。

※所属・職名は執筆時のものです。

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