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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.66(平成26年7月発行)

「セーフティーネット」

貝沼 亮介  東北大学 大学院工学研究科 教授

貝沼 亮介
東北大学 大学院工学研究科 教授

国立大学運営費交付金が年々削減され末端の大学研究者に配分される研究費が減額されていく現状にあって、研究室運営の責任を任されている身としてはその台所事情が常にストレスとなっています。そのような中で、NEDOやJST等が募集する他制度による研究費ももちろん大いに役立ちますが、なんといっても科研費が最も頼りになる最後の頼み(セーフティーネット)となっているのが実感です。なぜ、科研費がセーフティーネットなのか、本稿を依頼された後、その理由について私なりに改めて整理してみました。

その第一は、もともと科研費という制度の目的が研究者の自由な発想から出るテーマを支援する点(すなわち、完全なボトムアップ)にあるからです。 “気付き” から始まる新しい研究から得られる成果には、少なからず意外性が伴い、その中から更なる新しい“気付き”が生じます。開発研究の様な実用化というニーズ1点に収束させる研究ももちろん重要ですが、“気付き”が“気付き”を生み出し、多分野への多様なシーズとして発散してゆく基礎研究も同じくらい重要です。科学技術の進歩にとって、前者は短期的、後者は長期的な重要性を占めており、国の政策としては両タイプの研究制度がバランスよく存在することが重要だと思います。そのような中で、民間団体による支援を除けば、科研費はおそらく後者のタイプを支援する唯一の公的支援制度と言えるのではないでしょうか。

第二の理由は、制度の多様性です。新学術領域研究、特別推進研究、基盤研究、挑戦的萌芽研究といった段階的に助成金額の異なる多数の事業があるばかりか、研究室を持ったばかりの研究者や年齢制限を設けた若手研究者に対する配慮など、これほど行き届いた助成制度は世界的に見ても他に類は無いのではないかと思います。これらの中から研究者がやりたい研究の規模や内容に合わせて複数選択できることは、実にありがたい限りです。

第三の理由は、その使いやすさです。小職が大学職員になりたての25年前と比べると、海外出張、謝金、雇用費、年度繰越など想像できないくらい使いやすくなりました。他の公的支援制度と比しても、最もフレキシビリティーの高い制度になっていると思います。とはいえ、ルールを破る研究者が後を絶たず、その度に罰則規定の強化や誓約書の提出など利便性から逆行する手続きが導入されているのは非常に残念です。

さて、小職は今からちょうど10年前、大学との兼務で文部科学省学術調査官を拝命し、科研費に関連した業務をさせて頂きました。現在の学術調査官の業務内容はよく知りませんが、当時は科研費制度に関する助言から研究課題審査に関する実務まで広範なものでした。月に何度も東京の文科省会議室に集まり、特定領域研究や特別推進研究といった大型種目の審査現場や科研費制度の見直しを議論する重要な会議にも立ち会わせていただきました。もちろん、学術調査官は審査に直接関与することはありません。むしろ研究者の視点に立ち、文科省の担当課の皆さんへの助言やサポートが重要なミッションだったと思います。

約2年の任期中、最も記憶に残る出来事は、最終年度に他の学術調査官と協力し科研費制度の在り方を検討するための調査を行ったことです。大型科研費の審査委員経験者や学識経験者へのアンケート調査を行うとともに、分担して米国、英国、ドイツなどに出張して当局担当者にインタビューし、世界主要国における公的研究費補助制度の特徴をまとめあげました。最終報告書の詳細ははっきりとは覚えていませんが、申請および審査の効率性・有効性、申請者および審査者にかかる負担等を総合的に見て、日本の科研費制度が国際的に決して劣った制度ではないとの強い印象を持ちました。

こんな中で、小職の担当は理工系でしたがその他の研究分野も加えると20~30名もの調査官と分野を超えて親しくさせて頂いたことは、個人的にも非常に楽しい経験でした。ちなみに、当時他大学に所属されていた先生方(数名)や担当されていた事務方(1名)が、その後不思議にも東北大学に集められ、つい昨年も元調査官同窓会仙台支部を開催し楽しい時を過ごしました。

さてこの様に、学識経験者ばかりでなく歴代の学術調査官や担当事務官等の努力の結果として、数十年以上にわたり改善が繰り返されてきた科研費は、日本の風土に合うすばらしい助成制度だと思います。便利で使いやすく柔軟性の高いこの“セーフティーネット”を今後も継続的に改善・拡大し、次世代へ引き継ぐことがこの時代のアカデミアに生きる我々の責務ではないでしょうか。そのためにも、当然のことではありますが、応募・審査・使用時どの段階においても研究者自身が利己的な行為を慎み、不正行為をしないことが重要です。

最後に、現在削減され続けている運営費交付金の影響をまともに受けている規模の小さな国立大学や若者人口の減少により経営的に厳しい私立大学の研究者にとって、残念ながら科研費が必ずしもセーフティーネットになっていない実情を危惧します。シーズがある確率でしかニーズと結合しないとすれば、日本の長期的な国益にとって継続的に数多くのシーズが生み出される環境を保つことが不可欠です。その意味で、面白いアイデアを持つ研究者に対しては、少額でも高い確率で研究費が行き届くような制度の改善が求められていると思います。

※所属・職名は執筆時のものです。

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