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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.64(平成26年5月発行)

「科研費への感謝と期待」

本庶 佑 京都大学 大学院医学研究科 教授
ほんじょ たすく
本庶 佑
京都大学 大学院医学研究科 教授

私のすべての研究成果は科研費無くしては全く存在しなかった。1974年米国から帰国して東京大学の助手に着任して以来、毎年科研費のお世話にならなかった年はない。しかも、大変幸運なことに大阪大学在職中(1982年)に特別推進研究という大型の科研費が発足し、第一回からほとんど途切れることなくこの研究費をもらえてきたのは多くの研究者から見ると例外的なケースであり、その意味では私が述べることは贅沢な戯言に聞こえるかもしれない。一方で私は日本学術振興会学術システム研究センター所長、また総合科学技術会議議員として約8年近くに亘り、科研費の全体像について様々な検討を行う立場にあった。したがってその視点も含めて私の願いを込めたエッセイとする。

まず昨今、日本の自然科学分野の研究費の配分が出口志向に偏っていることは大変残念なことである。ただ、これは日本に限らず世界中の政治家にこの病気が蔓延しており、各国の研究者がいつもこの問題をディナーテーブルでの話題にしている。しかしまたこのことは今に始まったことではない。古き良き時代から生命科学で言えば圧倒的にがん研究費に手厚く配分されて来た。基礎研究の意義を国民(≒政治家)に理解してもらうには、研究者は根気強く基礎研究がいかにイノベーションにつながるかを説明し続けなければならない。そのためにはなによりもその実例をたくさん示すことが重要である。幸いにも私が1992年に偶然みつけたPD-1分子の阻害抗体が今年中にはがんの免疫治療薬として認可を受ける運びとなりそうである。基礎研究の発展としてPD-1抗体でがん治療が可能であることを動物実験で証明したのは2002年のことである。そこで2005年から2009年まで厚生労働省から医薬品開発研究の支援を受けた。このように医薬品の開発には、分子の発見から20年、現象の発見からでも10年を越すことが珍しくない。アカデミアの良いシーズは必ず生かされる。シーズなくして革新的製品はない。

科研費に関して、私の第一の提案は審査の仕組みの改善である。これは、すなわち制度の改編を伴うものである。日本の科研費の最大の問題は「細分化」されすぎていることである。このことによって研究の全体の流れを見失い、自分の専門領域のことしか考えない研究者が再生産されている。さらに、研究費の分野細目のみならず、種目も特別推進研究に始まり、基盤研究(C)や奨励研究に至るまで、あまりにも細かい金額によるカテゴリー分けが多いことである。それぞれが発足したときの政治的な背景等で研究費の増額のために打ち出された政策的なものもあったと思われるが、そろそろ全体像をみて、大きな枠組みにすべきと考える。従来から主張しているように1件の研究費で少なくともひとつの研究グループがきちんと研究できる額(これは分野で異なる)を配分すべきである。そのためには独立して研究をするグループがもらう研究費とそうではない個人研究として支給する研究費とを大きく分けるべきであろう。生命科学分野では前者は数千万円程度、後者は100万円程度であろう。これにより前者の応募件数を絞り込める。審査のしくみはなるべく合議制を導入すべきである。20人程度の合議制を行うことによって、審査の恣意的な偏り、あるいは無知による見過ごしなどを防ぐことができる。米国の生命科学の分野における研究費は大部分がNIHグラントによっているが、ここで採用されている合議制は世界中の模範となっており、米国の生命科学研究が強力であることの最も大きな理由であると私は考えている。

次に科研費の制度を国際標準に近づけるべきである。私は大型研究費に関しては外国人のレビューアーを入れ、研究計画調書も重要なところは英語で提案するようにすべきと考える。もちろん、報告書も英語であるべきである。私は長年に亘り報告書が何故日本語でなければならないのかと日本学術振興会、文部科学省に問題提起をしているが、いまだに明確な解答は得られていない。一度、国民に成果を報告するために日本語でなければという返事が来たが、推測するにお役人が読めないのは困るからだろうか。科研費は日本人による日本のためになる研究を支援するということは正しくない。研究の成果は日本人のためだけのものではない。サイエンスとは世界共通の基盤でなければならない。成果が外国にも影響を与え、認知されることによってのみ日本の研究のレベルが上がっていく。現状では国立大学の外国人研究者の比率を10%とするという第4期科学技術基本計画とも整合性がない。科研費の重要性を認識し、さらに国民的な理解を得るためにも引き続き研究者自身が科研費制度の改革に努力をすべきであろう。

※所属・職名は執筆時のものです。

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