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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.56(平成25年9月発行)

「科研費雑感」

東京薬科大学・生命科学部・学部長 深見希代子先生
深見 希代子
東京薬科大学・生命科学部・学部長

 「私と科研費」の執筆依頼を頂き大変光栄に感じている。これまでの執筆者を見てみると創刊号は小林誠日本学術振興会理事(当時)(ノーベル物理学賞受賞)であり、その後の執筆者も錚々たる方々である。少々身の丈不足を感じるが、日頃感じていることを少し書いてみたい。

 さて科研費獲得は「研究者として一人前である」ことの証と考える研究者は少なくない。特に若手研究者の独立や支援をサポートする制度が増加してからは、講座制にどっぷり浸ってボスに面倒見てもらうという感覚は薄らいでいると思う。尤も我々の世代は、「若い頃は年齢の高い先生達に研究費が回り、自分がその年齢になったら、今度は若手有利な状況になった」と呟いている研究者もいる。「昔はお姑さんに尽くし、今度は嫁のご機嫌をとる」の心境である。

 初めて頂いた科研費はボスの分担者であったので、その時の記憶は薄い。しかし代表者として初めて頂いた時の「嬉しいというよりホッとした気持ち」は忘れ難い。科研費をもらうという事、それは既に一定の実績があり、しっかりした将来の研究目的を持ち、そのためのアプローチ法を描けるということである。そうしたプロセスが評価されたというのは、やはりパスポートを得た様な安堵感である。それから約25年、基盤研究、特定領域研究など途切れる事なく研究費を頂く事ができ、感謝の思いでいっぱいである。特にラボを持つことになった直後に採択になった科研費の有り難さは今でもはっきり覚えている。科研費を得られるかはラボの責任者にとっては死活問題である。質の高い研究が続けられるか、楽天的な性格にも拘らず、夜悪夢に魘されるような日々であった。この間一貫してリン脂質代謝の細胞増殖と分化における機能解析を行い、この代謝異常ががんや皮膚疾患など様々な疾患発症に関与することを明らかにしてきた。今科研費の御陰でこうして研究を続けてこられた事を感謝すると共に、出口戦略として疾患治療にこれからも貢献したいと思っている。

 これまで文科省の様々な委員会の委員をさせて頂いたり、規模の大きな研究費の審査をさせて頂いた経験は、科研費を多様な角度から知る事ができたという点で大変貴重な体験となった。使いやすい科研費を目指して、研究活動スタート支援や基金化導入を議論したが、実際に基金化が実現したことは大きな進展であったと思う。また審査する側の視点から、どういう情報が欲しいのか、どういう書き方がわかりやすいのかを学んだし、優れた研究計画調書に感嘆したこともあった。若い世代は「科研費の書き方」の類いの本で知識を得ている様であるが、周りにいる審査経験者に研究計画調書を見てもらうと良いと思う。「これではダメだ」と私自身もアドバイスをしたことがある。とは言え、最近は逆に若い世代から学ぶ事も多い。眩しい位優秀な若い研究者に、畏敬の念を抱くことがある。

 研究費は基盤的資金と競争的資金とのバランスが重要だと思っている。JSTなどの大型研究費も含め、競争的資金は実力本位であるため納得しやすい様に思えるが、競争のための申請書類や評価用の書類作成ばかりしていては、本来割くべき研究に費やす時間がなくなってしまい弊害が大きい。また激しすぎる競争では一部のトップ大学に研究資金が偏ってしまう。日本では特にトップ10大学辺りへの研究資金の集中が著しい。次の世代の独創的研究の育成にはトップ下の層の厚みこそが重要である。そのためには、大きな研究資金の採択の際に少し違う判断基準も併用すべきだと思う。地域枠、私大枠を考慮しても良い。また受給における重複制限をきつめに掛けるべきだと思う。重複制限を厳しくする事には賛否有るのも承知しているが、1人の研究者がいくつもの大型予算を得る事は、研究テーマが異なっているにしてもあまり歓迎すべき事ではないと思う。研究者の限られた時間で統括できる能力にはやはり限界がある。組織的な大規模研究を否定するのではないが、同時にある程度のラボの規模で独自性を培う種蒔きを忘れてはいけないだろう。そういう意味でも個人研究のボトムアップ型科研費である「基盤研究」を基本とすべきだと感じている。

 ちょうど今、研究費の不正使用やデータ捏造のニュースが報道されている。忸怩たる思いである。背景にあるのは、大型研究費に見合う成果を求められることに対するプレッシャーやポスドク・若手教員のポジションの不安定さであろう。プレッシャーは悪いことばかりではないし、競争社会では仕方のないことである。「JSTが研究者に倫理研修義務化」という見出しが新聞に載った。一部の研究者モラルに欠く行動により、不正防止のためのシステムが次々に導入され、結果として煩雑な手続きとなって行き、多くの研究者がその対応で仕事量が増える事になる。国民の信頼を得て、科学の成長戦略に貢献するためにも、研究者は真摯な姿勢でありたいと思う。

※所属・職名は執筆時のものです。

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