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研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



■No.49(平成25年2月発行)

「科研費と基礎研究」

東京理科大学・総合研究機構・教授 東京大学・名誉教授 黒田 玲子先生
黒田 玲子
東京理科大学・総合研究機構・教授
東京大学・名誉教授

 山中伸弥先生に2012年度のノーベル医学生理学賞が授与され、iPS細胞研究の応用にますます熱い期待が寄せられている。今日の日本に必要なのは、科学の成果を産業競争力に結びつけることであることは言うまでもない。が、それと同時に、“次のiPS細胞”を育てることも必要である。

 至る所でイノベーションが必要と叫ばれている。新しい、世界を変えるような技術や製品が、残念ながら最近日本からあまり出てきていない。色々な要素は開発されていて、「実は自分たちもやっていたのだが・・・」と悔しがる声をよく耳にする。でも、要素だけでは駄目で、それらを結合・組織化する力がないといけない。それが元々の意味のイノベーションなのかもしれない。そして、そのためには、異質なものや人との接触が不可欠である。最近、「日本人はチームワークが下手だ」という日系2世の斎藤ウィリアム浩幸氏の発言を聞き、ひどく納得した。日本人はチームワークが得意だからサッカーなどで良い成績を収めることができたのだなどという発言をよく耳にするので、驚かれる向きも多いかもしれない。しかし、これはグループワークである。チームとグループの違いは、グループは比較的同質の人の集まり、チームは異質の人の集まりである。異質をうまく統合昇華することで、初めて全く新しい価値が生まれてくるのではないだろうか?

 “次のiPS細胞”を育てるには、研究者の好奇心に基づいた独創的研究が不可欠である。イノベーションと独創とは、別の次元のことである。「高齢化社会に向けた安全な調理方法の開発」という課題で研究を募っても、電子レンジは開発されなかったかもしれない。マイクロ波の研究者が、水の回転振動エネルギーを使って内部の水を加熱することに着目し発展させた。緑色蛍光タンパク(GFP)は、今や世界中の分子生物学の実験室で使われている。下村脩先生は、何故オワンクラゲが光るのかを明らかにしたいという思いで大変な努力をされ、見事な成果を挙げられた。その後、チャルフィー、 チャンらがタンパク質をクローニングし、発光の機構を解明し、変異を入れ・・・と発展させたことで初めて、多くの人が使えるようになった。もちろん、第2種基礎研究と言われる段階、あるいは、応用研究、開発研究も重要であることは言うまでもないし、リニアモデルで研究が進むとは限らない。しかし、なんといっても、出発は基礎研究である。もちろん、基礎研究をしているのが決してえらいのではない。基礎研究者は、常に、自分の研究が、なんとか世の中の役に立たないかを考え続ける必要がある。時間と空間軸の中での自分の立ち位置をしっかり把握して、研究を進めていく必要がある。

 この様な基礎研究にもっとも貢献しているのが科研費である。研究者の独創力によって発案・計画された研究は、短期間には社会に恩恵を与えないものが多いかもしれない。しかし、人類の知の財産を増やし、将来大きな産業に発展するかもしれない。私は2001年から6年間、総合科学技術会議の議員を務めさせていただき、第2期及び第3期科学技術基本計画の作成にも関わった。そこで、一番力を入れたことの一つが、科研費の増額、そして、年度をまたがった運用である。額は着実に増え、その後も申請の仕方などに改革がなされた。平成13年度から間接経費が、平成23年度から基金化もかなり導入された。嬉しい限りである。

 私と科研費との関わりは、このように政策決定側で関与したばかりではなく、もちろん、研究者として恩恵を受けており、いつも感謝している。私と科研費の出会いは、多くの研究者と比べればかなり遅く、途中で中断し、今再び科研費の恩恵を受けている。博士号をとってすぐに海外にポスドクとして行き、後にパーマネントポストにつき、11年間を英国で過ごした。帰国後、科研費がないと研究ができないために、慣れない書類作成に苦労しながら申請させていただいた。ありがたいことに、一般研究(C)、(B)、(A)、 基盤研究(B)などをいただくことができた。これがあって、DNAの塩基配列認識、キラリティー認識、固体キラル化学など、私の研究の基盤作りができたことは言うまでもない。その後、JSTのERATO、 SORSTに採択され、思いきり研究を展開することができてありがたかったが、この間は、科研費の申請を控えた。プロジェクトが終わり、研究員・技術員も予算もなくなってしまい苦労をしているうちに定年となった。新しい職場でさらに研究を展開したいと思っている。幸い、小規模ではあるが科研費をいただけ、鋭意研究室を立ち上げているところである。

 経済情勢が長らく停滞しているために、どうしても目的志向型・課題解決型の研究、短期間に成果の出る研究が重要視されがちである。しかし、長期的な目で、将来の日本を支える基礎的な学問に投資をしていくことも忘れてはならない。科研費のこれからのますますの発展を祈ってやまない。

※所属・職名は執筆時のものです。

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