お問い合わせ先

独立行政法人 日本学術振興会
研究事業部 研究助成企画課、研究助成第一課、研究助成第二課
〒102-0083
東京都千代田区麹町5-3-1
詳細はこちら

科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.48(平成25年1月発行)

「私と科研費」

早稲田大学・名誉教授・工学博士 吉村 作治先生
吉村 作治
早稲田大学・名誉教授・工学博士

 私が初めてエジプトの現地調査を始めたのが1966年ですから、はや46年が過ぎようとしています。また、早稲田大学に入学し、オリエント文明の農耕起源を専攻なさっていました故川村喜一先生にお会いし、「エジプト考古学をやりましょう」と申し上げたのが1964年ですから、約半世紀に近づいています。

 1966年のゼネラルサーベイの時は、日本とエジプト往復はタンカーで、向うの移動は日本から持っていったジープで、食糧は缶詰会社などから、大型カメラは写真機メーカーからと、企業のご好意で、機材などは無償で調査をさせていただきました。勿論ゼネラルサーベイで、エジプト現地で調査・発掘が出来るかを見極めるためのもので、自前でやるというのが原則でしたから、自分たちで稼いだ資金と、企業のご好意でやりました。笑い話になりますが、食糧を確保するためナイル川で魚を釣ろうと釣具メーカーから釣り道具5セットをいただいたこともありました。ともかく7ヶ月半、エジプトだけでなく、シリア、イラク、イランも訪問し、エジプト文明とオリエント文明の比較もしました。現地はエジプト全土、目ぼしい遺跡のほとんどを2回にわたって踏査し、エジプトでの発掘調査の確信が持てましたので、今度は文部省の科学研究費の助成を受けての現地調査研究を立案し、申請いたしました。

 申請にはエジプト政府の許可が必要ですが、許可をとって文部省の助成がだめになったらどうしようとか、その逆の場合はと、故川村喜一先生と私は悩みましたが、ともかく「やるっきゃない」というわけで、発掘許可を取るため、私がエジプトに行きカイロ大学に聴講生として入り、文化省考古局(現考古省)と交渉しました。少し公的な立場の方が、発掘許可を取るのにいいだろうということで、在エジプト日本大使館のアルバイト嘱託にさせていただき、考古局と交渉しました。当時の考古局長の故ガマール・モクタール博士を日本にお呼びし、日本の考古学を知っていただき、何とか発掘許可を取ることが出来ました。

 そして、文部省の科学研究費の助成を、幸運にも1回で受取ることが出来ました。申請時に必要資金の半分を、科学研究費で賄う計画書を提出しましたが、ヒアリングの時、「後の資金はどうするの」と聞かれまして、「企業からの寄付で賄う予定です」と答えましたところ、「そんな不安定な計画ではだめだから、経費を減らしギリギリの予算にすれば、助成額を増やす」とおっしゃって下さったのです。今では夢のような話です。おっしゃって下さったのは、当時東京大学教授だった故三上次男先生でした。「但し頑張って発掘調査をし、研究を進め博士号を取らなければ、助成金を返してもらうからな。」と励ましだか脅しだかわからないことを言われました。その約束は三上先生のご存命中には果たせませんでしたが、「太陽の船復原研究」で博士号を取得させていただきました。

 それから約半世紀、1年も途切れることなく科学研究費の助成を受けています。勿論、初代故川村喜一教授、2代目故桜井清彦教授、そして3代目は私です。それとともに、発掘調査資金は、科学研究費助成だけでは賄いきれなくなり、故村井資長早稲田大学総長の時、早稲田大学エジプト基金を作っていただき、企業献金、印税、講演料、出演料などの自己調達も含めて、発掘調査研究を約半世紀、1年と途切れることなく継続しており、現在では10名以上の若手研究者が育ち、国際学会などでも発表しております。これもひとえに科研費のおかげと感謝しております。

 でも、何回も助成中止の危機がありました。中東は政治状勢が不安定ですし、比較的安定していたエジプトでさえ、中東戦争がこの間2回、湾岸戦争、イラク戦争と危うく調査が出来なくなりそうな時もありました。特に2011年1月のエジプト革命の時は緊迫しておりました。しかし、幸運なことに、調査はこうした状況とは全て時期がずれており、1回も調査を中止したことはありません。また、隊員もこの間、延べ1000名を越しましたが、調査中には1名として亡くなるとか事故で怪我するとか、重病で途中帰国するということはありませんでした。また、資金の面でも苦しい状況ではありましたが、予算抑制を徹底し、限りある資金で調査することを徹底してきましたので、続けることが出来たのだと思います。

 最後に、そこまで続いたのだし、資金の自己調達も進んでいるのだから、科研費はいらないだろうとおっしゃる方がいますが、科研費は費用を賄うことは勿論のこと、国から認めていただいている、国の支援を受けているナショナル・プロジェクトであるとエジプト考古省の大臣をはじめ、高官の方に胸を張って納得していただけることと、それに伴って、自分たちの意識を高めるのに、大切なものです。科研費は大切な国民から預かった税金です。決して無駄にはしないという意識は持たなければなりませんが、それより国から、国民から支援されているという感覚が、発掘調査研究に大きなパワーをくださるのです。今や私たちはエジプト考古学において世界一を目指しています。

※所属・職名は執筆時のものです。

これまでに掲載された記事は下記からご覧いただけます。
過去の掲載記事はこちら。