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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.47(平成24年12月発行)

「科研費による研究者養成」

神戸大学・学長 福田 秀樹先生
福田 秀樹
神戸大学・学長

 科研費について思い出すのは、私が神戸大学に着任した後に初めて採択されたときのことである。
 大学で勤務し始めたのは、平成6年のことである。それまで20数年間勤務していた民間企業の研究所とは異なり、まさにゼロからのスタートであった。数名の研究員や学生とともに試行錯誤を繰り返しながらの研究であったが、なかなか成果が出ず、悩むことも多かった。さらにその状況に追い討ちを掛けたのが、平成7年に発生した「阪神・淡路大震災」である。
 着任してから10ヶ月目のことで、ようやく大学での教育・研究にも慣れてきたというときに、大地震により、実験機材はもとより研究室自体、見るも無残な姿となってしまった。当初は、復旧するためにいったいどれくらいの時間がかかるのか、皆目見当もつかなかった。半ば呆然としながら、研究室の机の上に散乱する書類や器具類、床に散らばるガラス片、壁に刻まれた亀裂を見るにつけ、途方にくれる日々であった。

 そのような状況の中、目の前が明るくなるニュースが飛び込んで来た。科研費の通知が来たのである。私が代表として申請した研究課題が採択され、研究員や学生とともに大変喜んだことを今でもはっきりと覚えている。そして、その科研費により、その後の私の研究は飛躍的に発展したのである。

 当然のことであるが、研究は一人ではできない。大きな基盤研究などチームを組むような申請では、その組織力を維持し、活かすことも重要である。
 各研究者の連携を密にするために、意思の疎通は欠かせないものである。これはどの世界でも言えることであり、企業でも言い古されたことであるが、「報告」「連絡」「相談」は、組織人にとっては基本中の基本であろう。
 大学の研究室では、若い学生が多いため、彼らの斬新なアイディアや、研究に対する「がむしゃら」とも言える姿勢から、新たな成果が生まれることが多い。実は、私もその経験を持つ1人である。私が反対した実験を、私に黙ってあえて実施した学生が、思いもよらないようなデータを出すことはしばしばある。そして、そのような環境で仕事ができるのは研究者として刺激的であり、幸せなことであると思う。

 思うに、科研費は、人文・社会科学から自然科学まですべての分野にわたり、基礎研究と応用研究の発展を支えている。基礎研究は、応用研究にもつながるものであり、時間はかかるかもしれないが、何らかの形で社会に還元できる結果を生み出す。
 基礎研究のみだけでは社会への還元は難しく、基礎、応用、そして基礎と応用をつなぐ研究、これらのバランスが重要であると思う。
 無論、必ずしも実用化のみが社会貢献ではない。どのような研究をしてどのように社会に貢献するか、という点は研究費を受ける研究者それぞれが考え続けるべき課題でもある。

 また、申請書についてであるが、作成する際は、なかなか良い文章や構成が浮かばず、悩ましい思いをすることも多々あるが、新しいテーマや研究を考えているとき、特によいアイディアを思いついたときなどは、ことのほかうれしく、楽しいものである。
 そのアイディアを申請書へ具体的に記載する際、実は研究内容はさらにブラッシュアップされ、より良いものへと変わるのである。この過程が特に若手研究者にとっては非常に重要であり、研究力だけでなく、説明するための論理や表現力も身につくこととなる。
 本年度ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった京都大学の山中伸弥教授は、ある講演の中で「研究者にとって、プレゼンテーション能力は大変重要である。グラフや図をわかりやすく工夫し、理解を求める必要がある。」と話されていた。科研費申請書の作成は、まさにこの「プレゼンテーション能力」を養うことにも役立つものであると思う。
 また、グローバル化が求められる現代にあっても、日本語でしっかりとした申請書を作成することは、英語による表現力以上に大切であろう。

 プロジェクト研究とは異なり、研究者の自由な発想から生まれる学術研究を支える科研費は、研究成果を生むことはもちろんのこと、その研究を進める「人」をも育てるという意味で、社会に対する貢献度は極めて大きいものである。そして、研究を通して、人と人とが「つながり」を大切にし、ネットワークを築いていくことで、わが国の研究は充実し、発展しているのである。その成果が真理を究め、人類の発展に寄与することは誠に素晴らしいことであると思うのである。

※所属・職名は執筆時のものです。

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