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科学研究費助成事業

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私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.31(平成23年8月発行)

「科研費に育てられた情報学の研究」

九州大学・総長 有川 節夫先生
有川 節夫
九州大学・総長

 日本における情報学は、1967年頃から研究施設や情報工学科等が創設され出して顕在化した若い学問分野である。ここでは、情報科学・情報工学、ソフトウェア科学・工学、知能科学等を包含したものとして情報学と言う。その後、この情報学は、現在に至るまで、コンピュータ及びネットワーク技術と歩調を合わせながら急速に発展・深化し、社会に浸透し、社会を、いや社会インフラや社会システムのあり方さえも変えつつある。

 しかし、その黎明期においては、教授陣は、当然、情報学固有の教育を受けて育ったわけではなく、電気工学や数学、物理学出身の研究者達が、それぞれのやり方で方向や手法、理論を文字通り模索していたように思う。

 私は、数学科出身であるが、学部4年からTuring機械や計算可能性、帰納的関数等を勉強し、数学は使うが既存の数学とは違った学問としての情報学に始めから取り組むことができた。それでも、その手法や発想は、どうしても数学的なものになりがちだった。情報学の研究を、情報学が本来対象とすべき課題やデータや計算、それらを扱うコンピュータ、それらを利用するユーザを意識して展開できるようになったのは、「特定研究」への参加があったからだと思っている。

  1970年代に、3年ものの連続した二つの特定研究「広域大量情報の高次処理」と「情報システムの形成過程と学術情報の組織化」に、形式上は一つの計画班のなかの「研究分担者」としてではあるが、実質的には、研究の構想・計画から、実施・展開、ソフトウェアの開発、論文の作成、発表等に至るまでのすべてに、学生もいない状況で取り組む、という貴重な経験をすることができた。

 これらの「特定研究」には、理学・工学を中心に実に様々な分野や背景をもった研究者が参加し、各種の成果報告会があり、お互いに適当な競争心を抱きながら、多くのことを学ぶことができた。その中には、委員会と称する各班を横断した重要課題を究明するための任意の研究会もでき、実に活発な白熱した議論が展開された。また、海外の研究動向の実地調査や地道な勉強会も実施された。そうした中から、日本におけるデータベース研究、特に関係データベースの研究が着実に力を付けてきて、今日に至る発展の基礎が築かれたように思う。もちろん、私自身も勉強させてもらい、情報検索やデータベースに関する独自の考えを持って研究が展開できるようになった。

 私自身は、その後も、特定研究や重点領域研究に次々と関わり続け、公募班から始めて、計画班の研究分担者、計画班の班長という形で、次第に責任ある立場を得て、積極的にそれぞれの課題に真正面から取り組み続けた。後で見てみると不思議なことに、それぞれの研究課題は自然なものであり、情報検索から、人工知能における帰納推論や類推、機械学習といった具合に、ある種の連続性と一貫性のあるものだった。こうして、情報学に関する方向性や見識を持てるようになり、データマイニングや機械発見を科学哲学も含めて体系的に追究する「巨大学術社会情報からの知識発見に関する基礎研究(略称:発見科学)」という特定領域研究(A)を、日本における最高の研究者約60名の参加を得て展開することができた。スタート時にこの名前を冠した国際会議を立上げ、それを特定領域研究主催で毎年開催した。この国際会議は終了後も現在に至るまで、毎年世界各国で持ち回り開催されている。

 私は、本格的なソフトウェアシステムの開発も行ってきたが、そこでは、「試験研究」のお世話になった。この種目は、今はないが、具体的にものをつくるためには、企業の参加も得られるとても良い制度だった。

  以上は、私自身が研究者として深く関わってきた科研費であるが、情報学の研究と情報学の若手研究者の育成という面で、特定研究、重点領域研究、特定領域研究の果たしてきた役割は極めて大きいと思っている。米澤明憲先生の特定領域研究「「社会基盤としてのセキュアコンピューティングの実現方式の研究」の推進と評価」は特に高い評価を得て、多くの有能な人材を育成してきた。最近では、国全体の政策の推進に参画し、重点的に推進する「特定領域研究(C)」としてスタートした安西祐一郎先生を領域代表者とする「ITの深化の基盤を拓く情報学研究」や、その後継的な色彩の強い喜連川優先生の特定領域研究「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」も大きな研究成果をあげ、有能な情報学の若手研究者の育成に貢献している。こうした多くの実例が示すように、情報学の研究と研究者育成には、「特定領域研究」の枠組みがうまく適合し、大学共同利用機関としての国立情報学研究所による計算機環境等の共通基盤の構築と相俟って、研究や経費の効率面でも最も適していると思っている。

 情報学分野はともかくも、私自身は間違いなく科研費に育ててもらったと思っている。この1月までの数年間、科研費を含めた研究費に関する事項を調査審議する「研究費部会」の仕事を、こうした感謝の気持ちを持ちながら務めさせていただいた。

※所属・職名は執筆時のものです。

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