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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.14(平成22年2月発行)

「顧みれば27年間、科研費常習犯」

高エネルギー加速器研究機構長 鈴木 厚人先生
鈴木 厚人
高エネルギー加速器研究機構長

 私の研究歴は科研費と切っても切れない。科研費による研究成果は、概算要求による施設整備を充実させ、それがまた、新しい科研費研究を促進させた。しかし、科研費との出会いは高エネルギー物理学研究所(現高エネルギー加速器研究機構)を経て東京大学に移ってからである。そして、1982年から2008年までの27年間、研究分担者、代表者として、毎年科研費の支援を受けた。

  • 1982年度~1984年度:促進研究「素粒子大統一理論の検証;水チェレンコフ検出器を用いる核子崩壊の実験」(代表者:小柴昌俊)
     カミオカンデを育てた科研費である。カミオカンデの目的は、核子崩壊現象を検出して素粒子大統一理論を検証することであった。KamiokandeはKamioka nucleon decayの略。
  • 1985年度~1986年度:一般研究(A)「陽子崩壊実験」(代表者:須田英博)
     カミオカンデでもっとも暗い時代。核子崩壊はなかなか見つからない。カミオカンデの先は闇であった。小柴先生はここで、太陽ニュートリノを検出するためにカミオカンデ装置の改造計画を立案する。
  • 1986年度~1987年度:一般研究(A)「太陽ニュートリノの観測」(代表者:戸塚洋二)
     試行錯誤の末、カミオカンデ改造が終了し1987年初頭より本格的な太陽ニュートリノ検出実験が始まった。そして、2ヶ月もたたない2月23日に超新星爆発に伴うニュートリノの検出に成功する。検出器改造がなければ、見逃していただろう。
  • 1986年度~1987年度:試験研究「大口径・高時間分解・低雑音光電子増倍管の開発」
     研究代表者として初めての科研費で、スーパーカミオカンデ用の光電子増倍管の開発であった。
  • 1988年度~1990年度:重点領域研究「素粒子的宇宙像の総合研究」(代表者:菅原寛孝)
     当時はまだ、素粒子研究者と宇宙研究者は別人種の感があったが、この科研費によって、今でいう融合による新学術領域が構築された。計画研究の分担者、また総括班の取りまとめ役として大いに研究を満喫した時期であった。
  • 1990年度:試験研究(B)「巨大水チェレンコフ用高性能光電子増倍管の開発」
     スーパーカミオカンデ用の高性能光電子増倍管の開発完了。
  • 1991年度~1994年度:特別推進研究「大気ニュートリノ中のミュー・ニュートリノ欠損の解明」(代表者:戸塚洋二)
     カミオカンデは20年来の謎であった太陽ニュートリノ欠損現象を実証すると共に、大気ニュートリノ欠損現象を発見する。KamiokandeはKamioka neutrino detectionの略と呼ばれるようになった。 この大気ニュートリノ異常現象はスーパーカミオカンデによってニュートリノ振動現象と同定され、ニュートリノ質量の発見となる。カミオカンデによるニュートリノ研究成果は、スーパーカミオカンデの概算要求を後押しし、1991年に建設計画が承認された。
  • 1995年度:重点領域研究「低バックグランド・宇宙起源反ニュートリノ検出器の開発」
     スーパーカミオカンデ建設が終わりに近づき、カミオカンデ、スーパーカミオカンデの研究潮流から離れて、新たなニュートリノ研究に取りくもうと東北大学に移り、カムランド実験を1994年に提案した。その門出となった科研費である。
  • 1996年度~1998年度:基盤研究(A)「ニュートリノ物理に関する総合的研究」
  • 1997年度~2003年度:COE形成基礎研究+特別推進研究(COE)「極低放射能環境下におけるニュートリノ科学の研究」
     カムランド実験はCOE形成基礎研究課題に採択され、1997年度から装置建設がスタートした。そして、1998年にニュートリノ科学研究センターが創設された。5年の歳月を経て2002年1月から実験が始まり、その年の12月に主に日本の原子力発電所で生成される反電子ニュートリノの振動現象を検出して、反ニュートリノ質量発見となった。この結果は30年間の謎“太陽ニュートリノ欠損現象”の解明に終止符を打った。2002年は小柴先生がノーベル賞を受賞された年であり、12月のノーベル賞講演までに論文を発表して、カムランドの結果が講演に加わった。
  • 2004年度~2008年度:特別推進研究「原子炉起源、地球起源反電子ニュートリノと太陽起源電子ニュートリノの高精度精密測定」
     2005年にカムランドは、地球内部エネルギー源より生成される地球反電子ニュートリノの検出に成功した。地球科学研究に新たな手段を提供するニュートリノ地球科学の幕開けである。大気ニュートリノは核子崩壊の雑音、地球反ニュートリノは原子炉反ニュートリノの雑音であった。よく言われるように、“今日の雑音は、明日の信号”を実感した。

 これまで、科研費に関する委員会の委員依頼は、断らずに全て引き受けてきた。これは科研費に支えられてきたことへの恩返しと思っている。今の科研費制度について満足しているわけではない。改善すべきところは改善し、より良い科研費制度が構築されることを望む。

※所属・職名は執筆時のものです。

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