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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.114(平成30年8月発行)

「若手研究者の研究環境と科研費」

齋藤 政彦 先生
齋藤 政彦
神戸大学 副学長、数理・データサイエンスセンター センター長
平成30年度に実施している研究テーマ:
「代数幾何と可積分系の融合 - 理論の深化と数学・数理物理学における新展開 -」(基盤研究(S))

私の元来の研究分野は代数幾何学や複素多様体であり、純粋数学の分野である。
代数幾何学や複素多様体論は、我が国が3名のフィールズ賞受賞者を輩出した伝統のある分野である。一方、良い微分方程式であるパンルヴェ方程式などの可積分系や、数理物理学の超弦理論、特にカラビ・ヤウ多様体のミラー対称性予想や、様々な量子不変量の理論の発展に伴って、この伝統ある分野において新しい研究が展開している。現在の基盤研究(S)「代数幾何と可積分系の融合 - 理論の深化と数学・数理物理学における新展開 -(2017-2021)」においては、代数幾何学と可積分系という異なる分野の新しい研究の連携・融合と、数理物理学からの新しいアイデアを取り入れた理論の深化を目指している。

   振り返ってみれば、私の学部・大学院での教育・研究環境は、素晴らしいものであった。学部・大学院は上野健爾先生にお世話になった。修士課程で小平邦彦先生の複素多様体論や楕円曲面論を深く学んだ。これは、常に私の研究の芯となり、新しい理論を学ぶ時の実例を提供してくれた。また、発表されたばかりの森理論や、高次元代数多様体の極小モデルプログラムなどを速やかに学ぶ機会が与えられた。また共形場理論や超弦理論に関わる数理物理学グループとの共同研究会、勉強会なども企画され、江口徹先生や若き日の大栗博司先生の話を直接聞くことが出来たのは、得難い事であった。

   若手研究者は、学位を取り、職を得てからも、しばらくは、必死に自分の研究の方向性を確立しようと、もがくものではないだろうか。私も、中々、独自の研究の方向性を決められずにいた。少々言い訳めくが、そのこともあり、自分が代表者として積極的に科研費の申請を行う余裕がなかった。幸いなことに、当時、上野先生が研究代表者を務められていた重点領域研究「無限自由度の可積分系の理論とその応用(1992-1997)」においては、世界的な研究者が多数招聘され、様々な研究集会が企画された。若手研究者の研究環境には特に配慮されていた事を有難く思う。
現在は、以前より遥かに科研費の重要性は増しており、若手研究者も科研費に申請することは必須となっている。私の様なシニアな研究者は、一歩進んで若手を巻き込む魅力的な研究計画により科研費を得て、その分野の研究を活性化するためリーダーシップを発揮するべきなのではないか?

   学位取得後約10年たち、1996年に現在の大学に教授として赴任したが、それ以後は、積極的に科研費を申請し、ほとんど切れ目なく採択されてきた事は非常に幸運であったと思う。基盤研究(B)に3度(1997-1999, 2000-2002, 2004-2006)採択された後、基盤研究(S)に3度(2007-2011,2012-2016,2017-2021)採択されている。
   基盤研究(S)に採択された後、2007年からホームページを立ち上げて、研究集会の情報などを掲載して、情報公開を行っている。また2007年から2016年の10年間に国際研究集会を37回(内フランス2回、ベルギー、台湾各1回を含む)開催した。この間、フランス、ハンガリー、インド、台湾、米国、韓国などの研究者との交流や、共同研究も進んでいる。また、関連分野の若手研究者を特命助教として雇用したが、現在、色々な組織で研究者として活躍している事は嬉しい限りである。

   基盤研究(B)の研究では、細野忍氏と高橋篤史氏と共同で、有理楕円曲面の自己積から得られるカラビ・ヤウ多様体について、任意種数の曲線の数え上げとBCOV理論の正則異常方程式と保型形式との関係、Gopakumar-Vafa予想と整合する整数値BPS不変量の提案を行ったことが特に印象に残っている研究である。

   また、基盤研究(B)と基盤研究(S)を通じて、パンルヴェ方程式という100年以上前に分類された微分方程式を代数幾何学的に特徴づけ、モノドロミー保存変形から得られる微分方程式系が一般に幾何学的パンルヴェ性という良い性質を持つことを示す事を目指した。これには、当時九州大学箱崎キャンパスに在籍していた稲場道明氏と岩崎克則氏の協力を得る事が必要であると判断し、共同研究を提案し、神戸から福岡の箱崎に何度も通った。

   安定放物接続のモジュライ空間を非特異代数多様体として構成する事ができ、リーマン・ヒルベルト対応が「全射かつ固有な双有理解析写像」である事が示されれば、モノドロミー保存変形の微分方程式系が幾何学的なパンルヴェ性を持つことを厳密に証明できる事がわかるのである。これらの事を、パンルヴェVI型およびその拡張であるガルニエ系について示したのが2006年に出版された稲場・岩崎・齋藤の共著論文である。基盤研究(S)ではこの結果を基礎にして、稲場の確定特異点、任意種数、任意階数の場合への拡張、齋藤・稲場の一般的な不分岐不確定特異点の場合への拡張がなされた。
   現在、一般の分岐不確定特異点の場合に拡張を試みている。さらに、接続やHiggs 場のモジュライ空間の構造や、モノドロミー・ストークスデータのモジュライ空間の構造も詳しく調べられてきており、良い座標の理論、幾何学的Langlands予想の検証などが、現在の研究のテーマとなっている。また、高次元代数多様体の極小モデル理論、またパンルヴェ・タウ関数と共形ブロックの理論との不思議な関係など興味は尽きない。

※所属・職名は執筆時のものです。

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