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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.113(平成30年7月発行)

「多様性と探究を許容した科研制度に支えられた研究キャリアを振り返って」

野嶋 佐由美 先生
野嶋 佐由美
高知県立大学 学長
平成30年度に実施している研究テーマ:
「脆弱性を抱えた家族のレジリエンスを促進するケアガイドラインと教育プログラムの構築」(基盤研究(B))

日本学術振興会の研究助成の担当者から、「私と科研費」への投稿のご依頼をいただき、科研費が如何に私の研究キャリアの基盤を支えてくださっていたかと再認識した次第です。
   昨今の科研の採択は、大規模化・連携化へと、さらに、成果志向、学際的・文理融合、産業界との共同研究などに急速にシフトしています。もちろん、研究成果の可視化、社会への還元、効率についても重要な視点ではありますが、このシフトのために、結果として、逆説的に一種の集中化や多様性の排除が起こっていると思われます。
   最初に採択された科研は、1986年。以来現在までの21年にわたり、11の研究課題を遂行することができました。地方大学ではパソコンもまだ手が届かず、手書きであったことを、懐かしく思い出します。科研費による助成は拡大・拡充化に向かっている時期でもあり、私の研究計画書に対してもご支援いただけました。この時代の科研費助成は多様な規模・領域の研究や若手の研究的視点を育んでくださったと思います。
   私の研究領域は看護学であり、健康問題を抱えている人に対して、より健康的な生活が営なめるようにと、看護学の観点からヒューマンケアを提供することをテーマに研究する領域です。健康問題や生活問題に直面している人々が置かれている状況も含めてその人を理解し、看護のヒューマンケアを開発していくこと、さらにそのような看護ケアを提供できる看護者の教育について研究を行ってきました。
   私の研究キャリアは、臨床経験を基盤として、自我の脆弱性を抱え、意思決定能力に限界を抱えている精神障害者とその家族に対する看護ケアの在り方を探究するところから出発しました。はじめて採択された研究は、「精神分裂病者とその家族,看護者のセルフケア」でした。その後は「自己決定を支える看護実践モデルの構築」「精神科看護領域で活用されている看護介入法の類型化」など、看護実践の場で展開されている看護介入を、専門看護師の暗黙知を丁寧に掘り起こし、看護の実践をモデル化する研究に取り組みました。さらに、専門看護師が有している暗黙知を初心者である看護学生にも伝授できる看護教育モデル、「看護倫理の教育モデルの開発」「教育-臨床への移行を支える精神科看護技術教育のモデル開発」へと拡大していきました。
   私の第二の研究領域は家族看護学です。家族看護に関しても、精神病院での看護師としての臨床経験に端を発しています。University of San FranciscoのSchool of Nursing博士課程で家族看護学の理論や研究方法を学び、帰国後は家族看護学を看護学の一つの領域として発展させることに専念しました。科研費による研究では、「慢性疾患を持つ小児を抱える家族の対処行動に関する測定用具の開発」「喘息疾患患児の家族対処とその効果に関する多元的データに基づいた有効な指標の同定」と、家族が有する能力やパワーに注目した研究を行いつつ、家族看護学を実践に根づかせる方法を模索して「対応困難な家族に関する看護の分析を通して有効な家族看護モデルの開発とその検証」を行い、家族看護の実践モデルとして「家族看護エンパワーメントモデル」を開発し、その臨床的妥当性について、「難病患者と共に生きる家族の在宅生活を支える看護ケアガイドラインの開発」「研究-実践の連携による家族に対する看護エンパワーメント介入の評価研究」を行い、また、現在は「家族看護レジリエンス支援モデル」を構築しつつ、臨床的な妥当性を探究しているところです。この21年を振り返ると、日本家族看護学会の仲間と共に、家族を看護ケアの対象として位置づけ、家族看護の基本的な知識と看護介入を看護の基礎教育に取り入れ、大学院での家族看護学の教育、専門看護師を育成することに取り組んできました。これらの学究的歴史を振り返ると、科研による助成金を得た研究活動及び研究成果から、多くのバックアップご支援をいただいたと感謝するところです。
   さらに、本学では、全学的な支援体制を設け積極的に科研費に応募しています。その結果は、本学の学部構成上から決して大規模研究ではありませんが、高い新規採択率を獲得し、多くの教員が科研費の助成を得て研究活動を行ない、その成果を発信しています。これも、ひとえに科研費助成が多様性を尊重してきた結果でもあると捉えています。
   一人ひとりの研究者にとって、研究キャリアは短距離競争ではなく、少し先を見定めてのマラソンであり、現在の大規模研究もそれに至るまでには多様な視点で、いくつかの小規模研究に基づいて発展してきています。このことを考えると、多様な研究視点と規模の、そして多様な研究者を支援することが可能な科研制度の枠組みを構築することを強く希望している今日この頃です。

※所属・職名は執筆時のものです。

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