お問い合わせ先

独立行政法人 日本学術振興会
研究事業部 研究助成企画課、研究助成第一課、研究助成第二課、研究事業課
〒102-0083
東京都千代田区麹町5-3-1
詳細はこちら

科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.104(平成29年10月発行)

「研究と教育、それに国際活動を支えた科研費」

氷見山 幸夫 先生
氷見山 幸夫
北海道教育大学 名誉教授

私は1980年にロンドン大学キングズカレッジで「日本と英国における文化空間の比較研究」により博士号を取得した後、北海道教育大学旭川校に赴任し、その後2015年3月に定年退職するまでの34年数ヶ月、そこで研究と教育に従事した。その間、研究代表者として8回18年間科研費の恩恵にあずかり、その効果は研究面にとどまらず、教育と国際活動にも及んだ。
   研究の主な対象は土地利用変化であった。旭川を手始めに、北海道、日本、中国、更にモンスーンアジアへと研究対象地域を広げ、成果をあげることができた。まず奨励研究(A)を2回獲得し、大縮尺の土地利用図と地形図の利用方法についての研究を進めた。そしてその成果を基に重点領域研究「近代化による環境変化の地理情報システム」の一部として「土地利用変化(データベース化と時空間分析)」(1990 ~1992年度)を計画し実施した。その主な成果物の一つに全国の土地利用の歴史的変化を表示するシステムLUIS (Land Use Information System)があるが、このシステムで用いたデータの大半は私が北海道教育大学の学生諸君や学外の協力者と共に数千枚に及ぶ旧版地形図の読み取りにより作成したものである。このシステムは国立環境研究所の支援でリメークされ、2015年12月より「全国土地利用データベースWeb版(LUIS Web)」として同研究所から公開されているので、ご活用いただければ幸いである。25年も前の研究の成果が、一部にせよ今再評価されているのは嬉しいことである。
   上の重点領域研究が一段落した後、私は世界の食糧需給や持続可能性に大きな影響を与える中国の土地利用変化の研究に着手した。まず準備研究を行い、その成果を踏まえて新たに発足した基盤研究(S)に「日本・中国の土地利用・土地被覆変化に関する地域間比較研究」(2001~2005年度)を応募したところ無事採択され、存分に研究を進めることができた。その成果は更に基盤研究(S)「アジアにおける持続可能な土地利用の形成に向けて」(2009~2013年度)へと繋がった。なおこの最後の科研費研究は、かねてより構想していた大型研究のパイロットスタディとして実施したものである。その最終成果は研究終了後3年半となる今年(2017年)秋にSpringerから刊行される予定であり、アジアの持続可能な土地利用の形成に向けた大型研究の呼び水になることを期待している。
   私は教育系大学の教員としては比較的多くの科研費を享受したが、それは研究活動の活発化を通して、授業内容や教育環境の改善にも大いに寄与した。特に卒論や修論で科研費研究に関わるテーマに取り組む学生については、科研費研究のパートナーとして、専用のコンピュータはもとより地図、資料なども豊富に揃え、研究環境を整えた。そして研究成果の多くは学生との共著論文として世に出した。野外調査を重視した二つの基盤研究(S)では、卒論や修論で取り上げた地域を、国内国外を問わず、学生が現地調査できるようにも配慮した。研究分担者や協力者も参加して国内外で実施した合同調査にも学生を可能な限り参加させたが、それは研究の補助というだけではなく、教育への効果を期待してのことである。教育大学ということもあり、教育効果は模擬授業や研究授業、研究発表やレポートなどの内容と質を見れば、在学中でも容易に確認できた。
   私は昨年(2016年)8月から国際地理学連合(IGU) の会長を務めているが、このアジアから二人目、日本からは初めての役職の拝命は、科研費なしでは不可能であった。重点領域研究「近代化と環境変化」が主催し、私が実行委員長として1991年8月に旭川で開催した「環境変化と地理情報システム」国際会議には、国内から約200人、国外から約100人もの人々が参加し、記念切手も発行された。この時にできた研究者間のつながりが、1996年に私がIGU内にIGU-LUCC (IGU Commission on Land Use/Cover Change) を立ち上げることを可能にした。私は1996年~2004年の間IGU-LUCCの委員長を務めたが、その期間のほとんどで基盤研究(B)ないし基盤研究(S)をもっていたため、自らの研究だけでなく、委員長としての職務の遂行においても存分に活動することができた。そしてそれが評価され、2010年にIGU副会長に選任された。幸いなことに2010年~2016年の副会長の任期の大半が二度目の基盤研究(S)の期間と重なり、研究面でも副会長としての職務の遂行においても大きな支えとなった。2016年のIGU会長の拝命はそれなしでは考えられない。
   以上のように大きな恩恵を受けた科研費ではあるが、問題を感じなかったわけではない。第一に、厳正でフェアな選考メカニズムがあるものの、斬新な研究、真に学際的な研究、学界に強固な基盤を持たない研究にとっては非常に厳しいものであることに変わりはない。例えば、現在地球環境研究の国際的枠組みとなっている「フューチャー・アース」に沿った真に学際的且つ超学際的な研究を受け入れる度量が現在の科研費にあるだろうか。第二に、年配の研究者が研究を続ける道が閉ざされている。定年退職者が科研費やその他の研究費を獲得するのは非常に難しい。大学によっては退職後も優れた研究者が研究費を獲得できるように配慮しているところもあるようだが、限られている。これは多くの税金をかけて育てた貴重な人材の浪費であり、国家的損失ではないか。自分自身が大学を定年退職した後、研究と国際学会会長の重職をほとんど手弁当で続けることになり、この国の不条理さが頭を掠めることの多い昨今である。

※所属・職名は執筆時のものです。

これまでに掲載された記事は下記からご覧いただけます。
過去の掲載記事はこちら。