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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.103(平成29年9月発行)

「科研費は学問の多様性を支えている」

川島 隆太 先生
川島 隆太
東北大学 加齢医学研究所 所長

総合大学の研究面における魅力と存在意義は、所属する教員が行っている学問の多様性にある。素人目には、時には玄人の目にも、その価値が良く理解できない、でもなんだか面白そうな研究に一生を費やしている教員に直接触れたときに、学生は学問の深淵を肌で感じ、同僚は新たな発想のヒントを得ることができる。大学という競争社会の中で、ともすれば目に見える成果優先の人事が行われるなか、さまざまな価値観を持った教員の自由な発想と行動を支え、結果、学問全体の多様性を担保しているのが科研費である。

  昨今は、例えば医学関連領域では、日本医療研究開発機構(AMED)に代表されるような、プロジェクト型の大型研究助成が目立つようになった。国の戦略目標に沿い、社会への説明責任をしっかり果たしつつ、特定領域の学問を先導する。現在そして近未来の社会の安寧と発展を支える大変に素晴らしい試みである。研究者にとっては金額も大きく魅力的であり、その競争本能を刺激する。獲得に成功すれば、その領域の王道を歩くことができる。よって自らの興味関心とは多少の乖離があったとしても、テーマが少しでも自身の研究領域と重なれば、無理をしてでも研究費を獲得するための行動を誘発する。

  学問の本質とは何か?科学が目指す最終ゴールはどこにあるのか?「人はどこからきて、どこにいくのか」これを知ることが、学問の本質であり、科学の最終ゴールであると私は信じている。
  国主導のプロジェクト型の大型研究が、このゴールに人類を誘ってくれるのか?答えは、否であろう。長くても十数年先までの未来を見越し、目に見える結果を短い期間で出すことを義務付けられた研究に、この問いの解は存在しない(はずである)。混沌とした学問の坩堝の中にこそ、科学の最終ゴールへの道の一端が隠れている(はずである)。
  科研費の役割のひとつは、この「混沌」を大学や研究施設から消し去らないところにある。たとえ、どのような研究を行っていたとしても、科研費を得ることができれば、独立した研究者としての立場が保証される。組織の中で、研究者は胸を張って、自分の信ずる道に没頭することができる。

  翻って、ここまでの私の研究者人生において、科研費の意義はどうであったか。脳機能マッピングという、我が国では当時は未開の研究を志し、ほとんど何の成果も得られぬまま悪戦苦闘の大学院時代を過ごした。師と仰ぐべき先達は国内には見当たらず、困り果てていた時に、論文で海外の先進的な研究の存在を知り、スウェーデンに留学、研究者としての一歩を踏みだすことができた。そして、師匠の猿真似ができる程度の知識と技術しか獲得できずに帰国した私を、温かく迎えてくれたのが科研費であり、科研費を通じて得ることができた研究者コミュニティの人脈であった。
  その後、幸いにも脳機能マッピング研究は研究者コミュニティで市民権を得ることができ、私も時流にのり、大型プロジェクトや産学連携関連経費により、チームを率いて研究活動を行うことができている。これは駆け出しの私に、独立した研究者としての立場を提供してくれた科研費のおかげであり、今でも深い感謝の念を抱いている。科研費を獲得することができなかったら、臨床医学の研究室における組織の論理に押しつぶされ、私は新しい領域の研究を自らの手で進めることをあきらめ、研究とは無縁の生活を送っていたであろう。

  現在の科研費のシステムに問題があるとすれば、競争的資金の名の通り、公明正大な審査が行われ、採否が決められているところにあるのかもしれない。常識人である審査員らの理解が及ぶ常識的な申請書でないと、良い評価を得ることはできず、研究費を獲得することができない。人類の未来を左右するような重大な発見や発明に繋がる可能性を秘めている種を自らの手で潰してしまっていることはないのか、科研費の書面審査中に一瞬私の頭の中をよぎるが、結局は限られた時間の中で常識的な採点をしてしまうのが常である。
  現状の評価システムでは、私が魅力を感じることを禁じ得ない、誰がどう見ても何の役にもたちそうにない、しかし、研究者が信念と誇りを持って行っている研究を拾い上げることは斯様にして難しい。こうした研究に研究費を割り当てるカテゴリーと審査システムが新たにできると、大学も科学全般も格段に面白くなるかもしれないと夢想している。

※所属・職名は執筆時のものです。

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