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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



■No.7(平成21年7月発行)

「科研費が私の光通信研究育ての親」

東京工業大学・名誉教授 末松 安晴先生
末松 安晴
東京工業大学・名誉教授

 科研費がなければ私の研究は存在しなかった。科研費との絆は、1)光通信研究の育ての親、2)日本の卓越技術の集成とネットワーク発信の構築、そして3)国の学術研究の推進など、誠に深い。


Ⅰ 科研費によって育まれた「動的単一モードレーザの概念その実現~超高速・長距離光ファイバ通信の端緒を拓く基礎研究~」

 私は、東京工業大学大学院博士課程を昭和35年(1960)に修了して、直ちに助手に採用された。学生時代にマイクロ波による通信拡充には限界があることを感じていた私は、さらに一千倍から一万倍もの大きな可能性を秘めた光通信を実現する研究を始めた。光通信は全く未開拓の分野であった。東工大には、研究のスタート台に立った研究者の卵が、自分の責任で独自に研究目標を決める、大学固有の優れた特徴が備わっていた。しかし、助教授に任官して研究室を持ったものの、約30万円の講座研究費のみでは、本格的な研究に取り組むのは遠い先の話に思えた。

 幸いにも、昭和41年(1966)に科研費(各個研究)47万円の支援を受けて大変に勇気づけられ、同時に、多くの先輩諸先生や、優れた大学院生に恵まれ、研究が進展し始めた。それでも研究室を整備するには約10年間を要した。その後、途切れることなく科研費拝受の恩恵に浴し、昭和46年(1971)には集積レーザ開拓の研究費が得られ、一つの波長で安定に動作するレーザ、後に動的単一モードレーザと呼ぶことになった、超高速光通信の実現に不可欠なレーザの概念を生み出し、それを達成するための原理を模索した。さらに、それを具体的に発展させるために集積レーザを実現し、それによって動的単一モード動作を達成した。

 昭和49年(1974)には、二つの分布反射器間の位相を180度変えた共振器を着想し、現在用いられている動的単一モードレーザの原理を明らかにした。さらに、昭和52年(1977)からは特定研究「光導波エレクトロニクス」を、そして、昭和54年(1979)からは特別推進研究の支援を得て、また、企業との連携も進み、長距離光ファイバ通信に必要な波長1.5μmのGaInAsP/InP半導体レーザの室温連続発振を世界で初めて達成した。さらに翌昭和55年(1980)に、1.5μm帯動的単一モードレーザを実現して超高速・長距離光ファイバ通信の端緒が原理的に開かれた。この頃には、科研費と大学の支援によって、クリーンルームが設置され、米国NSFからも視察に来られて、大学としては世界最高水準と云われたほどの充実した設備により研究が進展した。

 昭和59年(1984)に私達が発表した位相シフトDFBレーザは1.5μm帯超高速・長距離光ファイバ通信の標準レーザとして広く用いられている。昭和58年(1983)に提案した波長可変レーザは波長多重光通信に展開されている。こうして、1.5μm帯長距離光ファイバ通信は、陸上では昭和61年(1986)頃から、大陸横断海底ケーブルでは平成4年(1992)から企業において商用化され、その後のインターネット発展の基盤技術として普及した。動的単一モードレーザの単一性を表すのに学術用語として私が用いた近接モード抑圧比(SMSR)は、その後、国際標準規格用語として広く用いられている。私は、幸いにも、科学研究費の配分が、新しい学問分野への対応などにより見直されていった時期に研究に従事し、平成2年(1990)まで科研費の強力な支援を受けて光通信の基礎研究を進めた。一方、社会では光通信が無から立ち上がって発展し、社会を変えてゆく姿を楽しんだが、東工大学長に就任したので、当時の慣習に従って、それ以後は本研究への科研費申請を自粛した。


Ⅱ 日本の電気電子・情報関連卓越技術データベース(DB-JET)の収集とネットワーク発信~愛称「電気のディジタル博物館」~の構築

 戦後日本の技術開発は世界レベルに高揚して様々な新しい技術を生み出してきた。これらの卓越した諸技術を収集してネットワーク上で世界に、社会に、そして子供達に発信しているのが卓越技術データベース(DB-JET)~愛称「電気のディジタル博物館」~である。このDB-JETは、平成15年(2003)から今年までの7年間、私が申請者となって科研費の研究成果公開促進費、一般研究や特定研究の分野の支援を得て、電気関連5学会(文末の*)が約1,600件の技術を収録し、国立情報学研究所からネットワーク発信する形で構築された(http://www.dbjet.jp/)。
 技術内容は、各学会が年度毎に選定してきた技術関連の賞を基本とし、その表彰文を核にして技術内容を記述している。今年から国内用の専門向け、入門向け、そして、英文により、世界に向けて、我が国の電気技術の系統的な情報発信、子供たちへの理解増進活動に貢献している。
* 映像情報メディア学会、照明学会、情報処理学会、電子通信学会、電気学会


Ⅲ 科研費の充実と大学院学生教育の産官学連携

 私は、個人的に長期間、科研費の支援を得て研究してきたが、平成15年には科学技術・学術審議会会長として、大学の高い教育研究環境を構築する科研費などの国の研究費のあり方に大きな関心を持った。関係者の絶大な努力にもかかわらず、我が国の大学研究への国の財政支援が、先進諸外国に比べてGDP比で劣り、大学の国際競争力向上に支障がでるのではないかと指摘されている。科研費のような国の研究費が先進国並みに充実し、研究設備に止まらず、将来を担う優れた大学院学生の経済支援など、産官学連携で柔軟に活用される研究環境の到来を祈る次第である。

※所属・職名は執筆時のものです。

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