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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 今月は2名の方に執筆していただいています。

福田 裕穂 東京大学大学院理学系研究科・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員
沼尾 正行 大阪大学産業科学研究所・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員


■No.5-2(平成21年5月発行)

「研究に関するメタ研究の面白さ」

大阪大学産業科学研究所・教授・前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員 沼尾 正行先生
沼尾 正行
大阪大学産業科学研究所・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員

 技術者だった父の影響もあり、私は子供の頃から、プラモデルのメカを改造したり、ラジオや無線機を組み立てたりするのが好きな少年であった。ただ、教員の祖母と勉強好きな母に育てられたためか、技術者よりも科学者へのあこがれが強かった。大学の修士課程では情報系で人工知能を専攻した。修士課程修了後は、同級の多くが企業に就職して、豊富な開発資金を駆使して、技術開発に従事するとのことだった。私は、博士課程への進学を決めてしまい、周囲に止められそうになった。悩んでいると、翌年から研究費がつくという話が、指導教授からあった。今考えると、科研費の重点領域研究への参画が決まったわけである。その資金で、当時高価だったコンピュータ、UNIXワークステーションが購入できることになり、充実した博士課程時代を過ごすことができた。

 当時は、人工知能が一世を風靡しており、企業では実用的な人工知能として、エキスパートシステムの開発が盛んに行われていた。企業との研究会で、私の研究成果を紹介したところ、何の役に立つのかという感想が返ってきたのを覚えている。その頃の私の研究は、直ちに役に立つような代物ではなく、極々基礎的な研究だったのである。その後、エキスパートシステムの限界が明らかになってくると、企業の人工知能部門は次々と解体されていった。それを尻目に科研費を継続していただいて、本当の人工知能を目指す基礎的な研究を続けて来られたのは、幸せだった。

 以上のように科研費の恩恵に浴していたところ、2005年の夏に学術振興会の学術システム研究センターの研究員に推薦された。人工知能というのは、学問を含む知的活動そのものを対象にするメタな学問である。その観点からすると、学術システムを研究するのは非常に興味深い。しかし、常勤的主任研究員を拝命してしまったのは想定外であった。その責任は重く、時間的な折り合いもつけにくかったが、無謀にも引き受けてしまい、この3年間、あちらこちらにご迷惑をおかけしたと反省している。主任研究員は senior program officer と英訳される。学振の扱うすべての研究費について、審査方法などシステムの改善を図ると同時に、適切な審査委員を選考せねばならず、その仕事は多岐に渡る。私は、2007年4月から2009年3月まで科研費ワーキンググループ(WG)の主査を務めたので、その取り組みを紹介しよう。

 申請書記入項目の充実については、2006年に議論に参加させていただいただけであったが、申請者の目に触れたのは、私が主査の時であり、複雑すぎるとのお叱りを頂いたこともあった。審査を充実するには、材料となる申請書の充実がまず肝要であり、ご了解いただいたと考えている。

 人工知能によるデータ解析技術として、データマイニングの研究を行っていたので、科研費の申請データの分析にも取り組んだ。その結果の一部は、「科学研究費に関する各種データの分析」、「共同研究の関係を用いた研究領域の時系列解析」としてまとめ、学術システム研究センターのウェブページで紹介している。審査委員の利益相反の問題を明らかにするには、審査委員および申請者の研究コミュニティをよく調べておく必要がある。そのため、論文の共著関係に基づく解析が盛んに行われているが、学術システム研究センターの取り組みとして、申請書の代表者と分担者の関係に基づいて、研究者コミュニティを明らかにすることも研究したものである。その結果は、審査委員の選考、審査の際の参考情報、審査過程の検証の際に有用な情報になる。米国NSFでは、このような分析調査を専門に行う部門があると聞いている。学術システム研究センターでは、専任の分析調査員として博士号を持った研究者を雇用して、さらに詳細な分析を開始したところである。

 審査委員の選考も学術システム研究センターの重要な仕事の一つである。適切な審査委員を選考するには、元となる候補者データベースの充実が必要であり、毎年、新しい審査委員候補者がデータベースに追加されている。また、すべての審査結果についての検証を行い、審査コメントが極端に少ないなどの問題のあった審査委員を一定期間データベースから排除する一方、模範となる審査委員を選定し、2008年度は29名を表彰した。

 審査システムの国際化を図るべきだとの議論はよく行われ、米国NSFや欧州ERCでは、英語による申請書の審査を外国人も含めて行っているとの指摘もある。しかし、日本人のための研究費の審査に対して外国人審査員のモチベーションがあまり期待できないこと、審査内容の流出の問題もあることなどから、申請書全体を審査するのではなく、海外からの視点で申請者の業績や研究対象の国際的水準について評価してもらう形で、試行的に行うこととなった。 審査結果のフィードバックをもっと充実してほしいとの声はよく聞かれる。現状では、ヒアリングのない種目で、各人にコメントをフィードバックするには、その質を確保できるだけのマンパワーが確保できないので、定形所見の中から選択することにより、フィードバックを充実させることを検討している。このことにより、審査する側についても、審査基準を再確認できるという利点も生じる。

 長年親しくしている友人から、「挑戦的萌芽研究」って変な名前の研究費だねと言われた。その名が示すとおり、この種目では、第一段審査の審査委員全員が賛成しなくても、採択が可能なように評価基準を工夫している。リスクは高いかもしれないが、挑戦的な内容の研究の採択を増やす試みである。この評価システムが成功したかどうかは、今後の評価を待つことになる。ぜひ応募をお願いしたい。

 科研費WGでこれから検討すべき課題は多いが、総合・複合領域の第二段審査(合議審査)のやり方も、工夫が必要である。個人的には総合・複合領域で各細目についての第一段審査を行い、第二段審査は近い専門家のいる領域を申請者に選んでもらう形がよいように思う。

 退任した主任研究員の主観に偏ったエッセーとして、科研費WGの活動を紹介した。学術システム研究センターには、研究に関するメタ研究の題材が多くころがっている。研究者の皆様のお知恵をお貸し頂くと同時に、応援をお願いする次第である。

※所属・職名は執筆時のものです。

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