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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.95(平成29年1月発行)

「私と科研費」


伊藤 英司 先生
伊藤 英司
岡山大学 名誉教授

私は1969年(旧)岡山大学温泉研究所(温研)に助手として採用されてから、“地球内部に相当する高圧力・高温の状態を実験室的に再現して、そこに存在する物質の合成を行ってその物性を明らかにする”といった研究を行ってきた。大学院時代に取り組んできた多数アンビル高圧発生装置(KMA)が「高圧地球科学」のために活躍の機会を得たといえる。
   まず、温研の特別予算約500万円と採用していただいた故松本隆教授の科研費一般研究(B)約500万円を使って、加圧力1,400トンと250トン相当の高圧装置を製作導入した。1972年には、前者を用いて、地球マントルの構成を考えるうえで重要なマグネシウムケイ酸塩の合成と反応を世界に先駆けて示すことができて、大変幸運なスタートが切れた。しかし、研究の性格上、より高い圧力を安定的に発生させることがその死命を制する。高圧力発生は、機械的に発生させた力を硬質部材(タングステンカーバイド、WC)を介して小型の試料体に集中させることに尽きるので、高品質WCの補給が大きな財政負担となる。当初、温研には文部省付置研究所(付置研)として比較的潤沢な校費があり、これが可能であった。しかし、松本先生のご逝去などもあり状況は次第に厳しくなった。そんな中、赴任当初から毎年行ってきた科研費申請が、1976年に奨励研究(A)ながら採択に至った際には感慨を持って、これを受け止めた。当時、学会には潜在的に“ギルド”的な色彩が見られた上に、無学位・業績希薄の自分にはチャンスはないと思っていた。
   1978年には、岡山大学の概算要求7,500万円をもって加圧力5,000トンの高圧発生装置(USSA5000)が予算化された。この実現には温研・岡大当局の尽力とともに、故秋本俊一教授など外部からのご支援も大きかったと認識している。阪大、名大に次いでの大型装置の導入であり、失敗は許されないと緊張した。また、初回の実験でWC部材全体が微塵に帰し、約12万円が一瞬にして雲散霧消、将来に大きな不安を覚えた。しかし、この装置には年間170万円程の維持経費が付いたうえに、1978-9年は故砂川一郎教授を代表者とする「特定研究」の公募研究に採択されたこともあり、落ち着いてUSSA5000の機能を発揮させることができた。1983-85年松井義人・一般研究(B)、1983年伊藤・一般研究(C)さらに1985-86年の丸茂文幸教授「特定研究」の公募研究採択等によりUSSA5000は順調に稼働して逐次成果を上げてきた。それに応じて、申請科研費もボツボツと採択されるようになった。とりわけ、1988-89年伊藤・高橋栄一・一般研究(C)では、190万円の配分に対して約30篇の論文を公にすることができ、責任を全うした充実感を噛みしめた。
   こんな中、折からの行政改革の一環として行われた付置研見直しのさきがけとして、1985年に温研は分離改組され地球内部研究センター(ISEI)が発足した。その結果、経常校費が大幅に減ったうえに、1970年代から、大げさに言えば、隔年のように実現していた概算要求による大型設備の導入がほぼ絶望的となった。一方、当時の我々の研究では微小部化学分析を行う電子線マイクロアナライザー(EPMA)が必須であったが、1972年導入のものは耐用年限を超えていた。やむなく、メーカーの研究室や他大学の研究者のお世話になっていたが、この状況は極めて歯がゆいものであった。そこで、1992年度にISEI新進気鋭の地球化学者中村栄三とともに、“中心核の分離を中心に据えて地球の初期分化と進化を明らかにする”といった課題で特別推進研究(特推)に応募した。各方面からの温かい支援を頂き、梅雨の頃に採択の内示を頂いたが、直後に取り消された。しかし、翌年から4年間ほぼ要求の金額をもって採択された。これによって待望の二次イオン質量分析計(SIMS)とEPMAが導入された。これらは現在でも健在で、後者は外部共同利用研究者によっても活発に使用されている。この特推によりWCの2倍以上の硬度をもつ焼結ダイヤモンド(SD)を用いた高圧実験が可能になり、現在のKMAによる100GPa以上の圧力発生の礎が築けた。以後、我々の「高圧地球科学」では大変高価なSDを用いた超高圧実験が必須となった。幸いにも、いくつかの基盤研究によってこの継続が可能になった。また、2001年新設の基盤研究(S)により放射光施設SPring-8でのX線その場観察実験を定常化し、高い精度での超高圧力発生のもとで特色ある成果を上げることができた。このように、私の研究はいつの間にか科研費との長い二人三脚になっていた。
   2016年度の科研費予算額は2,000億円を優に超えている。1992年に文部省研究機関課を訪れた際、課長席の上方に”目指せ!科研費1,000億円“と大書した紙が吊り下げられていたのを思うと今昔の感がある。特推、基盤研究(S)など集中投資型の一方で、若手研究、挑戦的研究などの増強は将来にわたる独創的・創造的な科学技術の涵養に不可欠である。最後に、変貌しつつある世相の中で、アカデミズムのための”浄財“としての科研費の役割に一層期待したい。(文中一部敬称略)

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