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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.100(平成29年6月発行)

「日本を中心とした国際共同研究―科研費が可能にした」

大沢 真理 先生
大沢 真理
東京大学 社会科学研究所 所長・教授
平成29年度に実施している研究テーマ:
「災害・危機へのレジリエンスをジェンダー化する―日独の対比に焦点を当てて 」(基盤研究(A))

日本学術振興会からエッセイを寄稿するようにお誘いを受け、自分の研究経過と科研費の関わりを振り返ってみた。改めて実感するのは、科研費に支えられて緊密な国際共同研究を続けることができたという点である。
   私の研究分野は社会政策ないし福祉レジーム(体制)の比較分析であり、国際共同研究を通じていくつかの面で研究を拡充してきたと思う。社会政策には社会保障や労働政策を含み、福祉レジームの研究では、国家・市場・家族の3者が福祉の供給においてどのように相互に関連し、それぞれに比重を占めるかなどに関心を寄せる。
   従来の比較福祉研究には、アプローチの面で1つの弱点がいちじるしく、また対象と分析の範囲の面で限界があった。弱点とは、職場や家庭で人びとが抱えるニーズがどのように満たされるかを問題にしていても、「人」として女性や子どもの姿が薄かったことである。老若男女の違いに敏感であることを「ジェンダーの視角」という。いっぽう限界とは、対象地域として欧米が中心であり、検討対象は主として社会保障給付だったことをさす。
   欧米諸国の福祉国家ないし福祉レジームはいくつかのタイプに分類されてきたが、日本の特徴については、ドイツに近いとされたり、アメリカ・オーストラリアに近いとされたりするなど、見解が分かれ、しばしばやや安易にハイブリッド型とされていた。
   先行研究に以上のような弱点や限界を感じていたところ、1999年頃に、アメリカ・イギリス・ドイツ・日本の共同研究に誘われて参加することになった。研究グループは、グローバル化のもとで各国の労働組織や規制などがいかに変容しているか、ジェンダー視角から解明しようとしていた(略称はGLOW)。メンバーは各国の有力な社会学者で、福祉制度よりは雇用の場の編成や政府・労使団体による規制がテーマだった。
   GLOWにとって、各国で調査をおこない、年に何度か会合するためにも資金が必要だった。2001年秋に私は15年ぶりに科研費を申請した(その間、研究分担は多い)。2002‐03年度に採択された基盤研究(B)「『ニュー・エコノミー』の比較ジェンダー分析―高齢社会のサービス化、情報化と格差問題」である。この科研費により、GLOWメンバーほかを東京に招き、ワークショップと公開シンポジウムを開催することができた。また東京圏において在宅介護労働者600人のアンケート調査をおこなった。ワークショップの前後に公開シンポジウムや学会の分科会を開催するという形で、研究の中間成果をグループ外に発信し、フィードバックを得ており、この方法は以来継続されている。
   ワークショップで欧米の労働社会学者たちと集中的な議論をおこなうなかで、私自身の研究の枠組みも進化した。人びとのニーズにとって雇用の条件は重大であり、政府の政策だけでなく、家族や企業、非営利協同などの民間の制度・慣行が、税・社会保障制度や労働市場規制などの法・政策と、いかに相互作用して、ニーズが充足されるか、捉えなければならない。
   私はその仕組みを生活保障システムと呼ぶことにした。1980 年代前後の経済協力開発機構(OECD)諸国の実態を踏まえて、ジェンダー視点を活かすことで、生活保障システムは「男性稼ぎ主」型、「両立支援」型、「市場志向」型の3つに分類でき、日本のシステムは強固な「男性稼ぎ主」型である。こうしたアプローチはGLOWメンバーにも共有された。
   日本だけでなく対象各国で、高齢者ケア労働の比較調査をおこない、また政府統計などを2次分析できるよう、2004‐06年度には基盤研究(S)「ニューエコノミーと労働・家族・国家―日・米・欧の比較ジェンダー分析―」を受けた。このプロジェクトでは、生活保障システムの機能不全ないし逆機能の産物として「社会的排除」の概念を取り入れ、システムの型と社会的排除の度合いの関連も追究した。社会的排除とは低所得・失業や健康状態などのため、社会に参加できないことをさす。
   GLOWの研究成果は、2007年にGendering Knowledge Economyと題する単行本として発表された。4か国から一人ずつが編者を務め、私もその1人だった。増補した日本語訳を2016年に出版し、研究成果をより広い社会にお返しすることができたと思う。
   現在まで科研費を受けて継続している研究では、GLOWのドイツのメンバーや、日韓の中堅研究者と共同し、金融経済危機とジェンダー、大災害とジェンダーなどの比較分析をおこない、日本を中心にまとめた研究結果を2011年に英語の単著で出版している。また、日本の都道府県のなかで福井県では、社会的排除の度合いが最も低いと予想されたことから、その実態に関する大規模調査を2011年と2014年におこなった(2014年は県と共同調査)。
   一連の比較研究の結果、日本のシステムは、いまや機能不全という以上に逆機能に陥っていることが明らかになってきた。逆機能とは、対処するべき問題をかえって悪化させる事態をさす。具体的には、労働時間・収入によって社会保険制度が分立していることが、雇用をことさらに非正規化させ、社会保険の収支の悪化や適用の低下を招いていること、政府の所得再分配が貧困をかえって深めて、OECD諸国でも最悪の貧困率になっていること、などである。これは不合理な事態であり、必要な税・社会保障改革への示唆も、研究から得られている。

※所属・職名は執筆時のものです。
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