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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.91(平成28年9月発行)

「学術研究におけるトレンド」

東 みゆき 先生
東 みゆき
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授
日本学術会議第23期会員
平成28年度に実施している研究テーマ:
「口腔特有の免疫応答制御メカニズムの解明」(基盤研究(A))

思い起こしてみれば、私は、歯学系大学院修了後、自らが科研費申請できる立場を得てから、前半は、口腔外科の臨床医として、後半は基礎免疫研究者として、30年余り途切れることなくずっと科研費のお世話になって研究を続けてきた。逆をいえば、科研費以外の研究費はほとんど獲得してこなかったといってもよい。特に、2000年に大学院重点化に伴う前任者の存在しない新規分野の教授として研究室を立ち上げることになった際は、基盤研究(S)と特定領域研究からの潤沢な支援があったからこそ、現在の研究室を立ち上げることができ、大学院生をリクルートし(極小の狭い研究室という点を除いては)不自由のない研究環境を与えてあげることができ、満足できる研究成果をだすことができた。科研費には深く感謝している。
   私が免疫研究に魅かれたきっかけは、「癌を自らの力である免疫で治したい」という想いだった。そのころの癌免疫研究は、キラーT細胞を増やし、その活性を強化するという戦略が主流であった。T 細胞増殖因子である IL-2のクローニングの成功により、実験室で遺伝子組換えIL−2が使用できるようになり、IL-2によって誘導されるキラー細胞 (Lymphokine Activated Killer, LAKと呼ばれた) の研究が一気に盛んになり、国内外の学会会場では、廊下に人が溢れる状態が続いた。残念ながら、 LAK細胞は、臨床試験では試験管内実験のような結果は得られず、この一連の研究は下火となった。抗原特異性のないキラー細胞は癌局所には届かないという大きな反省から、癌研究の流れは、癌抗原特異的なキラーT細胞の誘導に主眼が置かれ、癌抗原ペプチドの同定や樹状細胞の利用などが主流となった。私は、当時接着分子と考えられていた分子の中には、キラーT細胞の能力を強力にコントロールできる分子があることに気付き、米国DNAX研究所での留学中の CD28-B7分子に関する研究がきっかけとなりその後30年近く共刺激分子研究に携わっている。帰国直後の学会発表では、この分子に興味を抱く人は少なく、学会3日目の最後のセッションでさみしく発表したのを覚えている。しかしながら、その翌年には、ワークショップやシンポジウムが組まれ多くの聴衆を迎えることになる。“学術研究にはトレンドがある”と実感した最初である。ここ数年は、負の共刺激分子である CTLA-4や PD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害療法が注目され、癌治療のマニュアルが変わりつつある。免疫で癌を治すには、キラー細胞を活性化することよりも癌環境における負の因子を取り除くことが不可欠であったことを強く実感するに至っている。免疫研究分野では、制御性 T細胞も含めて種々の抑制性細胞や抑制性分子が注目されている。個々の研究テーマにおいても、学術全体としてもトレンドが存在する。トレンドを創出するきっかけとなる研究をした研究者は当然評価されるべきであるが、トレンドは、同様の研究をする多くの仲間や競争者がいて初めて作り出される。研究者として、トレンドに乗るということは、好ましいことなのであろうか?情報過多の世界において、研究費獲得のためには、トレンドに乗ることも必要となるかもしれないが、科研費の「研究者の自由な発想に基づく学術的研究を支援する」という基本に戻れば、トレンドとは離れて、真の興味ある学術研究をこつこつと全うする研究者への支援も重要である。
   今年の3月末まで、私は、日本学術振興会・学術システム研究センターの専門研究員として、科研費審査委員の選考や評価、さらには科研費システム改革に参画する機会を得た。これまでもらう一方だった科研費を、逆の立場から考える良い経験になった。今回の科研費改革2018の要は、審査システムの改革である。せっかく理想的なシステムを作っても、実際には、審査委員の公平で適切な選考と審査委員による公平で適切な査読と合議が実施されることがなければ、この改革は成功しない。これまで、書面審査委員に選任された研究者の多くは、年度末に送付される膨大な量の応募書類を前にして、時間に追われ、審査を終了することで一杯一杯となっていたのではないかと懸念する。今後は、より広い領域の研究提案を査読することになるので、より高度な力量と見識が審査委員に求められ、また、総合審査や2段階書面審査で、自分の判定が他の委員にもわかるので、より責任ある判断が要求されるようになる。審査委員の使命は重大である。科研費の審査は、トレンドに流されず、遂行したいものである。

※所属・職名は執筆時のものです。
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