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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.90(平成28年7月発行)

「予定通りに進まないのが研究:それを寛大に支えてくれる科研費」

大野 弘幸 先生
大野 弘幸
東京農工大学 大学院工学研究院 教授・工学研究院長
平成28年度に実施している研究テーマ:
「高分子化したイオン液体に束縛された水分子数の可逆的な制御」(基盤研究(A))

2010年4月から2013年3月までの3年間、日本学術振興会学術システム研究センターの主任研究員を併任し、科研費の審査員候補の選定、科研費の在り方の議論、審査制度の改革案の提言などに関与した。その時の業務の一つに「科研費NEWS」の執筆者探しがあった。併任が解けて数年後、私が科研費エッセイの執筆者に選ばれるとは思ってもいなかったが、依頼がきたら絶対に断れない。
   私と科研費とのつながりは1986年採択の奨励研究(A)に遡る。それまで分担者として科研費を頂いたことはあったが、代表者として採択されると、少額の研究費でもとてもうれしかったことを覚えている。その後東京農工大学に移ってからは、1991年採択の一般研究(C) にはじまり、重点領域研究、基盤研究(C)、特定領域研究、基盤研究(B)、萌芽研究、2002年と2005年の基盤研究(A)と、我々の研究は常に科研費で支援され続けてきた。2009年には基盤研究(S)に申請した課題が採択となり、研究が格段に進展した。基盤研究(S)の採択の翌年に上述の学術システム研究センターの主任研究員を務めろと言われたので、これも断ることができなかった。科研費データーベースでこれまで採択となった科研費のテーマを眺めてみると、「イオン」と言うキーワードは共通するが、いろいろな研究をやってきたなぁという感がする。基本は「私が面白いと思う研究」をするということ。ここ15年くらいはイオン液体 (融点が極めて低くなるように構成イオンの構造をデザインした塩で、水などを加えなくとも室温で液状という興味深い材料) に関する研究を進めているが、すべて科研費で支援されている。いずれも自分でやりたいと熱望する研究を申請しており、その熱意が審査員の先生方に伝わったのであろうと感謝している。
   3年前に他の省庁の研究費を頂くことができた。が、非常に厳格に当初計画に沿った研究(費の執行)を強いられた。私は数年後の研究の成果と展開の方向などを完全に予測する能力を持ち合わせていなかったため、対応に大変苦労した。そもそも計画通りに淡々と進める作業を「研究」と呼べるのであろうか?と息巻いたこともあったが、「研究費の配分は契約であるため、当初の計画通りに進めることが基本である」と言われれば、それに従うしかない。まさに「作業」をこなすように感じた。
   それに比較して科研費は極めて寛大である。50%程度までは他の費目への流用も認められているし、合算使用や基金化による研究費の柔軟な執行なども可能になってきて、本当に使いやすい。思いもよらない装置の故障だってあるし、新しいアイディアが湧いて、当初計画より更に良い方法を試したくなったりもする。研究の思いもよらない発展に伴いフレキシブルに対応できる科研費こそが、本当に研究者目線でデザインされている研究支援費ではないだろうか。日本学術振興会学術システム研究センターの研究員は現役の研究者であり、彼らが制度改革などを提言していることもあり、科研費は研究を意欲的に進める研究者にとって使いやすく、不可欠な研究費になっている。科研費の基本的な方針は変えずに、今のまま研究者にとって使いやすいものであり続けて欲しいと願う。
   大型の研究費支援もいろいろな例が見られるようになってきた。展開研究で世界と伍するためには重点的な支援が必要である。一方、将来大きく伸びる研究の基礎は、小型でも支援する必要がある。我が国の基礎研究を支えているのはむしろ小型の研究費ではないだろうか?10年以上前になるが、筑波大学の山本眞一教授を手伝って研究費と研究成果の相関を調べたことがある。特別研究促進費で措置されたこの調査結果は、研究費の増大に従い研究成果も増えて行くが、ある額を超えると傾きが小さくなってしまうことを示していた。即ち、最も効率的な研究費の配分額が存在するということである。もちろん、研究分野や規模など、一概に決めつけることはできないが、現在の科研費の規模感が我が国の基礎研究を支える上で極めて重要であることは、日本中の研究者が口を揃えて言うであろう。また、「支援したのだから必ず成果を出せ」と言う姿勢も基礎研究を損なう。私の個人的な意見であるが、「予定通り」とか「予想した通り」の結果を出すような研究は行う必要が無い。どうなるか分からないものこそ、ワクワクする研究である。「計画通りに進行したか?」と言う評価基準の代わりに「研究の展開は楽しかったか?」という評価項目が研究報告書に載る日を夢見ている。
   「KAKENHI」も論文の謝辞に良く出るようになってきた。世界的にも認知度は上がっていると思う。我々研究者はもっともっと科研費に感謝し、若手の研究者たちも自由に伸び伸びと良い研究ができるように、現在の科研費の方針を支持すべきであろう。論文の謝辞欄に「KAKENHI」の文字を記載することも社会への成果の還元である。日本からの投稿論文の謝辞欄に「KAKENHI」が必ず見られるように、我々研究者は一丸となって科研費に感謝し、科研費を支援する必要がある。

※所属・職名は執筆時のものです。
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