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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.88(平成28年5月発行)

「大型研究費が変えた私の研究手法」

審良 静男 先生
審良 静男
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター・教授
平成28年度に実施している研究テーマ:
「自然免疫の包括的理解」(特別推進研究)

昨年から特別推進による研究支援を受けている。これまでも一度特別推進を受けており、2度目ということになる。特別推進は、大型研究で1億円前後の研究費がもらえる。
   私自身、独立するまでは自分の所属するラボで最大限の力を出して評価され、最終的にその成果によって独立し、独立後はこれまでのラボで行ってきたテーマとは全く異なるものをライフワークにしようと考えてきた。そうは言っても新たな分野を開拓することはやさしいことではない。私は、1996年に大阪大学から兵庫医大の教授に赴任し独立ラボをもつことができるようになったが、その際、ちょうど大型の研究費(CREST)を手にできたことが幸いした。それを機会に研究スタイルを大型研究費に見合うように変えた。当時、ノックアウトマウスが盛んに作られるようになった時期であったので、それをスクリーニングに用いて新たな研究テーマを見つけることを考えた。マウスの個体レベルの研究は、多額の研究費が必要なだけでなく、特殊な技術とマウス飼育施設が必要となる。幸い、兵庫医大でノックアウトマウス作成室が赴任の翌年に出来上がった。研究テーマを、マクロファージ分化の分子機構に決めた。M1白血球細胞株は、IL-6の刺激で増殖を止め、マクロファージに分化する。その分子メカニズムに興味を持った。当時、IL-6刺激で早期に誘導される遺伝子群MyDシリーズが知られており、それらを片っ端からノックアウトし、マクロファージ分化障害があるかどうかを調べた。残念ながらそれらのノックアウトマウスでマクロファージ分化障害があるものは取れなかった。しかしながら、MyD88遺伝子欠損マウスのマクロファージは、IL-1の刺激が入らないことがわかった。これは、すでに試験管や培養器などの中での観察ではMyD88がIL-1のシグナル伝達分子であることが知られており、単にそれをノックアウトで証明したにすぎなかった。ところが、MyD88欠損マウスがグラム陰性菌の壁成分であるリポ多糖にも反応しないことをある大学院生が偶然発見した。この発見がきっかけとなり、私たちのグループは、病原体センサーToll-like receptors(TLRs)の同定という新たな領域に進むことができた。この分野は、熾烈な競争となり息つく暇もなかったが、潤沢な研究費のおかげで、海外のラボにもかろうじて優位にたつことができた。1996年から約10年間で、世界に先駆けほぼすべてのTLRsの認識する病原体成分を同定することができるとともに、TLR受容体からのシグナル伝達経路の全貌も解明することができた。
   第1回目の特別推進研究(2008-2012年度)では、これまでの自然免疫病原体受容体とそれらのシグナル伝達での成果をもとにさらに自然免疫を包括的に解析することによって感染症や炎症性疾患の発症機序をあきらかにすることを目的とした。具体的には、自然免疫に関わる病原体センサーからのシグナルがどのような生理的現象を引き起こすか調べるため、病原体成分であるリポ多糖でマクロファージを刺激して短期間で誘導されてくる遺伝子で、面白そうなものをノックアウトしていき、その表現型の解析を行った。その結果、Zc3h12aとJmjd3という遺伝子に行き当たった。Zc3h12a(その後、我々は機能に基づきRegnase-1と名前を変えた)は、ノックアウトマウスの解析からIL-6mRNAをはじめとする炎症に関わる特定のmRNAの不安定化に関わる分子であることが判明した。一方、Jmjd3は、寄生虫感染に伴うM2マクロファージ分化に必須の分子であることをあきらかにした。この2つの研究成果が発端となって、第2回目の特別推進研究(2015-2019年度)では、Regnase-1とそのファミリーの機能、ターゲットmRNAの同定を中心に炎症・免疫応答におけるmRNA制御機構と各種疾患に関わるマクロファージサブセットの同定という2つのテーマを研究対象としている。独立してから、これまで20年にわたりノックアウトマウスを作成することを中心に研究を続けてきた。最初のころは、遺伝性がみられる特徴(表現型)から、その原因となる遺伝子を探り当てていく、フォワードジェネティックなアプローチと違って効率が悪く研究スタイルに疑問を持たれたが(フォワードジェネティックなアプローチを自分自身羨ましく思ったときもある)、仮説によらないこと、意外な研究成果が得られる等で自分ではこのスタイルを続けてきたことに満足している。最近は、CRISPR/Cas9システムという新たなノックアウトマウス作成手法が現れ、それを導入することにより格段にスピードアップができるようになった。今後ともノックアウトマウスの表現型に導かれ研究を続けていきたいと思っている。
   若い研究者の方には、牛後になるような研究テーマを選ぶことなく、たとえ鶏口であってもオリジナルな研究をしていただきたいと願います。

※所属・職名は執筆時のものです。
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