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拠点大学交流事業

関連資料

日韓拠点大学交流「エネルギー理工学分野」

小西 哲之

1.はじめに

本拠点交流は、京都大学とソウル国立大学を中心として、先進エネルギーシステム技術の研究協力を進めている。交流は1998年に開始して現在10年計画の7年目で、おそらく拠点方式中最大の交流数を実施している。量だけでなく、質的にも順調に成果が上がっているが、ここまで来るには、どの拠点交流でも共通の苦労や困難、そして韓国という国が相手であることで起こる特有の状況もあったことは見過ごせない。本稿では、この交流活動の概要と今後の展望について紹介したい。

2.研究協力の概要と成果

日韓両国は、アジアの東端にあって共にエネルギー資源を持たない、それでいてエネルギー多消費型の産業構造を持つ国である。21世紀において化石エネルギー資源の需給の逼迫が予想される一方、地球環境問題の深刻化の中にあって、先進的なエネルギー技術の必要性、関心は高く、両国間での研究協力の必要性は容易に理解される。最近は特に、ハイテク分野での協力と競合が民間レベルで進んでいるのにくらべれば、学術的な交流は正直に言って活発とは言いがたかったのは事実である。いうまでもなく両国の間には長く深い文化交流の歴史があり、さらに政治的には複雑な関係がある。言い古されているが「近くて遠い国」である状況は科学技術研究においてもあてはまる。両国とも国際協力といえば欧米相手が中心であり、拠点大学による直接の交流の確立は一から始めなければならなかったといえる。
本拠点交流はエネルギー理工学、具体的には、
・高品位エネルギー源の開発と先進エネルギーシステムへの応用
・エネルギー・材料相互作用の解明と先進エネルギー材料開発
・クリーンエネルギー生産のための新バイオ工学システムの構築
・次世代原子力エネルギーシステムの開発研究
の四つのテーマに関する幅広いスペクトルでの情報交換及び研究協力を行っている。協力活動は人的情報交換にとどまらず、たとえば日本の超高圧電子顕微鏡とイオン加速器を連結したマルチビーム型超高圧電子顕微鏡による材料照射研究設備や、韓国側の原子炉による材料照射などのように、かなり大規模な施設の相互利用にまで発展した共同実験、共同研究もある。
図1に、これまでの交流実績をまとめた。

図1 交流実績
図1 年度別 交流人数・人日

交流は、それぞれの分野で、当初は情報交換、相互に交流の相手をまず探し、ついでその研究設備、能力、特色を調べ、実際の共同研究に入る。図を見てわかるように、研究者交流から開始しているが、4年次以降はほとんどが共同研究になっており、毎年両方向に110-130件程度とおそらく拠点方式では最多の派遣がある。交流は、当然当初は京大とソウル国立大の間が中心であったが、協力の進展とともに実際の研究活動の活発な現場へと急速に対象が広がり、現在の参加大学・機関は各70程度にのぼる。大学だけでなく、韓国の原子力、核融合研究の中核となる韓国先進科学技術大学(KAIST)、韓国原子力研究所(KAERI)、韓国基礎科学研究所(KBSI)などを加えて、より強力な研究活動に発展している。共同研究の成果は共著論文などとなって現れ、昨年までで原著論文、会議録など合計1、000報以上が日韓両国の研究者名で発表されている。また、本交流が中核となって両国の学会同士の協力に発展した例も見られ、たとえば韓国超電導・低温工学会と我が国の低温工学協会(CAJ)の間で交流協定が結ばれている。韓国原子力学会と日本原子力学会の間で毎年行われるようになった日韓合同セミナーも、この拠点大学交流プログラムのメンバーが中心となって行われた企画で、相互に講演者を招聘しあっての交流が進んでいる。アジア地域での学術レベルの向上と活性化、学術団体の国際化の点で、きわめて有意義な展開といえよう。
人的交流の成果でのひとつには韓国学生の受け入れがあげられる。率直に言って、現在我が国では、博士課程に進学を希望する学生を確保するのは、かなり困難な状況にあり、せっかく課程を修了しても今度は就職が容易でないのが現状である。本交流では、短期間の交流をきっかけに我が国に来る留学生がかなりおり、日本の研究が活性化する一方、留学生が韓国に帰国して研究の中核となって次の学生を派遣するという好循環が発生している。これも長期的なアジア地域の研究レベルの向上を意図する交流プログラムの趣旨にふさわしい成果であり、単に個々の研究成果や発表数からはわからないが、長い目で見れば大きな効果が期待できる。

3.実施に当たっての困難や問題点

これまで述べたような成果は、決して一朝一夕に得られるものではなく、様々な困難を解決した結果である。どこの国際協力でも共通にあると思われるコミュニケーション上の問題は別として、やはり韓国との交流には特有の問題がある。日韓協力といっても、共通言語は英語であり、韓国側のカウンターパートも米国留学経験のある者が多い。研究の方法論や考え方でも、合理的で肩書きによらないフランクな意見交換を期待したいところであるが、そこはやはり儒教文化の国、年齢や職の上下を把握しておくことが必要とされる。日本側も、一部において韓国側の実力を過小評価していた嫌いがあるし、実際研究設備には見劣りするものもあった。しかし一方韓国側担当者は総じて相対的には日本側よりも国内的な地位は高く、またプライドも高いのである。その上、謙譲を必ずしも美徳としないところもある。初期にはかなり意見のぶつかり合いも見られた。相手の肩書きや職名でその社会的地位を判断できないことも多く、誤解は様々に発生している。筆者をはじめ現事務局は、先任者を引き継いだ2代目で参加者中でも若輩の部類であるが、実際相当厳しい交渉をしなければならないのも事実なので、失礼に当たらないようにするのに苦労している。加えて、韓国との間には政治的、歴史的な問題もある。実際に会ってみればフレンドリーな人も多いが、妙なところで関係がこじれないようにするのにも気を使う。
大学やJSPS の担当者には多大なお世話になっているが、筆者を含め交流実施者はすべて研究者であり、煩雑な事務処理には辟易することも多い。一方参加者からの提出書類の不備もこれまた多い。特に法人化に伴って、多くの事務処理が大学の規則に任されることになったことで事務処理量は増え、事態は悪化している。効率的で柔軟な体制の構築が望まれる。
昨年来のいわゆる韓流ブームは、日韓協力への好意的な関心の著しい増加とともに、思わぬ影を落としている。今や両国間のフライトは慢性的に予約困難になっており、旅費も急騰しているが、交流数の増加圧力も高まっている。活発化はありがたいが、協力の運営は今後さらに厳しくなると予想され、当分おさまりそうにない。

平成16年度日韓拠点大学交流事業運営委員 ソウル大学にて 2005年1月
平成16年度日韓拠点大学交流事業運営委員 ソウル大学にて 2005年1月

4.課題と今後の展開

本プログラムは、当初計画の終盤に入り、成果を取りまとめつつ今後の展望を策定すべき時期にきている。今年は日韓国交正常化40周年でもあり、交流のいっそうの活発化が期待されているが、本協力を軸に、若い学生の参加できる行事など、様々な形での交流を計画している。
研究の進展にともない、両国国内での実験準備や研究活動に資金が必要なケースも多く見られるようになってきた。外部委員により行った中間評価でもこの点は指摘されているが、研究経費の増額があれば、日韓共同研究として独自に新しいテーマで実験研究を立ち上げることができ、機動的な共同研究運営の上で非常に効果的であると考えられる。
この日韓交流プログラムは、量的な交流の多さとともに、研究の活発さと、共著論文の数等、内容的にも大きな成果を上げているといえるだろう。これは、東アジア地域にあって、同じようなエネルギー需給構造を持ち、研究レベルも大きく違わないという日韓間に固有の要素も大きい。しかしエネルギー環境問題の今後を考えれば、この活動メカニズムを、中国をはじめとするアジア地域に広く拡大する必要があるのは明らかである。現に中国とは、同じ分野での様々な交流も始まっており、本日韓交流の開始当初とは類似の状況にある。3年後の当初計画の終了の機会に、交流計画を多国間に拡大することはきわめて有効であると思われ、今後の展開について現在構想を練っている段階である。


小西 哲之(こにし・さとし)
京都大学エネルギー理工学研究所 教授
本記事は「学術月報Vol.58 No.6」に掲載されたものである。