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拠点大学交流事業

関連資料

拠点大学方式による日越環境総合学交流て

藤田 正憲

1.交流前史

昭和43年に設立された日本で最初の環境工学科では、アジア諸国の環境問題への認識の高まりと共に多くの留学生を受け入れ、また帰国後も交流を深めてきたが、平成9年にベトナムからの研究生を受け入れるまで、ベトナムとの交流は行われていなかった。そこで、ベトナムへの関心が高まり、研究生の指導のみならず、ベトナムとの環境分野での広範な交流を思い立った。早速、日本学術振興会の拠点大学方式による2国間の交流に応募するために、研究生のベトナムにおける指導教官の1人に連絡をとり、詳細を詰め始めた。ところが、ベトナムも日本との交流には慣れていないため、話の進展が遅く、これでは間に合わないと思い、当時博士後期課程3年生の立田真文君と2人でハノイへ向かった。そこで、まず拠点大学方式による共同研究・交流は、決してODAのような施設や設備を援助するものではなく、共同研究を通じて両国間の学問・技術レベルを高め、同時に人物交流を深めていくものであり、かつベトナム国内での経費は貴国が負担することなどを説明した。また、本プログラムでは日越両国の環境に関心のある研究者が、多面的に共同研究・交流を行うことが目的で、ハノイ校と大阪大学はその拠点であるという仕組みも同時に説明した。また、別に大阪大学としてもハノイ校との学術交流協定を締結し、両大学間で学生や教官の交流を推進したい旨も伝えた。本プログラムにより両国間の交流が深まれば、留学生の受け入れ機会の増加や、場合によっては日本企業との共同研究、あるいはODAなど(研究費や設備備品の整備等)に発展する可能性もあることなどの夢も語り、プログラムでできることとできないことを何度も説明し、2~3日間を要したがハノイ側は拠点大学方式による共同研究・交流を完全に理解してくれた。説明に時間を要した理由の一つに、当時コーディネーターの研究室ではスイス政府からの援助で分析機器類が増強されており、それとの違いを理解するのに手間取ったわけである。
その後、採択が内定され、平成11年2月に日本学術振興会から加藤理事、中島課長、文部省から大西係員、大阪大学から筆者、立田(当時研修生)の5名で、ハノイ及びホーチミンシティの、研究所(NCST)、大学等を訪問し、4月より環境分野で拠点大学方式による共同研究・交流が始まることの伝達とそのための詳細な打ち合わせに出向いた。ベトナム訪問中に交流に関するベトナム側の期待と要望を直接聞く機会を持てたことは有意義で、その結果、本交流をベトナム全土を対象に幅広く実施すること等が話し合われた。

2.全体計画

平成11年4月より、ベトナム側はベトナム国立大学ハノイ校理学研究科(VNU‐Hanoi、University of Science)、日本側は大阪大学大学院工学研究科を拠点大学とし、両国の主だった大学、研究機関の環境分野に関わる協力研究者が数多く名を連ねる、両国全土をカバーする交流としてスタートした。日本側のコーディネーターは筆者が、ベトナム側はハノイ校のPham Hung Viet教授がそれぞれ務め、交流分野として生態影響評価のための環境分析に関する総合技術開発、環境調和型都市・地域の開発と保全、環境保全・管理のための総合技術開発に関する研究を取り上げ、その中で具体的な共同研究を行うことを目的とした。実施に当たって、(1)環境計測、(2)環境創造・保全、(3)環境総合技術開発の三つのトピックスを柱とし、それぞれにリーダーを設けた。さらに、全体計画はリーダーを中心とするステアリングメンバーで討議し、グループ内の具体的な研究テーマやメンバーは、リーダーを中心に決定する仕組みとした。本プログラムは長丁場の事業(5年で中期見直し)のため、前・後半5年ごとに第1期、第2期として以下のような研究目標を定めている。

(1)環境計測分野
第1期 環境汚染物質のモニタリング手法の開発とその応用に関する研究
第2期 定点における環境汚染物質のモニタリングとデータベースの構築
(2)環境創造・保全分野
第1期 開発に伴う自然環境の変遷に関する調査とその特性解析
第2期 都市開発制御と自然環境保全のために対策の提示
(3)環境総合技術開発分野
第1期 地域性を重視した環境総合技術の開発
第2期 開発した環境総合技術の実用化への検証

上記テーマを実施するために、事務局(筆者の研究室)は両国研究者の相互派遣による共同研究の遂行や合同セミナーの開催等を管理し、過去4年間の実績では毎年40~50名の日越研究者が長期・短期に往来している。

3.交流実績

1年目(1999年度)は、ハノイとホーチミン、及び大阪で計3回の全体セミナーを開催した(写真1、2、3)。ここでは、本プログラムに協力する研究者同士で、両国の環境問題についての紹介を行ったり、各研究者の研究対象や興味を披露しあうことで、共同研究の具体的な課題とカウンターパートを絞り込むことを目的とした。共同研究は十分な相互理解があって初めて成功するというスタンスをとったが、これが功を奏し、2年目からは多数の共同研究プロジェクトが立ち上がった。その後、プロジェクトの若干の変更はあったが、5年目(2003年度)の現状では、11の共同研究が活発に動いている。平成13年11月には大阪で2年振りの全体セミナーを開催し、これまでに行われた共同研究の成果を報告しあったが、日越環境問題や研究者間の相互理解という"種蒔き"から始まった事業が、軌道にのり始めたことを実感し、感慨深いものがあった。平成12、14年度は予算を主として若手の長期滞在型研究の支援に使い、共同研究の実を挙げるべく努力している。この間、目的を達成したプロジェクトが終了する一方、交流を通じた"自然なパートナーシップの形成"から新たなプロジェクトが立ちあがっている。代表的なテーマを以下にピックアップしてみる。まず、ベトナムのマングローブ林(えび養殖のために切り倒されて減少しているが、他方で復元の試みもなされている)の保全に関する共同研究では、沿岸工学の専門家や数学モデルの専門家が協力している。また、廃棄物処分と関連したダイオキシン・環境ホルモン問題、環境計測としてのバイオセンサー、大気汚染の評価、ハノイなどの旧都心部の保全、排水処理を含む環境保全技術の開発等が挙げられる。
今年はプログラム5年目を迎え、これまで実施してきた共同研究を総合的に討議するシンポジウムを7月14日、15日の2日間にわたって開催する予定である。ベトナム側から学長、学部長も出席し、また大阪大学からも副学長、学部長、さらに日本学術振興会からも担当部長及び課長から祝辞等をいただく予定で、盛大な会になると考えている。

4.交流の課題

日越両国では、社会体制、経済水準、文化のみならず、環境問題についての考え方や技術レベルも大きく異なっていることから、両国の共同研究は非常にアンバランスにも見える。そのため、事業立ち上げ時には、日本側の研究者から「ベトナム側から得るものが本当にあるのか」という問が発せられるのでは、というのが一つの危惧であった。しかし、現在では多くの日本側研究者から「ベトナムは面白い。はまってしまいました。」という言葉も聞けるようになり、その危惧が杞憂であったことがはっきりしてきた。「はまった」のは、決して、生春巻きなど美味しいベトナム料理や安くて小洒落たベトナム雑貨だけではないはずである。ベトナムにはかつての日本と類似の環境問題があり、日本にはベトナムの将来に起こりうる環境問題がある。また、両国それぞれに互いに経験したこともないような独自の問題もある。環境問題は、時代や地域、風土や文化によって大きく異なり、対策技術も高度でありさえすれば良いわけでもない。時と場所が変われば、新たな発見があり、考慮すべきことが変わってくる。日本とベトナムが大きく異なる問題を抱えていることが、共同研究を面白いものにしているのではないだろうか。
今年7月のシンポジウムを契機に、交流プログラム第2期を考えなければならない。これまで、日本側からも3名の若手研究者が約1か月程度滞在してベトナム側と共同研究し、成果を報告しているが、次の第2期では特に若手の研究者の交流、長期滞在をサポートしていくことが重要であろうと考えている。
最後に、平成9年夏に本プログラムに応募することを決心し、下打ち合わせのためハノイに出向いたとき、香港からの便がハノイ空港豪雨のため着陸できず、ダナン空港(さびた戦闘機用のシェルターが印象に残っている)でエアコンを切ったまま2時間待たされ、10時間以上かかりやっと到着した。前途多難を予想するかのような到着であったが、延着にもかかわらずベトナム側から東南アジア特有のスマイル(日本人を含むと筆者は思っているが)で大歓迎をうけて、旅の疲れが吹っ飛んだことが思い出される。その後頻繁に出かけるが、お腹を壊したこともなければ、夜の町を危険だと思ったこともないので、国内で会う人に、ベトナムの宣伝をしている。最近では、ベトナム料理店やベトナム雑貨が流行り、多くの日本人が観光や商売に出かけていくと聞いているが、現在のせっかちな日本流を持ちこまず、大乗仏教の国として穏やかに過ぎていく時間を大切にして欲しいと願っている。
本文の作成には、池 道彦君(大阪大学助教授)、立田真文君(富山県立短期大学助教授)、山岡ゆり子さん(大阪大学技官)及び多胡知子さん(大阪大学、ベトナム担当事務補佐員)の多大な協力があったことを付記して、感謝いたします。


藤田 正憲(ふじた・まさのり)
大阪大学大学院工学研究科 教授
本記事は「学術月報Vol.56 No.8」に掲載されたものである。