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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第28回国際生物学賞 審査経過報告

国際生物学賞委員会審査委員長 佐藤 矩行

国際生物学賞委員会審査委員長 佐藤 矩行氏

 第28回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。 審査委員会は、私を含めて19人の委員で構成いたしましたが、そのうち三人は特別に委嘱した外国人の権威ある研究者でした。 審査委員会は、今回の授賞対象分野に定められました「神経生物学」に関連する内外の大学、研究機関、学協会および個人研究者、並びに国際学術団体あてに、1157通の推薦依頼状を送りましたところ、 55通の推薦状が届きました。このうち重複を除きますと、実数は五十二件であり、広く17か国に亘っておりました。
 審査委員会は、四回の会議を開き、慎重に候補者の選考にあたりました。その結果、第28回国際生物学賞受賞者として、アメリカ合衆国のジョセフ・アルトマン博士を国際生物学賞委員会へ推薦することに決定いたしました。

 アルトマン博士は、1925年生まれで、アメリカ国籍をお持ちです。博士は1959年に米国ニューヨーク大学で博士号を取得されました。その後、コロンビア大学、ニューヨーク大学、マサチューセッツ工科大学、パデュー大学において研究活動を行い、神経生物学に関する数多くの研究成果を挙げられました。現在はパデュー大学の名誉教授でいらっしゃいます。

二十世紀後半まで、哺乳類の成体の脳にはニューロンを新生する幹細胞が存在せず、一度構築された神経回路が損傷を受けると二度と修復されないと信じられていました。1960年代、アルトマン博士は分裂細胞標識法を用いた解剖学的解析により、成体ラットの脳に分裂する能力をもった神経前駆細胞が存在し、ニューロン新生が継続していることを明確に証明しました。さらに、エックス線照射による新生ニューロン除去の影響を調べ、それが学習などの高次脳機能の発現に重要である可能性を示しました。これらの革新的知見は長年、正しい評価を得ない時期が続きましたが、1990年代になりヒトを含む多くの哺乳類で成体ニューロン新生現象が再発見され、アルトマン博士の研究の正当性が明らかになりました。現在、成体ニューロン新生に関する研究は飛躍的に発展し、精神神経疾患との関係や高次脳機能発現における生理的意義が盛んに研究されています。さらには、脳の疾患・損傷に対する再生治療への臨床応用も期待されています。アルトマン博士の功績は、神経科学の一分野を築き、その発展に大きく寄与したものです。

 審査委員会は、本賞の審査基準として、研究の独創性、国際性、および生物学の進歩に対する貢献度を取り上げていますが、ジョセフ・アルトマン博士の業績は、そのいずれをも十分に満たすものであることを認め、国際生物学賞を授与するのに最もふさわしい研究者として推薦いたしました。
 国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦を承認し、ジョセフ・アルトマン博士に対し、第28回国際生物学賞を授与するものであります。 以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。