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独立行政法人日本学術振興会
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ナンシー・アン・モラーン博士
Dr. Nancy Ann Moran
天皇皇后両陛下、ご臨席の皆様
このたびの国際生物学賞の受賞を誠に光栄に存じますとともに、深く謙虚に受け止めております。歴代の受賞者には現代の偉大な科学者の方々も名を連ねていらっしゃいます。進化生物学をはじめ、生物学の基礎研究分野において、国際生物学賞はおそらく最も傑出した賞と申し上げることができるでしょう。また私以外に、この賞にふさわしい多大な功績を上げられた優れた生物学者の方々がいらっしゃることも承知しております。
そうした中での受賞は大きな喜びであるともに、身に余る幸運であると存じます。そして、この場に導いてくださったすべての方々に感謝いたします。まず、天皇皇后両陛下へ感謝を申し上げます。本日ご臨席賜ったことは、科学とその人類社会における重要性への両陛下の深いご理解の表れであると存じます。そして毎年、国際生物学賞の授与を通じて、学術研究、特に生物学の基礎研究に光を当て、栄誉を与えてくださる日本学術振興会の皆様。生物学賞そして本日の式典は、日本において基礎研究が重要な役割を担っていることを示すものと思います。
科学者としての私を形成してくださった方々にも感謝を申し上げたいと存じます。多くの研究者とは違い、私は科学や学術研究とはあまり縁のない家庭で育ちました。父は映画館を経営していました。母は8人の子どもを育て上げ、私はほぼ真ん中にあたります。両親は私の選んだ道を尊重し、さまざまな形で応援してくれました。私はすでに小さい頃から虫や植物が好きでしたが、このやや変わった興味に対しても両親は理解を示してくれました。父は私が観察できるようにと生きたタランチュラを捕まえてきてくれました。母は住んでいたテキサスの家の近くの林や小川に私たち子どもを連れて行ってくれたほか、そのときどきにカメやアヒル、インコ、ネコ、イヌ、ウマを飼うことを許してくれました。私が研究への真の愛情に目覚めたのは、テキサス大学の学生のときでした。そこで初めて研究者たちと出会い、幸運なことに熱心な大学院生のグループと交流することができたのです。グループの中には後に高名な科学者となったナンシー・バーリーとジョアン・ストラスマンの両博士がいました。彼らは私にとって大事な手本であり、助言者でもありました。テキサス大学のダン・オッテ、エリック・ピアンカ両教授からも大きな影響を受けました。生物学という学問に対する情熱、そして、学生に重要な問いかけをし、厳しい課題を課すことに重きを置いた彼らの姿勢に刺激を受けました。また、ラリー・ギルバート教授の夏期のフィールド実習は、私の昆虫研究のきっかけとなりました。
ミシガン大学の大学院生になった私は、ほどなく知的な刺激に満ちた進化生物学と出会いました。そのきっかけとなったのは、ジョン・メイナード・スミス教授、リチャード・アレキサンダー教授、そして、その後すぐに出会ったウィリアム・ハミルトン教授でした。アレキサンダー、ハミルトンの両教授は博士論文の担当教授であり、同意や反対意見を示すなどして、私の考え方に根本的な影響を与えてくださいました。自然淘汰によって起こりうる実に多様な表現型適応を理解し、研究なさっていた両教授に感化され、私は選抜の限界と、自然淘汰が進化系統を分化の袋小路に至らしめる可能性に関心を持つようになりました。ともに優れた博物学者であるお二人は、自然界に関する鋭い知識と洞察力を持ち、野生生物の観察に情熱を注いでいらっしゃいました。また重要な問題、すなわち、その答えが生物と進化に対する理解を真に深めることになるであろう問題に取り組む大切さを強調されました。ハミルトン教授が宿主に影響を与える病原菌に注目したことは、動物の微生物叢に対する私自身の興味をかき立てました。そして、ミシガンの図書館でポール・ブフナー博士の動物共生に関する概説を見つけ、詳細に調べたのです。しかしその当時は、培養実験ができなかった微生物の研究を進める手段はまずありませんでした。
教職に就いたアリゾナ大学では、生物学を研究する多くの優秀な同僚や友人に恵まれました。すべての名前を挙げることはできませんが、エリザベス・バーネイズ、レジナルド・チャップマン、テレーズ・マルコーの各教授は、学術研究におけるチームワークの指導と、生涯にわたる広範な興味を研究に結びつける方法について、手本を示してくれました。アリゾナ大学も、進化生態学から細菌ゲノムに及ぶ私の研究について、自由な環境と新たな研究課題を追究するためのリソースを提供してくれました。米国国立科学財団も私の研究を常に支えてくれました。財団の助成があったおかげで、私は想定外の方向であった研究テーマを追究することができ、長期的に現在の画期的な成果につなげることができたのです。
共生細菌の研究に分子的手法を最初に取り入れたひとりであり、私がこの研究に携わるきっかけとなったポール・バウマン教授にも感謝しています。教授の微生物学に関する深い知識、科学的探究への情熱、仕事に対する倫理観、厳しい基準から、私は多くのことを学びました。1990年代の10年間、教授の近くで研究をともにできたことは幸運でした。
この10年、深い進化における共生の役割、変化を続ける集団と種の共生の役割に関して驚くべき発見が続きました。この分野で研究ができたことを大変嬉しく思います。私のこれまでの功績に対して寄せられた評価のかなりの部分は、何年間もともに研究を進めてきた素晴らしい学生たちと博士研究員に負うところが大きいのです。現在、彼らの大半はそれぞれの研究機関や大学で研究者や教授として活躍しています。こうした才能にあふれ、洞察力に優れた自主性のある研究者たちと一緒に働けたことは、私の最も誇りとするところです。
個人的には、私の夫であるハワード・オフマンには感謝し尽くせません。初めて出会った時から、彼の聡明さ、生物学に関する膨大な知識、そしてユーモアのセンスにずっと助けられてきました。これまで13年間、ともに働いてきましたが、これからもこの関係が続くことを願っています。また娘、クレアにもありがとうと伝えたいと思います。私の関心や研究を受け入れ、いろいろな形でサポートしてくれました。
最後にあらためて、本日ご臨席賜った天皇皇后両陛下に感謝申し上げるとともに、このたびの賞に導いてくださった、日本学術振興会のご支援とご尽力に心よりお礼を申し上げます。