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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第23回国際生物学賞 受賞者あいさつ

デビッド ・スウェンソン・ホグネス博士
Dr. David Swenson Hogness

天皇皇后両陛下、ご臨席の皆様

このたび、妻とともに20年ぶりの来日を果たすことができ、誠に嬉しく存じます。そしてこの来日が、国際生物学賞という名誉ある賞をいただくためであることが、この喜びをさらに大きくしております。今回は、私たちの二人の息子とその家族ともども日本を訪れるという幸運にも恵まれました。このような機会を実現してくださったすべての皆様に心から感謝の気持ちを申し上げたいと存じます。特に、日本学術振興会の皆様に深く感謝いたしますとともに、何よりも国際的な学術協力に対するご支持、お励ましをくださる天皇皇后両陛下に心から御礼申し上げます。
 私が科学に関心をもったのは、シカゴ大学の化学の教授であった父の研究内容が分かりはじめた70年ほど前にさかのぼります。私の初期の「科学的な」記憶のひとつは、父が高感度分光光度計を製作していたときのものです。この分光光度計の感度は、今日見られるような電子をベースにしたものではなく、壮大な規模で、数メートルの長さの光線を映し出す鏡の正確な動きをベースにしたものでした。
 このときの体験は胸踊るものではありましたが、当時の私の知的関心は数学に向けられていました。数学に対する興味は、Caltechと呼ばれるカリフォルニア工科大学の学生であった頃まで続きました。第二次世界大戦中は海軍に籍を置いたため、一時勉学を中断し、戦争後大学に戻ったときには、私の関心は化学と遺伝学に移りました。
 この両分野は、Caltechの教授陣、なかでもライナス・ポーリング教授、ジョージ・ビードル教授、マックス・デルブリュック教授による研究が有名でした。デルブリュック教授は、私の博士課程修了後の研究をパスツール研究所の若き研究者ジャック・モノー氏とともに行うことを私に勧めてくださった方です。私はパスツール研究所に入り、これが自分のキャリアにおいて最善の判断のひとつとなりました。その理由は、もう一人の博士研究員であったメルビン・コーン氏と行った研究とともに、科学から文学、哲学、政治にいたるまで、モノー氏から教わったことが大きかったからです。
 国際生物学賞の歴代受賞者の中には、ともにCaltech出身のシーモア・ベンザー博士とエリオット・マイエロヴィツ博士という私の研究仲間も二人含まれています。マイエロヴィツ博士は私の研究室の博士研究員でありました。博士研究員にとって、師が受ける賞を師よりも前に自分が受けたということは奇妙に思うことでしょう。しかしマイエロヴィツ博士は類まれな素晴らしい科学者であり、モノー氏が私の力になってくださったのと同様、私も彼に対する指導、そして彼の知識に貢献できたことを喜ばしく思っています。
 遺伝学の研究をはじめてから今日に至るまで、発生の遺伝子制御に関して多くのことが分かってきました。ショウジョウバエの遺伝子発現の制御を解明し、遺伝子発現と発生の分析を分子レベルで行うことにより、この分野の知識を深めることができたことを嬉しく思います。この何十年もの間、遺伝学は科学のツールの発展とともに大きな変化を遂げてきました。今日、発生生物学においてはコンピューターが一翼を担っており、それが当たり前になっています。たとえば、配列の解析では、コンピューターの力を借りて配列を組み立て、結果の解析を行います。こうして私たちは、とても一人の人間が一度に覚えることができないほどの膨大な量のデータを把握することができるのです。
 ここで思い出されるのがスタンフォード大学の初代学長、デイビッド・スター・ジョーダンの話です。ジョーダンは天皇陛下と同じく、魚類学者でした。スタンフォード大学が開学したとき、ジョーダンは新入生一人ひとりの名前を覚え、キャンパス内で出会うと声をかけることで有名でした。しかし、数年後、彼はそれをやめてしまったのです。理由をたずねられたジョーダンは、数年が経ち、新しい学生の名を覚えるたびに魚の名前を忘れていることに気づいたからだと答えました。「あれには本当に困った」とジョーダンは言いました。
 この話から得られることは、科学の研究というのは一人の人間の頭の中だけで行うものでは決してないということです。最も重要な知識というものは常に共有されるのです。ある一人の業績は多くの人々の支えのもとに成り立っています。私は、研究室のすべての仲間に対し、研究を支えてくれたことに感謝したいと思います。委員会の皆様が私にくださった名誉は、彼らの名誉でもあるのです。

 皆様、ありがとうございました。