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国際生物学賞

第33回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告

天皇皇后両陛下のご臨席を仰いで、
第33回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

(平成29年12月4日)


第33回国際生物学賞授賞式

   第33回国際生物学賞授賞式は、12月4日に日本学士院において、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として西村康稔内閣官房副長官、林芳正文部科学大臣をはじめ、各界から多数の来賓の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。
    式典では、廣中平祐男委員長から、受賞者のリタ・ロッシ・コルウェル博士に、賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、天皇陛下からの賜品「御紋付銀花瓶」が伝達されました。
    続いて、安倍晋三内閣総理大臣祝辞(代読 西村内閣官房副長官)、並びに林文部科学大臣祝辞の後、リタ・ロッシ・コルウェル博士が受賞の挨拶を行いました。
    引き続き、天皇皇后両陛下ご臨席の下、受賞者を囲んで記念茶会が行われました。


賜品を手にするコルウェル博士と孫娘   記念茶会
賜品を手にするコルウェル博士と孫娘   記念茶会

 



第33回国際生物学賞 受賞者あいさつ

リタ・ロッシ・コルウェル博士
Dr. Rita Rossi Colwell

リタ・ロッシ・コルウェル博士

   天皇皇后両陛下の御臨席のもと、国際生物学賞の栄誉を賜り、この上なく光栄に存じます。昭和天皇御在位60周年を記念した本賞は、昭和天皇と今上天皇が長年情熱を注いでこられた生物学の御研究を記念し、その御功績を称えるものであり、受賞者として大変深い感慨を覚えております。両陛下に心から感謝の気持ちを申し上げたいと存じます。
   国際生物学賞委員会の皆様、選考の任にあたられた審査委員会の皆様にも深く御礼申し上げます。
   研究者としての私の人生において、私の師、研究仲間、教え子、博士研究員、海外研究員の存在は欠くことのできないものです。私の研究を支えてくださったこうしたすべての方々に感謝申し上げます。このたびの栄誉は私だけのものではなく、彼らのものでもあります。ここまでの道のりは長く、決して平坦なものではありませんでした。しかしそのような中でも、たくさんの幸運な出来事や出会いに恵まれました。パデュー大学でショウジョウバエ遺伝学を研究されていたアラン・バーディック教授のもとで学んだことは、その後のメタゲノミクス研究の基礎となりました。またワシントン大学では、ジョン・リストン教授から、当時新しい学問分野であった海洋微生物学について教えを受けました。シアトルで、当時調査船で同地に寄港していた北海道大学の坂井稔教授とその学生たち、木村喬久博士にお会いできたことも幸運でした。この出会いをきっかけに長い友情と交流が始まり、北海道大学水産学部と東京大学海洋研究所との共同研究へとつながっていきました。また、日米両政府による多年にわたる学術交流プログラムも非常に大きな成果を上げました。今日に至るまで、私は日本を始め多くの国々の研究者とともに歩んでまいりました。
   現在は、海洋細菌の分類学についての博士課程時代の研究をもとに、微生物叢(マイクロバイオーム)の研究を行っています。次世代DNAシーケンサーを用い、微生物の迅速で正確な発見、同定、特徴付け、菌種・株の分類を行っています。この手法は、海洋生物学、医療、農業、環境の分野で応用され、中でも先進国と開発途上国での飲料水の分析に用いられています。水由来の疾病、すなわちコレラに関する研究は、細菌生存のメカニズムと生態学的原則の解明という点でも、また人間の健康への直接的な応用という点でも大きな成果を上げています。基礎研究で得た科学的根拠をもとに生み出された、簡単で効果的な水のろ過方法は、バングラデシュの村々やアフリカの辺地で活用されています。
   今日、生命科学は極めて重要な分野となっていますが、その土台となった数々の発見は、私たちの先人や仲間の研究者たちの手によってなされたものです。私の40年にわたる研究は、こうした多くの素晴らしい研究者の不断の努力なくしては実現し得ませんでした。メリーランド大学のアンウォー・ハク博士、そしてバングラデシュを始め多くの国々の研究仲間の皆様お一人おひとりに心からの感謝を捧げ、本日のこの栄誉をともに分かち合いたいと存じます。
   そして、今は亡き両親に、特に父のルイス・ロッシに深く感謝いたします。父は女子にも教育機会を与え、能力を最大限に発揮させるべきであるという考えを持ち、私の勉強意欲をいつも支えてくれました。そして、夫であり同じ研究者でもあるジャック・コルウェル博士には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいです。夫のおかげで私は研究者の道を歩み続けることができ、ともに楽しく幸せな家庭を築くことができました。生命科学における最も素晴らしい共同実験、すなわち子育ても成功し、二人の娘も立派に成長してくれました。現在アリソンは進化生物学者として、ステイシーはフィジシャン・サイエンティストとして活躍しています。この授賞式の場にぜひ夫もいてほしかったのですが、残念ながら健康上の理由で来日はかないませんでした。本日は神経科学者を目指している孫のアデレード・コルウェル・カニングとともにやってまいりました。この国の優美な文化を肌で感じ、また最先端の研究に触れることで、将来、彼女にも日本の皆様との共同研究の機会が訪れるかも知れません。
   最後に、若い世代、特に女性の皆様にメッセージを送りたいと思います。どうぞ自分の直感を大切に、今一番やりたいと思っていることにチャレンジしてください。そうすればきっと成功します。いつも広い心を持ち、疑問を持ち続け、自分を信じてください。乗り越えなくてはならない障害があろうとも、その先には明るい未来が待っています。最後まであきらめずにやり遂げてください。努力は必ず報われます。
   私はこれからもメタゲノミクス研究と微生物の同定に取り組み続け、次世代の研究者たちの成長を見守ってまいります。40年前に私が始めた研究は、今も進化を続け、素晴らしい成果を生み出しています。こうした成果はやがて、海洋微生物学の世界を変えていくことになるかも知れません。
   あらためて、このたびは栄誉ある賞をいただき、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

第33回国際生物学賞審査経過報告

国際生物学賞委員会審査委員長 福田 裕穂

国際生物学賞委員会審査委員長  福田 裕穂氏

   第三十三回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。
   審査委員会は、私及び海外の研究者四名を含む二十名の委員で構成いたしました。
   審査委員会は、今回の授賞対象分野である「海洋生物学」にふさわしい受賞者を推薦いただくため、国内外の大学、研究機関、学協会および国際学術団体等に、千五百三通の推薦依頼状を送りました。その結果、四十四通の推薦状が届きました。このうち重複を除いた被推薦者の数は十七か国・四十名でございました。
   審査委員会は、四回の会議を開催して、慎重に候補者の選考を行い、第三十三回国際生物学賞受賞者として、リタ・ロッシ・コルウェル博士を国際生物学賞委員会へ推薦いたしました。
   コルウェル博士は、ワシントン大学で博士号を取得後、ジョージタウン大学やメリーランド大学で研究を続けられたほか、米国国立科学財団長官としても活躍されました。現在はメリーランド大学特別栄誉教授及びジョンズホプキンス大学特別栄誉教授でいらっしゃいます。
   コルウェル博士は、海洋細菌の分類同定に新しい手法を導入し、コレラ菌を含むビブリオ属の分類体系を確立しました。また、海洋細菌の生態学的研究から、その生存戦略における「生存はしているが、培養は不可能な状態」の重要性を提唱し、微生物学、医学分野に大きな貢献をしました。さらに、地球温暖化とビブリオ属の生息域拡大、コレラ発症地域の拡大の関係の解明や、発展途上国におけるコレラ防疫のための貢献など、コルウェル博士の功績は高く評価されています。
   コルウェル博士の業績は、本賞の審査基準である、授賞対象分野への適合性、研究の独創性、当該分野における影響力、および生物学全般への貢献度のいずれをも十分に満たすものであります。
   国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦に基づいて審議を行い、リタ・ロッシ・コルウェル博士に対し、第三十三回国際生物学賞を授与することを決定いたしました。
   以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。

第33回国際生物学賞記念シンポジウム

   受賞を記念して、筑波大学、日本学術振興会との共催により第33回国際生物学賞記念シンポジウム「海洋生物学が未来を切り開く」が12月5日(火)、6日(水)の2日間、つくば国際会議場にて開催されました。受賞者リタ・ロッシ・コルウェル博士による特別講演をはじめ、国内外の研究者が海洋生物学に関する最新の研究成果についての講演を行いました。
   講演は「海洋細菌の動態」、「海洋生態系の探索とその未来」、「海洋生物と人間社会」など多岐にわたり、一般の方から学生、研究者まで多くの方が参加し熱心に聴講し、発表後の質疑応答などでも活発な議論が行われました。

   


当日パンフレット