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米国科学審議会による米国科学財団の2020年までの展望


 米国科学審議会(National Science Board:NSB)は 、2005年12月に、近年の厳しい予算状況の中で米国科学財団(National Science Foundation:NSF)を有効に機能させるため、および21世紀における米国の科学技術に対するNSFの役割を明確化するため、NSFに対する2020年までの長期展望を発表した。

 この展望は、米国が21世紀においても世界のリーダーであり続けるということがキーワードである。それを科学技術の側面から如何に実現化していくべきかが記されている。その方法論としてのポイントとしては、「激しく変化していく科学技術の進歩に遅れをとらずについていくこと。」、「情報通信技術の重要性」、「人材養成」、「国民への科学の理解」といったことが挙げられる。また、「世界のリーダーであり続ける」ためには、NSFの予算をもっと増加すべきという議会に対するアピールとも受け止めることができる。

 以下、その展望の内容について報告する。なお、原文は、NSFのホームページ(http://www.nsf.gov/attachments/106772/public/
National_Science_Board_2020_Vision_nsb05142.pdf
)で閲覧可能である。


米国科学財団の2020年までの展望

NSBの2020年までの展望として、以下のことを挙げている。

1. NSFは最新の基礎科学及びトランスフォーマティブ(*)な研究の原動力となること。

2. すべての一般市民、特にマイノリティー等の階層から人材を発掘すること。

3. 初等中等教育において理科教育の新しい教育方法を試すこと。及び博物館や大学等と協力し、新しい教育方法をさらに強化すること。

4. 優れた研究者に必要な研究機材を提供し、世界に通用する発送を促進すること。

5. 研究費確保と人材確保を継続すること。


(*)トランスフォーマティブとは…

原文では、「transformative research」。直訳すると、「変化の可能性のある研究」。ここでの意味合いとしては、科学上の既成概念や既存の研究分野に変革をもたらす、あるいは、新たな発見、斬新な技術につながる可能性のある研究のこと。


戦略的優先事項

この展望を実現させるため、NSFは次の3つの戦略的優先事項に焦点を絞る。

1. 科学的に最も重要な分野、及び将来に利益が見込まれる分野に重点を置き、もって米国が世界のリーダーとしての地位を保持すること。

2. 世界レベルの科学工学に対する人材を今後も確保し、一般社会への科学に対する理解を向上させること。

3. 基幹施設や実験機材、IT設備等、最新の実験が可能になるよう、投資すること。


NSF2020年までの展望の実現に向けた短期目標

NSF法で掲げられている予算増と現実の予算がかけ離れた現在において、以下のことを短期目標として掲げる必要があるとNSBは提言している。

1. NSFのリーダーシップにおいて、研究の機会を最大限に生かし、国家の利益につながる包括的な方策を計画すること。
 NSFは科学を振興する機関としては独特の存在である。他の機関は、特定の研究分野について予め指定されたトップダウン的な研究を振興しているが、NSFは、医学分野以外の全ての研究分野を対象として包括的に支援している。このため、NSFは、研究者のコミュニティーのニーズをくみ上げ、柔軟かつ素早く対応することができる。その結果、NSFはこれまで以上に効率的、効果的に研究者を支援し、国家の利益につながる可能性がある研究にも支援を行うことができる。

2. NSFはトランスフォーティブな研究の機会を強化すること。
NSFは、革新的でトランスフォーティブな研究、すなわち、科学上の既成概念や既存の研究分野に変革をもたらす、あるいは、新たな発見、斬新な技術につながる可能性のある研究を支援しなければならない。しかしながら、NSFのピアレビューシステムは、保守的な傾向が見られる場合がある。すなわち、ハイリスク・ハイリターン的な申請を採用しようとしない傾向がある。このピアレビューシステムを改善し、多様な研究課題を受け入れられる環境を整備する必要がある。

3. NSFは現在の教育を厳格に評価し、STEM教育(理科、技術、工学、数学教育)を強化する新しい方策を進展させること。
NSFは、学校教育においても、一般社会においても米国のSTEM教育について大きな役割を果たしている。NSFは、独特の機能を持っており、大学や小中高等学校といった「フォーマルな教育機関」だけでなく、サイエンスセンターや博物館等、生涯教育に貢献している「インフォーマルな教育機関」とも関係を持っている。NSFは、フォーマルな教育とインフォーマルな教育とを結びつけ、一般社会への科学の理解及び世界に通用する競争力のある人材を育てることができる機能を持っている。NSFのリーダーシップにより、初等・中等教育の教職員と博物館や大学の教職員との交流を図り、もって協力関係を築く必要がある。

4. NSFは、教職員の若い世代、さまざまな世代に対して研究費の獲得の機会を拡大すること。
米国の大学は、米国の基礎研究を推進する重要な機関であり、高度に教育された人材を生み出す機関でもある。これまで、米国は、マイノリティーや女性、身障者といった階層の能力を引き出すことにあまり力を注がなかった。これらの階層にも、チャンスを充分に与え、国家の競争力と繁栄を増大させる必要がある。また、次世代の大学を担うPhD取得直後の若い研究者にも充分な機会を提供する必要がある。


実施可能な方策

戦略的優先事項を見据えて、短期目標を達成するための方策である。

1. 最先端の研究機器、施設、IT設備等、最新の実験が可能な研究インフラを整備し、もってトランスフォーマティブな研究を可能にすること。
 この10年、研究インフラに対する投資は、技術の進歩、研究機会の拡大、利用者の数の増加に追いつくことができなかった。さらに次世代の強力な実験道具によってのみ、発見される新しい課題もあり得るだろう。新しい道具により、研究者はより生産的で、より高度な研究課題に取り組むことができるであろう。

2. 既存の国際協力関係や国内他機関との関係を強化しつつ、新しい協力関係を発展させること。
 20世紀後半に発展した世界規模の通信技術が世界経済を発展させたと言える。世界的な知識の交流は経済成長の重要な要素である。経済成長の原動力たる科学技術の重要性に鑑み、NSFは科学政策と対外政策とが関連する取り組みを支援することになるだろう。二国間及び多国間の科学技術協力は安定した国際関係の維持に貢献し得る。NSFは発展途上の経済社会への協力を含めた事業を模索することになるだろう。その際、科学工学研究及び教育における国際協力への支援について、NSFがリーダーシップをとることなる。

3. 優秀な職員の確保及び優れた運営を維持すること。
 研究成果が頻繁に上がっており、さらに、科学教育の重要性も指摘されている中、NSF職員の業務量が大幅に増大している。さらに、厳しい予算状況により、業務の質も高度化が要求されている。このような厳しい状況の中、NSFの労働力の質の向上が求められている。米国の研究、教育に対して、効率的、効果的な事業の運営を行えるだけの労働力を確保していくことが必要である。


(JSPSワシントン研究連絡センター発行『ワシントン便り(平成18年4月号)』掲載)