米国2007年度大統領予算教書の概要1. R&Dに関する2007年度の予算教書のポイントジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領は、2006年2月6日、2007年度の大統領予算案を発表した。 大統領予算案の内、R&D(研究開発)予算総額は1,372億400万ドルと、前年度(1,337億8,100万ドル)に比べて微増の約3%増となっている。分野別の内訳は、(1)基礎研究が282億4,700万ドル(前年度比約1%増)、(2)応用研究は261億ドル600万ドル(同約7%減)、(3)開発は784億8,000万ドル(同約7%増)と、開発予算の増加が目立って大きい。 また、国防・軍事関連の兵器開発・実証評価を除く科学技術予算(Federal Science and Technology:FS&T)額は598億3,600万ドルで、前年度と比較すると約1%減少している。(FS&T予算とは、軍事関連の兵器開発・実証評価を除くR&D予算額を算出するために利用される分類方法で、いわゆる民生向けの新知識・技術創出のための活動に充てられる予算を指す。) R&D予算が増加している省庁は、前年度比約8%増のNSFを筆頭に、NASA(前年度比約7%増)、エネルギー省(同約7%増)、国防総省(同約3%増)、国土安全保障省(同約2%増)となっている。一方、その他の省庁のR&D予算は軒並み前年度割れしており、NIHを傘下に持つ厚生省(前年度より3,000万ドル減)や商務省(前年度より1億4,000万ドル減)では微減となっているものの、内務省(前年度比約6%減)、環境保護庁(同約7%減)、農務省(同約17%減)、運輸省(同約21%減)におけるR&D予算減少は大きい。 表1は、2007年度におけるR&D予算額の内訳及びFS&T予算額を示したものである。(データは、大統領府のOffice of Management and Budget: OMB)発行の「Analytical Perspectives: The Budget of the United States, Fiscal Year 2007」の資料による。) 表 1 2007年度大統領予算の中で提示されたR&D及びFS&T予算案
単位:億ドル、()内は対前年比増減率
出典:OMB, Analytical Perspectives: The Budget of the United States, Fiscal Year
2007. February 6, 2006. 注1:各欄2段目に示した()は前年度推計値と比較した増減率を示す。なお、この増減率はOMB資料に書かれているものをそのまま転載している。 注2:教育省予算のR&D予算(FS&T予算を除く)は「その他の省庁」の欄に含まれているため、該当部分については記載していない。 注3:2007年度の大統領R&D予算総額には、基礎研究、応用研究、開発の他に研究機器・施設への予算も含まれているため、基礎研究・応用研究・開発を足したものは必ずしもR&D予算総額に等しくならない。 注4:科学技術予算(Federal Science & Technology:FS&T)は、軍事関連の兵器開発・実証評価を除くR&D予算額を算出するためにOMBが利用する分類方法で、いわゆる民生向けの新知識・技術創出のための活動に充てられる予算を指す。 注5:「-」もしくは「(-)」は、出典のOMB資料では記載されていない箇所を示す。 注6:NSF開発の欄にあるN.A.(Not Applicable)は該当値なしを示す。これは、NSFは基礎・応用研究を担当し、開発は行わないことを示すものと考えられる。 注7:退役軍人省については、前年度比の増減率が計算されていないが、これについては特に大統領予算教書上に説明はない。 2. 研究開発優先事項連邦政府では、複数の省庁の間で調整・実施する必要がある課題を「複数省庁R&D優先事項(multi-agency R&D priorities)」として設定している。この内、ネットワーキング・情報技術、ナノテクノロジー、気候変動という3つのR&D分野に関しては、計画・調整を担当する専門の調整機関が設置されており、これら3分野への2007年度R&D予算額も予算教書内に明記されている(表 2参照)。 2007年度大統領予算案における、複数省庁R&D優先事項は以下の5つの分野となっている。 (1) テロ対策(Combating Terrorism)2007年度予算では、テロ対策R&D予算の使途分野として、生物・化学・核関連事故で撒き散らされた汚染物質の早期・安価な除去方法の開発・実用化、伝染病や化学物質の地理的拡散を評価し、取るべき対策とその結果をシミュレートする予測モデリング分析能力の強化、家畜や植物における病気の疫学や生態学を研究し、食料供給や農業システムの安全性促進などが挙げられている。 (2) ネットワーキング・情報技術(Networking and Information Technology)ネットワーキング・情報技術分野でのR&Dは、省庁横断型プログラムである「ネットワーキング・情報技術R&D(Networking and Information Technology R&D: NITRD)」を通じて計画・調整が行われており、ハイエンド・コンピューティングシステム、大規模ネットワーキング、ソフトウェア開発、高信頼システム、情報管理、サイバーセキュリティ、その他の情報技術分野の研究開発に対して、2007年度予算では、総額30億8,900万ドル(前年度比7,200万ドル、約2%増)が割り当てられている。参加省庁の中でも、エネルギー省が実施する関連予算が23%増、NSFが12%増とこの2機関に対する予算額が大きくなっているが、これは主にスパコン支援に向けられたものである。詳細については、後述参照。 (3) ナノテクノロジー (Nanotechnology)ナノテクノロジーR&D分野については、「国家ナノテクノロジーイニシアティブ(National Nanotechnology Initiative: NNI)」を通じて、学際的なセンターオブエクセレンス(Center of Excellence)の設置、ナノテクに従事する労働者の教育・訓練、研究施設の設立などを実施し、基礎・応用研究活動への支援継続が参加省庁によって行われる予定である。またNNIでは、ナノ材料が人体や環境へ及ぼす影響や倫理的・法的問題など、ナノテクがもたたらす社会的影響に対する研究にも力を入れている。 2007年度の大統領予算案では、NNIへの予算は総額12億7,500万ドル(前年度比2,400万ドル、約2%減)となっており、環境保護庁(同900万ドル、80%増)とエネルギー省(同2億5,800万ドル、25%増)の予算が増加している。 (4) 気候変動(Climage Change)気候変動に関するR&Dは、気候変動科学プログラム(Climate Change Science Program: CCSP)と、気候変動技術プログラム(Climate Change Technology Program: CCTP)の2本立てで行われている。 CCSPでは、気候変動に関する科学的な知識を深める活動を中心とし、NASA、NSF、商務省海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)などが中心となっている。一方CCTPは、エネルギー省と商務省が中心となり、代替エネルギーの研究やゼロエミッションを目標としたインフラの整備などに必要となる技術の研究を行っている。 (5) 水素(Hydrogen)水素R&Dの省庁間調整機関となっているのは、水素R&D省庁横断型タスクフォース(Hydrogen R&D Interagency Task Force)で、水素関連製造・イノベーション、安全性、規則・技術標準、燃料電池・水素製造・水素貯蔵に関する基礎研究について、省庁間での協力・調整・情報交換を実施している。 水素R&Dの中心省庁となるのはエネルギー省で、同省庁が実施する大統領水素燃料イニシアティブ(President's Hydrogen Fuel
Initiative)では、水素燃料電池自動車の開発・実用化が目指されているが、この中でも、2007年予算案では、水素製造・貯蔵・インフラ向上の研究に関する基礎研究への投資額が54%増加している。
表 2 ネットワーキング・情報技術R&D (NITRD)、
国家ナノテクノロジーイニシアティブ(NNI)、 気候変動科学プログラム(CCSP)への2007年度大統領R&D予算 単位:億ドル
出典:同上 注1:NOAAは海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)の略称、NISTは米国標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)の略称。 注2:テロ対策、気候変動技術プログラム、水素R&Dについては、2007年度大統領予算額全体像については、OMBから発表されていない。 3. その他の注目研究開発プログラム2007年度予算案においては、その他にも、核不拡散新技術開発やスーパーコンピュータ分野での予算増が目覚しい。 (1) 核不拡散新技術開発を目指す「国際原子力パートナーシップ」2006年2月6日、エネルギー長官サミュエル・ボッドマン(Samuel Bodman)が、核不拡散新技術開発を目指す「国際原子力パートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership:GNEP)」の立ち上げを発表した。このパートナーシップは、核燃料再処理と核廃棄物削減技術の開発・実証を行い、原子力発電の利用推進を世界的に行うための包括的イニシアティブであり、2007年度予算として2億5,000万ドルが請求されている。(参考:US Department of Energy Press Release, "Department of Energy Announces New Nuclear Initiative." February 6, 2006. http://www.energy.gov/news/3161.htm) 「国際原子力パートナーシップ」の枠組みを利用して、米国では、核関連技術を有する各国と協力して、核不拡散・再処理新技術を開発し、発電量を増加させ、核廃棄物を削減して、核兵器拡散の懸念を最小限に抑えることを狙っている。さらに米国に協力する各国は、発展途上国に対して核燃料を提供する燃料供給プログラムも実施するとエネルギー省では発表している。 このパートナーシップの目標として、大きく以下の4つが挙げられている。
また、「国際原子力パートナーシップ」は以下のような7つの要素から構成されるという。(参考:The Global Nuclear Energy Partnershipウェブサイト http://www.gnep.energy.gov/)
この「国際原子力パートナーシップ」は、エネルギー省が実施している「先端燃料サイクルイニシアティブ(Advanced Fuel Cycle Initiative)」という既存のイニシアティブを強化する形で行われることになっており、エネルギー省予算案の中では「国際原子力パートナーシップ」という括りで予算請求はされていない。以下表 3は、先端燃料サイクルイニシアティブの予算詳細を示したものである。 表 3 エネルギー省 先端燃料サイクルイニシアティブ予算
単位:万ドル
出典:エネルギー省2007年度予算案 注:SBIR(Small Business Innovation Research)、STTR(Small Business Technology Transfer)の各プログラムは、中小企業を対象とした研究開発補助金制度。 (2) スーパーコンピュータ米国競争力増進努力の一環として、2007年度予算案ではスーパーコンピュータ支援に対する予算が増額されている。スーパーコンピュータに関連する活動を実施している主要省庁はNSFとエネルギー省の2省であるが、そのどちらともにおいて前年を大きく上回る予算額が計上されている。(スーパーコンピュータは、米国では一般的に、HPC(High-Performance Computing)と呼ばれている。) <NSF> NSF内においてスーパーコンピュータ関連活動を支援する主要部署は、サイバーインフラ局(Office of Cyberinfrastructure)で、ここでは、「リーダーシップクラス・ハイパフォーマンスコンピューティングシステム調達(Leadership Class High Performance Computing System Acquisition)」プログラムが実施されている。このプログラムでは、ペタスケールを実現する世界でも最速級となるスーパーコンピュータの調達を行い、NSFから委託を受けた大学や研究機関などでスーパーコンピュータの管理・運営、さらには研究や教育といった分野での利用を行うことになっており、これにより「科学コンピューティング分野での世界トップとしての地位を維持する」ことが目指されている。2007年度大統領予算では、前年から5,000万ドル増額の1億2,712万ドルが割り当てられている。 <エネルギー省> エネルギー省におけるスーパーコンピュータ支援は、主に、先端科学コンピュータ研究局(Office of Advanced Scientific Computing Research)を通じて行われている。同局が実施するプログラムのうち、「ハイパフォーマンス施設・テストベッド(High Performance Computing Facilities and Testbeds)」がスーパーコンピュータに係るもので、以下のような活動から構成されている。
それぞれの予算額は以下表 4の通りとなっている。 表 4 エネルギー省 ハイパフォーマンス施設・テストベッド関連予算
単位:万ドル
出典:エネルギー省2007年度予算案 Volume 4: Science and Other. p.209-210. (平成18年2月7日 JSPSワシントン研究連絡センター) |
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