ANR(Agence Nationale de la Recherche)についてフランス政府はフランス国の優先研究分野を国の責任で振興・発展させるために、GIP ANR(Groupement d’interet public - Agence Nationale de la Recherche)を2005年2月7日に設立した。この組織は、フランス国(当時の高等教育担当省、研究担当省、保健省及び産業財政省)と8つの研究機関*がメンバーとなっている。ANRは、国の研究政策の枠組みにおいて、基礎及び応用研究、技術革新、産学連携、公的機関の研究成果の経済界への技術移転を支援することを目的とし、科学技術の優秀さを基準にして、提案プロジェクトの選考をするものである。事務局を国民教育・高等教育・研究省においている。国が主導性を示す指標として、決定権の52%を国が持ち、その他を各研究機関が6%ずつ持っていることが当機関の規定に定められている。 当機関は、総会を持たず、評議会がすべてを決定する。評議会のメンバーは研究担当大臣が指名する2名、他省大臣が指名する各1名、そのほか各参加研究機関の代表者1名ずつから成る。評議会議長は評議会を必要に応じて会議を招集し、少なくとも年1回開催している。評議会によって指名された事務局長がANRの実際の運営を行う。評議会事務局には公募事業を企画する6つのセクションがあり、そのうち5つは国家の優先研究分野(持続可能なエネルギー及び環境、材料及び情報、生物及び健康、エコシステム及び持続可能な開発、人文社会科学)で残りの1つは自由課題又は分野横断的課題のセクションである。 2005年には35の公募プロジェクトが提案され、これに対し5,400件の申請のうち1,400件のプロジェクト(4,500の研究グループ又は個人研究者)が採用され、助成総額は5億4000万ユーロに及んだ。この中には、海外で活躍している極めて優秀な研究者をフランスに招へいし研究室を開設するプロジェクトや、優秀な若手フランス人研究者による独立の研究グループの発足を支援するプロジェクトも含まれている。各プロジェクトは2年〜4年間資金援助される。2006年の公募がすでに始まっており、総額8億ユーロの助成が予定されている。 数年前まではCNRSにも競争的公募プロジェクトがあったが、今ではCNRSの総予算に占める割合が1%未満と極めて少なくなってきた。ANRが競争的公募プロジェクトを担当するようになり、例えば自由課題の場合、1件のプロジェクトにつき年間約200,000ユーロを助成している。 これに対して、化学の場合を例にあげると、CNRSからある研究ユニット(10研究室)に支給される運営費は年間約75,500ユーロと少なく、しかも年々減少の傾向にある。つまり、ANRのプロジェクトに採用された場合、CNRSから支給される10研究室全体の運営費1年分より多い額が支給されることになる。(もちろん優秀な研究室はCNRSばかりでなく、大学からも運営費が年間約82,000ユーロ支給されるが、意欲的な研究テーマの遂行には全く不十分な状況である。)よってANRへの研究者の関心も非常に高い。 ただし、このようなトップダウン形式の欠点は、国家の優先研究課題に沿う研究内容に自分の研究を合わせなければ研究資金が支給されないということである。長期間の地道な研究が新しい発見につながることがフランスではしばしば見られ、それをCNRSが支援してきたことを考えると、そこに問題点があると考える研究者も多い。そこで、ANRの2005年度の助成額の30%しか占めていなかった自由課題に対して2006年度はこの割合を増やすよう、Jean-Marie LEHN教授(ノーベル物理学賞受賞者)などが提言している。 結論として、ANRとCNRSの違いは、ANRは競争的公募資金を扱う機関で、フランス国家の優先研究課題を振興・発展し、社会に還元することを究極の目的とし、独自の研究所や研究者を持たず、また国際部はない。これに対し、CNRSは研究所や研究者を有し、彼らの日常の研究活動を支援する機関である。世界諸国と国際協力も盛んに行っている。
(平成18年2月24日 JSPSストラスブール研究連絡センター) |








