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JSPSセミナー「マラリアの多様性と戦略」


 2008年6月11日、カロリンスカ医科大学ノーベルフォーラムにおいて、JSPSストックホルムオフィス主催の日瑞共同セミナー「マラリアの多様性と戦略」が開催されました。本セミナーは、カロリンスカ医科大学(以下KI)との共催により開催され、当日は日瑞の研究者や学生等70名が参加しました。
 近年、マラリアへの対応は国連ミレニアム計画において最優先課題とされ、長年にわたり有効な対策が模索されるものの、未だアフリカやアジア太平洋ではマラリアに感染して多くの方が命を落とし、国の発展を妨げる深刻な事態となっています。本セミナーは、21世紀における新しいマラリア対策の方向性を見出すことを目指して企画されたものです。特に、日本はアジア太平洋のマラリア研究において、人および原虫の集団遺伝学を中心に強い研究基盤を持っています。一方、スウェーデンはアフリカにおける臨床疫学および免疫学を中心にした研究実績に高い国際的評価を得ています。本セミナーはこれらの両国の卓越した成果を有する若手研究者や、流行地での豊富な支援経験を有する研究者が一堂に会し、建設的な討論を行うとともに、今後の共同研究にネットワークづくりを図ったものです。
 冒頭、在スウェーデン日本国大使中島明氏より開会の挨拶をいただき、本セミナーが両国の研究者交流をより一層促進する重要なきっかけとなること、また、先般、日本で開催されたアフリカ開発国際会議(TICAD)では、アフリカの発展を妨げる三大感染症(結核、エイズ、マラリア)撲滅に対して、日本政府は財政支援を図り、対応を主導していくと提示したところであり、このセミナーの成果に期待を寄せていると述べられました。
 続いてKIのAnders Bjorkman教授からの課題提起によりセッションが開始されました。マラリア研究には多様なアプローチからの研究蓄積を共有することが不可欠であり、セッションは主に<寄生>、<媒介蚊>、<薬>、<ワクチン>に分けられ、セッションごとに両国の研究者から最新状況や成果発表が行われました。各発表者は研究者、医師、獣医等様々な経歴を有する方々で、マラリア研究はややするとこれまで分野ごとに個別に、あるいは研究室での臨床研究と現場での実践研究が別々に進められる傾向があったとされるなか、分野横断的に研究成果を共有・交換する場となり、活発な質疑がなされました。
 セッションの合間には、博士課程の学生を中心にした若手研究者たちが研究内容をわかりやすく図解したポスター発表を行い、会場の参加者たちは休憩中もコーヒーを片手に色鮮やかなポスターを囲み、意見交換を楽しんでいました。
 4つのセッションを締めくくる、最後のセッション<対策>では、ザンジバール等における臨床研究、流行地を代表してケニアとバヌアツの厚生労働省対策立案担当者から、マラリア感染の実態、政府の取組が紹介され長期的な視野に立つ研究及び財政的な研究支援の必要性が強く主張されました。会場の参加者も交えて活発な質疑応答が行われ、最後に佐野浩所長から、本セミナーを機会にできた交流を継続し、今回の議論の成果をまとめて学会関係誌に掲載し、広く普及したいとの挨拶とともに幕を閉じました。
 このほか、翌日はKI内の研究室訪問や「健康」をテーマに行われたKI主催セミナー「グローバルヘルスデー」に参加し、貴重な交流の機会となりました。
 本セミナー開催にあたり、協力をいただきましたカロリンスカ医科大学金子明先生にこの場を借りてお礼申し上げます(下記にセミナーのご報告をご寄稿いただいておりますので、ぜひご覧ください)(文責 ストックホルム研究連絡センター)。



会場にて
会場前で
会場にて
会場前で


JSPS日瑞共同セミナー「マラリアの多様性と戦略」を終えて
金子 明

 最近Lancet誌が巻頭言で「マラリア根絶は可能か」と問いかけた。援助国側の楽観主義が世界中で台頭してきている。しかし人類のマラリア対策の歴史は、たとえ短期的な成果があがったとしても、長期的に維持することは、決して容易ではないことを明確に示す。マラリア根絶を長期的に維持できるシナリオを、人類はいまだ見出してない。この状況を背景に本セミナーは開催された。日本からは東京女子医大(小早川教授、美田講師)、自治医大(平井講師、石井名誉教授)、長崎大学(平山教授、金子教授)、三重大(鎮西名誉教授)、京大(五斗教授、山田先生)、愛媛大(坪井教授)、独協医大(河井助教授)から御参加いただいた。スウェーデン側は、カロリンスカのProf. Anders Bjorkman, Prof. Mats Wahlgren、ストックホルム大のProf. Ingrid Fayeのグループが主として参画した。マラリア重症化、原虫媒介蚊干渉、治療薬耐性、ワクチン開発、現地対策などマラリア研究の主用課題を網羅し、まさに多様なマラリア研究者が集う会となった。

 近年のゲノム科学の進歩は、マラリアに関わるエージェントである人(Homo sapiens)、ヒトマラリア原虫(Plasmodium falciparum)、マラリア媒介蚊(Anopheles gambiae)の全遺伝子コードを解読した。これらの新たな知識はいかにマラリア流行地住民の生活水準向上に寄与するのか?これは現在国際社会が総力を挙げてマラリア根絶を図る中で、21世紀における重要な課題であると考える。本セミナーでは、まず様々な専門性から基礎研究の最新知見を報告していただいた。これらを土台にし、引き続き行われた流行地対策戦略の実情を議論するというセッションでは基礎とフィールドの橋渡しを強く意図した。これにはケニアからのDr. Willis Akwaleおよび南太平洋ヴァヌアツからのMr. George Taleoの参加が大きく貢献した。両氏共、それぞれの現場においてマラリア対策プログラムの総責任者である。現地からの発表は、とりわけ、セミナーの議論をはっきりと眼に見えるものにしてくれた。

 フィールド研究を通じてGeorgeとは過去20年間、Willisとは2001年来の親交がある。かれらには、国を代表するだけにとどまらず、太平洋島嶼およびアフリカ大陸のマラリアを代表してもらった。現在、「貧困の病」としてマラリア対策に国際社会から強い関心が集まっている。世界の注目の多くは、中島大使もご挨拶で触れられたようにアフリカに向っているが、アジア・太平洋には生物医学遺伝学的のみならず、社会経済文化的に極めて異なる範疇のマラリア伝播が展開する。さらにメラネシア島嶼は原虫を根絶し、その状態を維持することが可能な条件を備える。島嶼モデルから議論を出発し、それをサハラ以南アフリカに応用、展開していくプロセスが考えられている。セミナーではこれらマラリア対策戦略における地域特性に焦点があてられた。

 セミナーには多くの大学院生など日瑞若手研究者も参加した。ポスター発表や討論への参加はもとより、さらにセミナー進行も手伝ってくれた。会場でのセッションやその後のビュッフェパーテイや飲み会を通じて多様な研究者同士の日瑞交流が行われた。多くの参加者が、本セミナーにおける基礎とフィールドのユニークかつ重要な接点を認めていた。またMatsは「アメリカ抜きで、日瑞の力を示した」点を評価してくれた。今後、この枠組みに更にマラリア流行地を入れたマラリア共同研究を推進し、真の学術的成果に結び付けてゆきたい。

 最後に、マラリアを課題として取り上げていただいたJSPSに心から感謝したい。ストックホルム事務所の毛利さん、猿橋さん、Lisa-Miさんには準備段階から大変お世話になった。閉会の辞で佐野所長が触れられたように、セミナーの成果、情熱をproceedingsとして残すべく、引き続き準備を進めている。ご多忙中、日本からおいでくださった先生方そして奥様達、アフリカ大陸から来たWillis、南太平洋から何便も乗り継いでストックホルムまできたGeorge、御自身のアフリカでの貴重な体験からマラリア問題に触れられた中島大使、そして多くのスウェーデン側研究者、本セミナー成功は、皆様のご参加ご協力がなければなしえなかったことを最後に言及し、あらためて深く心より御礼申し上げます。
(筆者は、Karolinska Institutet, Department of Medicine、准教授)


(JSPSストックホルム研究連絡センター発行『ストックホルムセンターだより第19号
(平成20年7月1日)』掲載)