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ドイツは如何に国際的に優秀な研究者を惹き得るか


現在の欧州の研究環境としては、米国等との競争のみならず、欧州間に於いてもFP7(Seventh Research Framework Programme)に於いて、ERC(European Research Council)が設置され、機関規模による研究者獲得競争が一層熾烈になっている。フンボルト財団(the Alexander von Humboldt Foundation: AvH)は、外国からの研究者の受入及びドイツの研究者の派遣を長年実施してきていることから、研究者にとって何が魅力であり、何が彼らの移動の弊害であり、組織の在り方としての弊害であるかを、元フェローへのアンケート調査により具体的に明らかにすることを試みている。日本の研究者受入環境とは必ずしも一致しなくとも、興味深い報告であるため、全文仮訳を載せる。



−フンボルト財団 2007年6月11日 プレスリリース−


機会の増進、業績インセンティブの向上、ハイリスク研究支援の増加、硬直組織の緩和


フンボルト財団が国際的に優秀な研究者をドイツに惹き付ける方法-「10か条計画」-を推奨


ドイツは、国際競争力を付け、最も優秀な研究者を海外から呼び寄せるにあたり更に競争に打ち勝たなければならない。これは、毎年1800人の一流研究者及び若手研究者の交流を支援しているフンボルト財団が出した結論である。研究者の国際化を促進する機関としての経験と、ドイツ及び国際的ネットワークからのフィードバックを元に、フンボルト財団は、10か条からなる計画を提案する。


フンボルト財団のGeorg Schuette事務総長は、「フンボルト財団はドイツへ優秀な研究者を呼び込む戦略を、具体的に改善し、弾みを付けるため、本報告をまとめた。("The Foundation's objective in this paper is to achieve concrete improvements and give impetus to a location strategy for research policy")」とコメントした。本報告の真髄には、研究業績を上げた分の見返りを増やし、競争を増やし、リスクをより多くした上で、役所仕事を減らすことが挙げられている。Schuette事務総長は「スタッフの任命方法が硬直的で、報酬が魅力的でなく、人事が役所的で、若手研究者に未来への希望が無いのではないか、など、どこを改善し、外国にどう倣えばよいのかは、国際比較をすれば分かる。」とも発言している。


高等教育協定(the Pact for Higher Education:der Hochschulpakt)、エクセレンス・イニシアチブ(the Excellence Initiative: die Exzellenzinitiative)、研究・イノベーション協定(the Pact for Research and Innovation: der Pakt fur Forschung und Innovation)は全てドイツの研究政策に何かが起こっていることを示している。このようなアプローチは強化拡大しなければならない。Schuette事務総長は「大学、研究機関、研究政策の目覚めの時である。("It is time for an awakening at universities, research establishments and in research policy")」と主張している。フンボルト財団は、「10か条計画」のような構想を打ち出すことでこの啓蒙活動に貢献し、フンボルト財団が築いてきたネットワークによる専門知識を活用することを目指している。「10か条計画」は、次に掲げるとおりである。



どうすればドイツは、最も優秀な研究者を惹き付ける国際競争に勝てるか?


フンボルト財団 「10か条計画」


ドイツの大学及び研究機関は最も優秀な研究者を獲得するのに今まで以上に困難な競争に直面している。優秀な研究者は世界中から引き合いがあるものである。次に掲げる10か条は、フンボルト財団がドイツ内外の同財団のネットワークから得た研究者の要望をまとめたものである。


1. 研究者にもっと職を

ドイツの教授は平均63人の学生を指導している。この数字は、国際的にトップレベルにある大学の教授の2倍以上の負担にあたる。EUのリスボン戦略における目標を実現するには、ドイツは研究者の職を新規に70,000ポスト作らなければならない。高等教育協定(the Pact for Higher Education)と、研究・イノベーション協定(the Pact for Research and Innovation)は若手研究者の採用のための財政的基盤となる。しかしながら、措置が不十分であるため、中期的に増補が必要である。


2. 研究者としてのキャリアには計画的確実性が必要:
若手研究者の選択肢としてのテニュア・トラックの構築

ドイツの大学は、博士と安定した教授の職の間にキャリアステージを考案し、しかもそれを国際的に互換性を持たせなければならない。英米のテニュアトラックパターンに於いては、機関に(テニュアポストを得て)残れるかに係る決定がなされるような、明確な適格審査措置が規定されなければならない。このようなステージモデルは、仮に、このような道を進む人のほんの数パーセントしかチャンスがないとしても、教授に選抜されるチャンスを含んでいなければならない。


3. 大学首脳陣が指導的役割を担いキャリア支援を

大学や研究機関の長のような年長の学者は、同機関の若手研究者の人材養成に積極的な役割を果たさなければならない。若手研究者は、キャリア指導が必要である。進路計画を確実にするには、学界のみならずその他業界も含め、正しい進路を見つけるために、進路計画の支援を得られることが前提となる。


4. リスクの高い研究への支援により早期の研究者の独立を支援(萌芽研究支援)

国際的に比較すると、ドイツの若手研究者は決定権の及ぶ範囲が少ない。早期に独立してできる研究支援事業をより強化すべきである。特に若手研究者に対しては、不確実なリスクのある研究を支援するべきである。


5. 採用及び選考の方法をよりプロフェッショナルな(公平な)ものに

公平な選考手続きは不可欠である。2005年に学術協議会(the Science Council: Wissenschaftsrates)が最低限の基準を示している。研究者が国際的に移動することが成功をもたらすとすれば、公平性はしかるべく認識されなければならない。選考手続きは、最初から勝者が決まっていることのないよう、公平で透明性が高くなければならない。この目的を達成するため、選考委員会は外部の、または利害関係者でない専門家を含まなければならない。機関全体の利益のため、学部や研究科のみならず大学の経営陣も決定過程に参加し、結果に影響を及ぼすようにしなければならない。優秀な研究者の選考は短期間ですべきである。特に、大学や研究機関は、これまでより広範に積極的に若手研究者を国際的に募集する必要があるので、国際的に尊敬を集めている大学は、選考に何年も時間をかけない。


6. 固定教授制度を辞め、経営構造を採用

大学及び研究機関の最も重要な要素「人材」は、上司がいつも頭を痛めるものである。従って、大学経営陣は現在の大学の自由化及び自治の拡大を大いに利用すべきである。大学や学術が発展すると、併せて教授の個別のポジションに、再評価に高い関心が集まることとなる。個別のケースに於いて、ポジションの継続の可否は学内関係者のみならず、必要であれば学外の関係者との協働において再決定されるべきである。固定教授制は、柔軟な選択肢を取り入れるべきで、そうでなければ解消すべきである。独立の若手の研究グループリーダーは、学内のジュニア・プロフェッサーと同等に置かれ、また大学と大学以外の研究機関との間の協働に参加する状況に置かれなければならない。大学及び研究機関の経営陣に求められる要望は増えており、研究外の経営責任にある程度見合う報酬を経営陣の給与に反映させねばならない。


7. 研究セクターの集団的賃金協定のための特別規則の策定

多くの関係者によると、公務員に係る新賃金協定(TVoD/TVL)は、大学及び大学外の機関における研究者にも非研究者にも適正な給与とは言えない。他の給与尺度に照らしても、この賃金体系は、国内的にも国際的にも競争力がなく、流動性を制限し、研究者生活の特異性を考慮しておらず柔軟性を欠いている。これは研究者にも非研究者にも当てはまる。特に産業界のような他の分野に於ける経験を有する者へしかるべき給与が支払われることは、人を介した技術移転の活気と生産性を保つのに不可欠の前提条件である。


8. 国際競争力のある給与

最優秀な研究者を獲得するには、「ダブル・ペイ・スケール」が今日の国際科学競争が置かれている需要に相応しいか否か、を判断するためによく分析すべきである。最も優秀な研究者を獲得するには、その給与も国際競争下にあることを心しなければならない。現在大学で有効な、教授の給与に対する割当枠は、(給与の国際競争に参加出来るほどの額を積める)自由度はほとんどない。著名研究者の指名を国としての特別事業とすれば、国際的に著名研究者をドイツに惹き付ける条件の一つとなる。


9. 社会保障の国際化

国家間を移動する研究者は、年金受給権に関する財政的な損失という大きな不利益を受け入れなければならないことがしばしばある。少なくとも欧州レベルで、社会保障給付金を国家間移動の基本条件として導入すべきである。学術機関や個々の大学は、平衡資金を使ってこの不利益を一時的に補填することはできるかもしれない(が、根本的な解決ではない)。


10. 透明性の向上と魅力的な労働環境の創出

仕事に関係した条件同様、世界で最も優秀な研究者を獲得するには、いずれのキャリアステージに於いても当人とその家族に対する支援は決定的に重要である。

・ 国際的に活躍する若手研究者に、ドイツの研究機関に意識を向ける手っ取り早い方法を供すため、彼らが見つけやすい場所に個人的に相談できるような情報相談窓口を設置すべきである。

・ 期間限定でドイツに来る外国人研究者のために適切な住居を設けることは喫緊の課題である。(AvHの既存事業である)「研究者のための国際交流センター(international meeting centres for scientists and scholars (IBZ):Internationale Begegnungszentren der Wissenschaft)」*1関する新たな事業を、これまでの事業を元に更に(上乗せする形で)導入すべきである。

・ ドイツの研究者を雇用する立場の者は、特にトップランクの研究者を任用する場合、他国に於いては既に標準となっている、移転に係る支援を手続き上も財政上も提供することができるような地位にいなければならない。

・ 大学等研究機関に於いて国際的に活躍する研究者の子供の養育施設を、迅速かつ大規模に拡大しなければならない。子供の養育施設が少ないせいで、ドイツは優秀な研究者の獲得競争に負けることが未だにしばしばある。

・ 優秀な研究者を惹き付けるには、配偶者の就職アドバイスや支援や、配偶者も研究者である場合のキャリア・アドバイスや支援が必要である。外国の例を見ても、具体的な職の斡旋でなくても(通常困難である)、理に適ったコンサルティングであれば多くの人のニーズに応えることができる。



(原文)
フンボルト財団 2007年6月11日 プレスリリース:
http://www.humboldt-foundation.de/en/aktuelles/presse/pn_archiv_2007/2007_18.htm外部サイト
http://www.humboldt-foundation.de/en/aktuelles/presse/pn_archiv_2007/2007_16.htm外部サイト


(参考)
*1研究者のための国際交流センター
http://www.humboldt-foundation.de/en/netzwerk/ibz/index.htm外部サイト
1960年代からフンボルト財団は、ゲストハウスと研究者のための国際交流センター
を全ドイツに50大学67カ所に設置してきた。ドイツに来た外国人研究者及びその家族に宿泊先を提供する。宿舎、談話室、個別相談、文化的行事、学術会議などを提供することを通して外国人がドイツ人と個人的付き合いも専門家同士の付き合いもできるようにし、外国人がドイツの日常生活にとけ込めるよう接点を作り出している。


宿泊施設は大学や研究所により貸し出される。フンボルト財団が建造してきたゲストハウスと国際交流センターは、大学の所在地により仕分けられ、それぞれのパートナーにコンタクトをするようになる。


※ この記事は、フンボルト財団からの許可のもと、仮訳し掲載しています。


(JSPSボン研究連絡センター発行『ぼんぼん時計(平成19年春 第16号)』掲載)