「研究者に対するサービスが向上すると大学の研究の質も向上する。」(フンボルト財団フリューバルト会長)―フンボルト財団(AvH)、ドイツテレコム財団、公益法人ドイツ学術振興寄付連盟共催による「Welcome Centre」にかかる経過報告―前回までの報告(下記、「関連記事」を参照。)に引続き、我が国の大学国際戦略本部強化事業の一部と類似したドイツの「Welcome Centre」について経過を報告する。 フンボルト財団(the Alexander von Humboldt Foundation: AvH)は、ドイツテレコム財団(the Deutsche Telekom Foundation)、ドイツ学術振興寄付連盟(Stifterverbandes fur die Deutsche Wissenschaft: the Donors’ Association for the Promotion of Sciences and Humanities in Germany)との共同出資により、大学に於ける研究者の流動性を高めるための方策として、「Welcome Centre」という事業を開始。パイロット・モデルとして全国の大学に公募した結果、3大学(ボン大学、ボーヘム大学、マールブルク大学)が採択され、2007年1月から同事業が実施され、各大学は特に、外国人研究者が来独直後に直面する様々な問題を大学として如何に解決し、外国人研究者をサポートし得るかに関し、各大学独自の試みを開始した。2007年5月31日から6月1日にかけて、開始から約半年経過した各大学の試みに関し、経過報告会が開催された。同報告会の開催前に、各大学にインタビューを行っているので、その結果を併せた形で報告する。 各大学のそれぞれの試みに於いて大きく共通するのは、経費支援が2年間であることから、新たな常勤職員を多数雇用するのは困難であるため、いかなる組織を構築できるか。に重点が置かれている点にある。どの大学に於いても、事業の「sustainability」は取組み構築の大きな前提であり、したがって、各大学で同事業に専門に取り組める人員は、1人から2人程度で「少ない人員、少ない経費で「どこからかの無償協力」を如何に取り付けるか」、が「Welcome Centre」組織構築の鍵であると認められる。それぞれを取り巻く環境は異なるとはいえ、運営費交付金が削減され続ける日本の大学にも参考となればと思う。 同事業は、大学国際戦略本部強化事業が目指すところと同様に、「個々の研究者、研究室が個別に対応していた国際交流を、大学による組織的国際交流に変革し、推進する」ことを目的としており、個別対応による重複を回避することが望まれている。特に、「Welcome Centre」に於いては、外国人研究者がドイツにおける研究にスムーズに取り係る方法を模索することが、学内における研究の質向上に欠かせないものであるという認識に基づき、組織構築がなされている。つまり、研究そのもののCOE構築が進んでも、外国人研究者が滞在しにくい状況であると、外国からの知識が集積されない、ということを共通理解としたうえで、より外国人研究者及びその家族が滞在しやすい環境を整備することが本事業の目的となっている。この点は、AvHのフリューバルト会長が2007年1月の年次総会に於いて「Welcome Centre」の意義として、端的に語っている。“Die Serviceleistungen fur Forscher sollen auf das Niveau der Forschungsqualitat der Universitat gehoben werden” (左英語訳からの拙訳:「研究者に対するサービスが向上すると大学の研究の質も向上する。」) したがって、大学国際戦略本部強化事業が支援する取組みの一部と共通する箇所もありながら、ドイツでの取組みは、大学の国際的Visibilityを高めることよりも、流動性を高めやすい学内環境整備を図ることにこの事業の重点が置かれている。 なお、インタビューの結果、どの大学においても各年何人程度の外国人研究者が同大学を訪問しているか、という点については大学本部は承知していない。学籍の把握と異なり、訪問開始時や訪問期間が一律でない外国人研究者の受入に関しては、把握の状況は芳しくないようである。 また、外国人研究者の受入支援のほか、大学の国際的取組みにおけるガバナンス、国際的観点に立った中期的目標の設定、外部経費の取得、職員の国際感覚の涵養と言った点は、ドイツの大学に於いても今後の課題として関心が高い。特に、職員の国際感覚・言語習得に関しては、「うちもそうです。」と半ば嘆息めいた反応があった(ただし、ドイツ人は一般に日本人よりも英語を理解する人口と達成度が高い。)。 したがって、インタビューを実施した大学に我が国の大学国際戦略本部強化事業を紹介すると、必ず高反響があり、日本に於ける取組みを是非紹介して欲しいという声が挙がった。 採択大学のそれぞれの試みは次のとおり。前回の報告に詳述したグッド・プラン以外に、各大学に特徴的な組織作り及び「Welcome Centre」の取組みをサポートする集団」がそれぞれいるため、これらを中心に大学に報告したい。 【 ボン大学 】 <組織>:外国人研究者のニーズのデータ解析を基にした学内外に働きかけを目指す 組織の在り方としては、大学国際戦略本部強化事業経過報告に於ける類型としては、「集中管理型」に近い。外国人研究者の質問に対するスイッチボードとして適所へ受け渡しつつ、寄せられた問題点の収集・分析する。 同大学の取組みで最も特徴的なのは、同大学を訪問する外国人研究者の状況把握(期日、期間、個人か家族か等々)から開始し、データをウェブ上で集積する手段を以って、学内の環境改善の他、学外の外国人局、市当局、プライベートセクターに対し、外国人研究者のニーズをデータ解析結果を以って説得に当たり、外国人研究者にとって、より住みやすい大学の周辺環境作りを試みようとしている点にある。 また、他の大学以外の研究機関等(MPGの研究所、国連大学等)を訪問中の外国人研究者のデータも同機関と協力し、「ボン近辺の外国人研究者のニーズデータ」として同様のロビー活動のための幅広いデータ収集を実施することも検討している。このような互恵効果によるインセンティブを高め、「外国人研究者にとって住みよい街作り」が目指されているところに、高い効果が期待出来る。 <サポート集団>:サポートする学生に「Certificate」を発行 【 ボーヘム大学 】 <組織>:「マトリックス」を用いた部局及び学外組織との連携 同大学を訪れる外国人研究者のデータ集積をはじめ大学組織構造改革そのものに関する、大学内外の理解を得ることからスタートしている。ただし、組織構造改革が全学を取り込む物になるため、まず「外国人研究者宿舎」の管理・サポートから取組み、徐々に拡大する予定である。 AvH担当者の話によると、4月半ば時点では、「ボーヘム大学の取組みは、他大学からの関心を最も多く集めている。」とのことである。これは恐らく、大学の全組織をWelcome Centreの導入による改革に取り込むケースとして、他大学のスタート地点に近いせいではないかと思われる。 同大学の取組みにおいては、したがって、大学内部における理解・関心を高めるために、各研究科、人事課等との二者会議を頻繁に重ね、また、ドイツでは入国してから査証申請をするため、査証取得問題は、必ず長期滞在者に発生する。この問題の解決のため、外国人局等の学外組織との二者会議も頻繁に実施したうえで、6月に合同会議を実施する予定とのことである。このことにより、学内のワン・ストップとしてのWelcome Centreの周知をはかり、外国人研究者が各機関担当者のどこに最初のコンタクトをしても、必ず滞在に必要な情報を得られるプロセルを形成しようとしている。 <サポート集団>:サポートする学生に「Diploma Supplement」への記載事項付加 この、「Diploma Supplement」への記載事項として付加するという発想は、ヨーロッパ全土で「何を勉強し、どのレベルであるか」を比較できるためのコメントとして記載されるものであり、全欧的に認知されるものである新しい取組みである。したがって現時点では前例が無く、各大学の関心はそこに集まっているとも推量でき、興味深い。 なお、「Diploma Supplement」については、最下に参考ウェブを掲載してあるので、ご参照いただきたい。 【 マールブルク大学 】 <組織> <サポート集団>:ボランティア退職教授による同じ立場のサポート 同大学の他の大学に無い試みは、「Welcome Committee」という、退職教授による集団である。退職教授は、外国人研究者の社会への統合(Social Integration)を促す役割を期待されている。「外国人研究者は、研究者の立場の人々がサポートすることで、安心感を得る。」という理念に基づいている。 間接的な精神的サポートも含め、退職教授にボランティアによる生活アドバイス協力を依頼する。自分自身が外国で体験した苦労を経験として持ち、或いは、外国人研究者を受け入れたことにより、外国人研究者がドイツで感じた苦労を分かちあった経験を持つ退職教授が気の利いたサポート(到着日直後は自宅に招き食事を共にする、銀行や店に直接案内できる等)を実施することを期待しているものである。年配の教授によるサポートであることから、外国人研究者が精神的安心感を持てることも利点である。75歳以下の退職教授は300名程度千存しており、このリストから、専門が近い研究者を選択、マッチングさせることをWelcome Centreが実施する。 学生によるサポートを得るためのインセンティブとしては、同大学も「Diploma Supplement」への記載事項として付加することを予定しており、同大学の学生も国際課がトレーニングを実施し、ピックアップサービスや、日常生活の不便へのサポートを手伝うよう「Personal Support-team」を構成してはいるが、退職教授の協力インセンティブを如何に引き出すかは今後の課題かと思われる。また、退職教授の経験や性格には必ずしも均一性が期待できないことから、サポートの不均一が生じる可能性がある。最低限のサービス・クウォリティに関するオリエンテーションや、グッド・プラクティスの研究やその結果の共有が必要と考えられる。 なお、同様の取組みは、アメリカにおいては、スタンフォード大学で成功している。 <まとめ> また、大学全体としてのサポート体制作りの一環としてどの大学も一対一のサービスを検討しているのは興味深い。学生にインセンティブを与えてサポートするか、退官教授のボランティアを募るかが、方法の違いとして現れている。しかし学生であれ退官教授であれ、人的サポートは、個人の資質によるところが大きいため、大学が最低限のサービスやグッド・プラクティスを如何に提供出来るか、が「外国人研究者のため」の取組みの成功を左右するのではないかと推量する。 なお、同経過報告会には、約100名の国際担当課長等が集まった。大学のみならず、研究所、各省労働局関係者なども滞在許可証発行に問題があるケースの増加を想定してか、(同日に、査証発行方法の変更にかかるプレゼンテーションもあった。)参加しており、またルクセンブルク大学やノルウェーのオスロ大学からの参加もあった。 次回の経過報告会は、2007年12月13日及び14日にボンで開催される予定。 ボン大学による説明への出席者からの質問とそれに対するボン大学からの回答 ・BISSとボン大学の学部との仕事分担はどのように行なっているか ・ゲストハウスはないのか ・廃止となった理由は ・Familientagなどのイベントについては,外国人研究者はドイツ人と交流する機会を得たいと考えているが,外国人同士しか集まらないのが問題なのではないか。1対1でドイツ人に会わせるなどしてはどうか。 ・ビザ等に係る書類の記載についてBISSは具体的にはどのようにサポートしているか ・ボン大学は国際的な大学だと思うが,事務スタッフも英語はできるか ・学部が研究者の情報をBISSに届け出てどのような利益があるか 出席者から提示された大学における例 (参考サイト) (関連記事) (平成19年6月19日 JSPSボン研究連絡センター) |








