日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.6

「FoSの魅力:二つの理由」

掛川武 東北大学大学院理学研究科地学専攻教授

樋口 知之

情報・システム研究機構 理事
統計数理研究所 所長
総合研究大学院大学統計科学専攻 教授

FoS参加歴:
1st JGFoS スピーカー
3rd JGFoS PGM
4th JGFoS PGM


   私とFoSとの関わりはJGFoSのみになるが、ちょうど10年前の第1回にスピーカーとして、また第3,4回にPGMとして楽しく参加させてもらった。最近はソーシャルメディア等により情報の交換が同時的かつ多様になり、研究者においてもヴァーチャルな場での議論はもはや当たり前のことである。意思疎通が会わずとも容易になってきた時代に、FoSのように合宿型形式で自分の専門とは全く違う話を聞くシンポジウムの価値はなかなか理解されにくい。実際、参加された先生の中には、この点に強い疑問を感じられた方もいらした。小綺麗にまとめられた研究成果発表会等が多数開催される昨今、こんな“手作り感”と骨太感あふれるシンポジウムは、確かにちょっと珍しい。

   一方、そんなウェットな場が、二つの理由から私には大変魅力的であった。一つは、私の専門は統計学や機械学習(人工知能)であるため、普段から、その応用領域として多様な分野の方々と話す機会がある。学際的および分野横断的な学問を職とするからには、異分野交流が根っから好きでないといけない。様々なことに興味を持つ、相手の話をじっくり聞く、自分の考えをしっかり相手に伝える等の広義のコミュニケーション能力は、異分野交流を円滑にすすめるための必須の技であるが、統計学を専門とする研究者には具備されるべき資質である。よって、私は、そもそもFoS向きの人間だったと思っている。

   JSPSの事務局の方々も含めて、FoSの形態に懐疑的な先生と熱く議論したことが懐かしく思い出される。その時に、FoSの大きな目的は、“シンポジウムに参加するプロセスを通じて、将来有望な学問分野を目利きできる人材の育成にある”と、私は力説した。研究者には、生涯、先鋭的な姿勢でもって自ら新しい研究領域を開拓し続けるタイプもいるが、多くは年齢とともに何かしら研究組織の運営に携わるのが普通である。そのような責任ある立場になると、多数の研究プロポーザルから将来性のある提案を選定したり、自分の専門領域とは異なる分野のプロジェクトの評価を行ったり、組織横断的な新しい企画を立ち上げる等の必要性にもせまられる。その時に役に立つのがFoSで鍛えられた広義のコミュニケーション能力ではないかと思う。

   もう一つの理由は、私が飲み会好きなことである。あえて自己弁護するが、アルコールそのものが好きと言うより、アルコールで励起および加速される、研究や思想に関する熱い議論が好きなのである。自分の研究室で新しくポスドクを採用する際の面接においても、研究室が企画する飲み会に参加する意思があるかどうかを採用の基準の一つとしているほどである。FoSもこのあたりの志向を共有していると思う(ひょっとするとJGFoSだけかも知れない)。ドイツで開催される時には相手側財団から十分なサービスを受ける一方、日本で開催する時、国の予算の支出の範囲だと、夜の意見交換に必須のアルコールがなかなか確保できない。この点はJSPSの事務職員の方々が私どもの希望に理解は示してくださるものの、規則上の限界を超えることは当然できなかった。

   第4回では苦肉の策として、在日ドイツ大使館がアルコールを提供してくださることになった。ただし、ドイツ大使館公邸で料理等は振る舞われるという条件とのこと。当時、JGFoSは神奈川県湘南国際村で開催されていた。ドイツ大使館は東京都港区南麻布にあり、私の研究所(統計数理研究所)のとなり(研究所は2009年に立川市に移転)に位置していた。ドイツ大使館主催の歓迎会の日、私たちは湘南国際村をバス2台で出発し、ドイツ大使館公邸で大いに語らい、食べ、飲み、またバスに長時間揺られて湘南国際村に帰っていった。往復にかかった時間も相当であったため、こんなことならJGFoSを統計数理研究所で開催すれば、毎晩、ドイツ大使館による歓待が受けられたのにと残念に感じたことが私にとって一番印象に残っている。「酒の恨みは怖い」と言うが、まさにそのとおりである。読者のみなさまには卑近な思い出話で申し訳ない。

   現在は、目的を明確にしたトップダウン型の競争的資金による、効率的なイノベーション創成が一般からの期待の中心である。そのような事業の成功は、応募の中から優れた提案を見抜き、プロジェクトへの参加者を上手に誘導し育てる人間の存在にかかっている。だからこそ、プロジェクトディレクター(PD)や、プロジェクトマネージャー(PM)の制度を導入する大型予算が増えているのである。

   では日本にはこれまで、そのような人材を組織的かつ継続的に育成するプログラムはあったのであろうか?残念ながら非常に少ないと言わざるを得ない。その中でFoSは明らかに先駆的であり、将来PDやPMに、あるいは大学の運営に携わる人材を、多数育成してきた大きな実績がある。深い専門性と多様な価値観を備えた若い研究者がFoSを通じてこれからもどんどん世の中に巣立っていくことを願うとともに、それを支えるJSPSの奮起に一層期待する。

すべてのイベントを終了後、PGMの仲間で帰国前にしばし歓談。ドイツ・ハイデルベルグにて
【第3回JGFoS:すべてのイベントを終了後、PGMの仲間で帰国前にしばし歓談。ドイツ・ハイデルベルグにて】
【第4回JGFoS:集合写真 樋口PGMは最右列前から4番目 湘南国際村にて】
【第4回JGFoS:集合写真 樋口PGMは最右列前から4番目 湘南国際村にて】