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国際事業部人物交流課
外国人著名研究者招へい担当
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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Dudley Robert Herschbach

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
平成18年
 
12月2日 関西空港へ到着(来日)
大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
12月3日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
12月4日 理化学研究所(和光)を表敬訪問。野依良治理事長、茅 幸二中央研究所長と面談。鈴木俊法主任研究員の案内で研究所見学、その後理研セミナーで特別講演。
12月5日 日本学術振興会を表敬訪問。小野元之理事長と面談。また人物交流課において高校生の理科教育に関して意見交換。
帰阪。小谷眞一理学研究科長と面談。国立大学法人大阪大学招へい教授の称号授与。
大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
12月6日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
スプリング8(播磨)を見学。JASRI理事長(吉良)と原研放射光科学研究ユニットユニット長(水木)と面談。
12月7日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
国際研究集会2006(阪大院理・化学)にゲストアドバイザーとして参加。
大阪大学事務局を表敬訪問。宮原総長と面談。
21世紀COE「自然共生化学の創成」主催による特別講演。
12月8日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
大阪大学レーザーエネルギー研究所を見学。
大阪府立住吉国際科学高校で講演。
12月9日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
12月10日 大阪大学大学院理学研究科における共同研究。
関西空港より離日。

受入実施の状況とその成果

  1. 共同研究「化学反応における分子配向効果の新しい観測と制御の開発」
     大阪大学大学院理学研究科化学専攻・反応物理化学研究室において、共同研究「化学反応における分子配向効果の新しい観測と制御の開発」を行った。内容は我々の研究室で現在進行中の研究である、Si(111)表面上のNO分子解離吸着反応における分子配向効果に関する立体ダイナミクス研究の実験成果について議論した。またその議論に基づいて、さらに高感度かつ配向選択的にNO/Si(111)表面反応における分子配向効果の観測を今後どのように行えばよいのかを議論をした。その結果、まずNO分子の高い回転量子状態に対応する配向選択も行えばよいと言う結論に達し、現在使用のものよりさらに電場勾配の高い六極電場を制作することになった。その結果、新たに六極電場を設計し制作を行った。第二の提案は新しい観測法に関するもので、表面と化学結合を結んでいる反応生成物のSiNやSiOの活性サイトの位置に関する情報を得るため、市販のX線源ではなく高輝度放射光を用いた光電子分光することが有効ではないかという意見で一致した。このように今回、強電場分子配向法の開発者でありかつ交差分子線による反応ダイナミクス研究の創始者であるハーシュバッハ教授と直接意見交換できたことは、われわれが今後立体ダイナミクス研究をさらに進展させる上で大いに助けとなる貴重でタイムリーな来日であり今回の招へい事業に感謝している次第である。
  2. 国内研究および教育関係者との学術交流と意見交換
    2-1.理化学研究所(和光)の見学と講演
     日本における代表的な大規模研究所である理化学研究所(和光)を表敬訪問した。野依良治理事長、および茅 幸二中央研究所長と面談し、日本、米国両国における科学研究の動向と若手研究者育成の重要について意見交換した。その後、鈴木俊法主任研究員の案内で研究所を見学した。引き続き、理研セミナーで特別講演“Imaginary Gardens with Real Toads”を行なった。講演内容は、現代社会の一つの重要な課題である科学と技術の成果と内容をどのような形で社会に反映させ貢献すればよいのか、また真の科学的創造性とは何か、さらに科学教育そして科学を社会に普及させる方法について述べ、「応用があっての科学」という価値観にひとつの警告を示した。
    2-2.日本学術振興会を表敬訪問。
     小野元之日本学術振興会理事長と面談し、科学研究支援体制や科学教育の将来展望と国際化について意見交換した。また人物交流課において高校生の理科教育の重要性、若手研究者との交流の日米の試みについて紹介した。
    2-3.スプリング8(播磨)施設の見学
     JASRI理事長、原研放射光科学研究ユニットユニット長水木純一郎氏と面談し、大型放射光施設の日米における利用状況と社会的役割について意見交換した。その後、水木ユニット長の案内で放射光施設を見学した。
    2-4.国際研究集会2006(阪大院理・化学)にゲストアドバイザー参加
     大阪大学大学院理学研究科および財団法人日本板硝子材料工学助成会の共催による国際研究集会2006「表面反応のダイナミクス制御:シリコンおよび関連物質」 (International Workshop on Dynamics Control of Surface Reactions: Silicon and Related Materials)を大阪大学豊中キャンパスで開催した。この実施に当たってハーシュバッハ教授に研究集会実行委員会のゲストアドバイザーの任を果たしていただいた。シリコンおよび関連物質を中心とする新物質の開発と基礎研究について有意義な発表と議論があった。
    2-5.大阪大学事務局を表敬訪問。宮原総長と面談
     大阪大学総長宮原教授と面談した。大阪大学における教育と研究の国際化への取り組みについて説明があり、一方ハーバード大学における対日学生交流の事例について紹介があり意見交換をした。
    2-6.大阪大学レーザーエネルギー研究所の見学。
     大阪大学附属レーザーエネルギー研究所の見学を行なった。自由電子レーザー開発の進捗状況の説明、レーザー関連技術開発の社会への波及効果と企業との共同開発について紹介があり、日米において基礎研究が応用研究に強い影響を与えていることの重要性が議論された。
  3. 若手研究者、院生、大学生、高校生への科学の啓蒙活動
    3-1.大阪大学21世紀COE「自然共生化学の創成」主催・理学研究科共催による特別講演
     大阪大学21世紀COE「自然共生化学の創成」主催・理学研究科共催で若手研究者、大学生を対象に特別講演 “The Impossible Takes a Little Longer”を開催した。講演では、ハーシュバッハ教授自らがその研究と教育において実践している科学に対する基本的な考え方、すなわち「永遠に学生である」という立場で自らの経験を通して自然を観察する姿勢の大切さを指摘した。特に講演において、「好奇心に裏つけられた」研究の現実の世界における価値の高さ、そして科学と人間の本性に直結する芸術との深いつながりについて強調された。
    3-2.大阪府立住吉国際科学高校における講演
     国際科学高校として指定されている大阪府立住吉高等学校において、主として一学年、二学年を対象に講演 “The Thirteenth Labor of Hercules”を行った。講演内容は、ギリシャ神話に登場するヘラクレスの13番目の難問を題材にしたもので、科学の力強さを通して理科教育への示唆に富んだものであった。すなわち12の難問をすべて解決した無敵の英雄ヘラクレスに対して「地球の大気の重さを量りなさい」という13番目の難問が与えられた。この難問の解決は、若き学生トリチェリーによってなされた。彼の先生は高名なガリレオであり、注目すべきことは、そのガリレオでさえ地球の大気の重さを量ることが出来なかったということである。すなわち教育とは教えることではなく、生徒が彼の先生を越えるという立場でなされなければならないということである。地球の大気の重さを量る問題、換言すれば真空の概念とその概念に基づいた日常生活への応用を導き、実際、現代文明の形成に大きく寄与することになる。この講演は、高校生が今後理科を学ぶことへの関心と理科学習への強い動機を与えたように思われる。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

大阪大学は、かつて国立大学であったものが法人化され現在に至っている総合大学の代表的な一例であると考えてよい。このように大学が法人化されて以降、一般的に見られる傾向で、とりわけ自然科学分野の研究教育に限ってとくに顕著に現れている現象を取り上げると、それは大学の研究教育活動の評価において、きわめて短期間で社会に対して目に見える形で実効的な成果が問われるようになったことである。すなわちかつて大学に対して期待された人材育成や新たな価値観の創成ではなく、物質とそれに関する技術の社会貢献が重要視される、いわゆる「応用があっての科学の意義」であるという事実にある。大学における人材育成においても、今日では卒業生が企業や社会にとっていかに即戦力として寄与できるのかという点に重きが置かれる。換言すれば、物質面から見た科学の成果がすなわち社会への貢献であるとの考え方である。今回の招へいでハーシュバッハ教授が行った3つの講演を通しての最大のメッセージは、現在の政府施策により押し進められている、このような科学の実益的なとらえ方や風潮に対するアンチテーゼではないかと強く感じた。

ハーシュバッハ教授のメッセージとは、我々自然科学者、教育者は今こそ原点の考えにもどり本来の科学すなわち「好奇心に裏付けされた科学(curiosity-driven science)」を考えなければならないということではないか。それはちょうど芸術が人類の精神的側面を豊かにするのと同様に科学は人類普遍の精神性の高揚を第一義的な目的としなければならないということである。このことは時として、「文化としての科学」というとらえ方をされる場合があるが、ハーシュバッハ教授のメッセージはもっと根元的なものではないか。とりわけ大学は「好奇心に裏付けされた科学」を行うべき使命があるのではないかとの強い印象を持った。このような観点から、今回の招へいでハーシュバッハ教授の講演が受入機関においては理学研究科で行われた意義は大きい。また将来の若手研究者である高校においても講演を行ったことも貴重な一例ではないかと考えている。言うまでもなく、科学活動そのものが、人種、国境の壁に無関係であり、まさに大学の国際化に通じることもハーシュバッハ教授滞在中に何度も議論されたことである。

以上のことから招へい研究者受入機関に対する寄与はきわめて大きく、大学生、院生を含む若手研究者へまたとない刺激となったのではないかと考えている。