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外国人著名研究者招へい担当
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| Prof. Antoine Compagnon
滞在中の日程
受入実施の状況とその成果 今回のコンパニョン教授招聘は、伝統的な文献学と斬新な着想を兼ねそなえた文学研究における第一人者を京都大学に招き、京都のほか、東京(東京大学、慶応大学)や仙台(東北大学)で共同研究と講演を企画し、さらに日仏会館でのプルーストをめぐるシンポジウム、日本フランス語フランス文学会春期大会(中央大学)におけるプルースト研究会や大会での講演を通じて、広く日本の文学研究者との交流を深め、日本における文学研究の発展に貢献することを目的とした。 京都では京都大学文学研究科フランス語フランス文学専修の教員・大学院生を中心に受入の準備をすすめたが、東京滞在では東京大学人文社会系研究科の中地義和教授、仙台滞在では東北大学文学研究科の今井勉准教授、また慶応大学での講演では文学部の牛場暁夫教授および琴村傑准教授、日本フランス語フランス文学会春期大会では中央大学の永見文雄・三浦信孝・小野潮の3教授の献身的なお力添えをえた。講演などの詳細は「滞在中の日程」に記したとおりであるが、いずれの催しも、フランス語フランス文学の研究者を中心に多数の聴衆をえて盛会であり、それぞれ活発な討議がおこなわれた。 成果の第一に挙げるべきは、コンパニョン教授が文学研究における「倫理」の重要性にあらためて注意を喚起し、多くの研究者がこの問題について考察を深めることができたことである。とくに「プルーストはとんでもない奴だ」(慶応大学、京都大学)、「サン=ルーの不幸」(京都大学)、「ブロックと邪悪な喜び」(中央大学におけるプルースト研究会)をめぐる講演でコンパニョン教授は、プルースト本人、小説の話者、作中人物において善意と悪意の葛藤がどのように表現されているかを精密に分析し、近年の文学研究において等閑視されてきた文学における倫理表現の重要性を強調した。文学に表象された倫理の問題をどう扱うかをめぐり、それぞれの研究機関にてコンパニョン教授と討議し、研究上の貴重な示唆がえられた。 第二の成果は、作家の創作における文化的背景の重要性を再認識させられたことである。コンパニョン教授は、シンポジウム「プルーストとその時代-小説生成の文化的背景」(日仏会館)における「プルーストの時代におけるスタンダール」と題する研究発表で、プルーストの青春時代に自伝的作品発掘をめぐるスタンダール再評価の気運が盛りあがったこと、当時の熱心なスタンダール・クラブの中心人物と交友があったことを指摘し、それが作家の初期作品の重要テーマと通底していることを明らかにした。シンポジウムの他の発表とともに、小説生成の文化的背景に関する研究がいかに重要であるかを再認識する恰好の機会となった。 第三の成果として、現代文学における写真という媒体がもつ意味を再考察できた点が挙げられる。コンパニョン教授は「今日の写実小説」(東京大学、東北大学)をめぐる講演において、1980年代から現在にいたるフランスの写真をとり入れた物語の隆盛をとりあげ、それが多くの場合、肉親の死という語ることの困難な喪の体験をいかに表現するかという課題に応える試みであることを明らかにした。フランスの現代小説が直面する重要な課題をとりあげ、現代人の切実な自己確認に文学がいかに応えうるかを問うた示唆にとんだ講演であった。 第四に挙げるべきは、日本フランス語フランス文学会春期大会(中央大学)における「フランス文化の将来」と題するタープル・ロンドである(約200名の聴衆)。世界規模でのフランス文化の影響力低下が指摘され、日本でも、フランス語フランス文学を専攻する学生数や、翻訳されるフランス小説の販売部数などが顕著な減少をみている。その原因は、フランス文化それ自体の衰退なのか、文学を核とする伝統的教養の失墜なのか、それとも世界経済のグローバル化と、英語一極集中がもたらした必然なのか。この問題をめぐり、招聘責任者である吉川一義の司会で、コンパニョン教授の総括講演と、中地義和・東京大学教授による日本におけるフランス文化の現状をめぐる報告を聴き、会場の学会員と討議をした。文献学的教養の衰退、非西洋文化の隆盛、大学改革の名による語学・文学教育の軽視など、今後の語学・文学の研究教育はどうあるべきかを考えるうえで、貴重な情報と示唆をえることができた。 以上、いずれのコンパニョン教授の発表や講演においても、じつに綿密な資料調査とテキスト読解を基礎にすえたうえで、そこから文学における倫理、創作における文化的背景、現代人の自己認識、文学を中心とする文化の将来など、重要な一般的主題について斬新かつ説得的な論旨が展開された。教授の滞在が40日以上にわたり、疑問点について個人的に質疑・討論する機会も充分にあり、日本の文学研究者にとって、じつに刺激にみちた有意義な招聘であった。
招へい研究者の受入機関に対する寄与 コンパニョン教授を受け入れた京都大学、東京大学、慶応大学、東北大学では、それぞれのフランス文学研究室の研究者が教授との共同研究や討論の機会をもち、研究上、多くの示唆を得ることができた。そのなかには各研究室の大学院生をはじめ、関西、関東、東北地方の若手研究者も多く含まれていたから、コンパニョン教授の最新の研究方法を学び、また親しく討論に参加することにより、各自の研究に貴重な刺激を受けたものと信じる。
コンパニョン教授招聘の中心となった日本のフランス語フランス文学会は、もともとフランスとの研究交流の盛んな学会である。しかし来日研究者の多くは1週間から2週間の滞在をするのが慣例で、コンパニョン教授のような高名な学者が6週間にわたり来日し、各地の研究機関において多様な共同研究と講演の機会をもつことができたのはじつに貴重な機会で、受入機関全体の国際化に多大の寄与をしたものと信じる。 受入研究者である吉川の場合にかぎっても、今回のコンパニョン教授の来日を契機に、重要な研究上の示唆をえただけでなく、パリにおける研究指導資格審査への審査員としての参加(2009年冬)をはじめ、京都におけるプルーストシンポジウム(2010年秋)、フランスのスリジーにおけるプルースト・シンポジウム(2013年夏)などの共同開催が具体化し、研究の国際化にきわめて有益であった。プルースト原稿帳校訂版作成の重要な拠点となっている京都大学文学研究科だけでなく、大学全体の国際化にも多少の貢献ができたものと信じる。
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