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外国人著名研究者招へい担当
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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

浅野 孝

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
平成20年
 
1月8日 来日
1月9-10日 土木研究所にて受け入れ研究者との活動予定打合せおよび研究指導
1月11日 講演準備
1月14-15日 香川県多度津町にて下水処理水再利用施設の見学および技術指導
1月16日 大阪市のホテルプリムローズで開催された特別セミナー「水循環の計画と設計」において基調講演(主催:国土交通省国土技術政策総合研究所、(独)土木研究所、(財)大阪府下水道技術センター、(財)大阪市下水道技術協会)
1月17日 講演準備
1月18日 東京都の科学技術館で開催された「地球温暖化と水の再利用シンポジウム」において基調講演(主催:国土交通省、東京都、「地球温暖化と再生水利用」シンポジウム実行委員会)
1月21-25日 北海道大学大学院都市環境工学専攻にて研究討議および研究指導
1月29日 東京大学大学院都市工学専攻にて研究討議および研究指導
1月30日 (財)河川環境管理財団にて講演および研究討議
1月31日 埼玉大学大学院生物環境科学専攻において講演および研究討議
2月1日 下水道関係の実務者の訪問を受け討議と技術指導
2月4-7日 京都大学大学院流域圏総合環境質研究センターにおいて研究討議および研究指導
2月8日 下水道・水資源関係の実務者などの訪問を受け討議と技術指導
2月11日 下水道・水資源関係の実務者などの訪問を受け討議と技術指導
2月12-13日 土木研究所にて理事長懇談および研究者への研究指導
2月14日 環境工学の研究者の訪問を受け研究討議
2月15日 河川工学の研究者の訪問を受け研究討議
2月18日 国土交通省水資源部幹部等に対する講演と技術指導
2月19-22日 下水道・水資源関係の実務者などの訪問を受け討議と技術指導
2月25-26日 名古屋の水処理メーカー(NGK)にて講演、討議および技術指導
2月27-28日 大阪の水資源関係の実務者に対する技術指導
2月29日 (財)ダム水源地環境整備センターの実務者の訪問を受け討議と技術指導
3月3-4日 土木研究所にて研究指導
3月5日 離日

受入実施の状況とその成果

予め基調講演を依頼されていたシンポジウムへの出席や、招へいを要請されていた地方大学及び行政機関の訪問のため、また意見交換を希望する実務者や研究者の便宜のため、東京を本拠地として活動した。

基調講演を行ったシンポジウム等の概要は、以下の通りである。

1月16日に大阪市のホテルプリムローズで開催された特別セミナー「水循環の計画と設計」は、国土交通省国土技術政策総合研究所、(独)土木研究所、(財)大阪府下水道技術センター、(財)大阪市下水道技術協会の主催で行われ、当初の予定を大きく超える270名の聴講者が集まった。

また、1月18日に東京都の科学技術館で開催された「地球温暖化と水の再利用シンポジウム」は、国土交通省、東京都、地球温暖化と再生水利用シンポジウム実行委員会の主催、および、外務省、環境省、日本水フォーラム、読売新聞社の後援により開催され、400名の参加者があった。特に、国連の「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁であられる皇太子殿下のご臨席を賜った。なお、当日のシンポジウムの内容は、後日、読売新聞の紙面により広報された。

両シンポジウムにおける浅野名誉教授の基調講演の概要は、以下の通りである。

カリフォルニア州南部の乾燥地帯に位置するロサンゼルスやサンディエゴの大都市には、北部や東部の山岳地帯あるいはコロラド川からの導水により水が供給されているが、そのスケールは、日本で例えれば青森の水資源を福岡に送水していることに匹敵する。今後も人口増に伴う水需要の増加が予測されているが、新規に開発できる水資源が限られていることから、下水処理水が持続可能な水資源として注目されている。現在、処理水は、農業用水、景観灌漑、工業用水等として利用されているが、将来に向けて量および用途の拡大が計画されている。また、再利用は環境に対する排水の負荷を減らすことから、表流水や地下水の汚染を低減する利点も有する。

処理水を飲用以外に再利用することについて、市民は、費用と公衆衛生に関する懸念を有するものの、基本的に支持しており、再利用に関する情報を伝えることで社会的受容度は高まる。しかし、飲用再利用の場合には、未確認の微量有機物質を含んだ水質、長期的な健康影響、処理プロセスの信頼性、トイレから水道水への直結イメージなどが問題になり、いくつかのプロジェクトが市民や政治の反対等により中止になっている。

このような中で、健康リスクの許容範囲について議論が行われており、ウイルスの微生物学的リスクに関しては、水質基準・処理技術・モニタリングにより管理が行われてきている。近年では、逆浸透膜などの膜処理技術の向上により、水質に関する信頼性が高まっており、オレンジ郡において、膜や促進酸化により高度処理した再生水を地下涵養し、間接的に飲用再利用するプロジェクトが実施されるに至っている。処理水の飲用再利用は、他の水資源開発と比較しても、コスト的に有利となっている。しかし、飲用再利用に関する市民の合意がまだ確実ではないことから、市民の理解と支持を得るため、再利用の価値、利益、代替手法との比較等についてコミュニケーションを行うことが重要である。

上記シンポジウムに加えて、講演および意見交換のために訪問した機関は、研究機関として土木研究所の他、東京大学・北海道大学など4大学、行政機関として国土交通省水資源部および下水処理水再利用の実施箇所を有する香川県多度津町、財団法人等として(財)河川環境管理財団であり、加えて多数の実務家や研究者の滞在ホテルへの訪問を受け意見交換を行った。

浅野名誉教授の講演により、南部カリフォルニアという水資源の乏しい地域において、都市で大量に発生する下水を水資源として捉え、これを再利用する先進的技術体系が構築されているという実態について、理解が深まった。さらに、水資源計画が、水利権譲渡や水需要コントロールも含んだ総体的・多面的なものであることも、日本との対比において大きなインパクトを与えた。

下水処理技術については、カリフォルニアでは水資源としての利用価値を高めることを目的として、微量有害物質を除去して高度処理水質を得る技術開発に力点が置かれているが、これは、再生水が消費財として一般のマーケットで取引される資源となっていることが原因であると考えられた。またこれに伴って、関連する技術の経済活動が活発になっている様相も明らかにされた。

カリフォルニアの例と比較して、日本では従来、清冽な水が比較的容易に得られたという点、および、河川水によって下水処理水の希釈が期待されるという点において、微量有害物質による水質汚濁問題について、市民の関心が十分ではなく、水質測定も十分には行われていない。より高い安全性を確保するために、今後の実態把握が必要である。

浅野名誉教授の講演・意見交換により、日本の多くのトップレベル研究者、実務者がこのような重要で新しい認識をもつことができた。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

講演会や意見交換会をとおして、浅野名誉教授は全国各地の学生や若手研究者を啓蒙し、水資源に関する新しい視野を提供した。講演を聴講した大学生や若手研究者からは、水資源が限られるカリフォルニアにおける水事情と再利用の位置付けや、日本における下水処理水再利用の課題に関する理解が深まったとの感想が聞かれた。また、訪問先の大学教員からは、再利用における世界の最先端技術と研究アプローチを知ることができ感銘を受けたと報告を受けた。

さらに、シンポジウムにおける基調講演により、広く社会一般に対して、下水処理水を水資源として位置付けることの重要性や、市民の理解と支持を得るため、再利用の価値、利益、代替手法との比較等についてコミュニケーションを行うことが重要であることが訴えられ、今後の下水処理水の有効利用促進に関する知的基盤を提供した。

水資源に関わる官僚からは、日本の再利用を進めるためには、法的な位置付けや制度の両面からの検討が必要であるとの認識が示された。また、実務者からは、地球温暖化による水不足の懸念に対し、日本でも処理水の農業利用や地下水涵養が期待されるといった意見、下水処理水再利用を推進するためには、利用者に対して水質や安全性に関する情報提供が重要である点が認識できたとの意見が寄せられた。また、アメリカの地下水管理の方法や水資源開発の費用、下水処理水に関する水利権、水資源に関する広報等について質問が提出され、浅野名誉教授からの情報提供と解説により、アメリカの状況が理解されるとともに、日本での適用や検討に関して示唆が与えられた。

土木研究所にとって、研究者への研究指導や士気向上に加えて、土木研究所フェローとして全国各地で講演活動と行政への助言の社会貢献を行うことができ、今後、研究活動の幅の広がり、優秀な人材確保に繋がるものと考えている。

今回の招へいで、日本の学界と行政双方のトップクラスの方々と浅野名誉教授が直接面会し長時間に亘り意見交換する場を設けることができ、研究と実践への取組み姿勢や考え方に関して、著書などでは得られない大きな好影響を及ぼしたと考える。

その他

本招へいにあたり、多大な支援をしていただいた日本学術振興会に、心より感謝申し上げます。