お問い合わせ先
国際事業部人物交流課
外国人著名研究者招へい担当
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浅野 孝
滞在中の日程
受入実施の状況とその成果 予め招へいを要請されていた地方大学及び行政機関を多く訪問するため、また意見交換を希望する実務者や研究者の便宜のため、東京を本拠地として活動した。 講演および意見交換のために訪問した機関は、研究機関として土木研究所の他、東京大学・九州大学など5大学、行政機関として国土交通省の3部署、財団法人等として(財)水資源協会など4機関であり、加えて多数の実務家や研究者の滞在ホテルへの訪問を受け意見交換を行った。 講演においては、水需給が逼迫している米国カリフォルニア州を例として、人口増に伴う将来水需要増加の予測、持続可能な水利用のための水資源計画とその中での都市下水再利用の位置付け、再利用用途(農業用水や地下水涵養など)とその具体事例、再利用における現在の水質基準と必要な処理工程、間接的飲料水利用に関わる安全性の議論(化学物質曝露による健康リスク、高度水質が可能な膜処理技術、コミュニケーションの重要性)等が紹介され、再利用の将来展望が示された。 講演により、南部カリフォルニアという水資源の乏しい地域では、北部カリフォルニア等の域外でダム建設を行って水資源を開発し、この大量の水を長距離導水しており、また、都市で大量に発生する下水を水資源として捉え、これを再利用する先進的技術体系が構築されているという実態について、理解が深まった。さらに、水資源計画が、水利権譲渡や水需要コントロールも含んだ総体的・多面的なものであることも、日本との対比において大きなインパクトを与えた。 下水処理技術については、カリフォルニアでは水資源としての利用価値を高めることを目的として、高度処理水質を得るための技術開発に力点が置かれており、日本における処理プロセス自体の効率化や省エネルギー性を求める技術開発との違いが明確になった。これは、下水処理技術に求められる主要件が、日本では下水道経営の効率化であるのに対し、カリフォルニアでは水資源創出への寄与であることが背景にあると考えられる。特に、カリフォルニアにおいては、再生水が一般のマーケットにのる資源となっており、関連する技術の経済活動が活発になっている。 この他、文化が水利用に与える影響についても明確となった。カリフォルニアの再利用においては、人々が西欧の文化を継承し、自宅の庭に青々とした芝生や樹木を求めることがドライビング・フォースになっている。日本も古来、水とともに生活してきた文化を有することから、生活が川から分断されている現況を越えて古い記憶を呼び戻すことにより、日本文化に根ざした下水処理水の有効利用の可能性が見えてくるものと考えられる。 なお、微量有害物質による水質汚濁問題については、日本では従来、清冽な水が比較的容易に得られたという点、および、河川水によって下水処理水の希釈が期待されるという点において、市民の関心が十分ではなく、水質測定も十分には行われていない。より高い安全性を確保するために、今後の実態把握が必要である。 浅野名誉教授の講演・意見交換により、日本の多くのトップレベル研究者、実務者がこのような重要で新しい認識をもつことができた。
招へい研究者の受入機関に対する寄与 講演会や意見交換会をとおして、浅野名誉教授は全国各地の学生や若手研究者を啓蒙し、水資源に関する新しい視野を提供した。東京大学、北海道大学、九州大学、宮崎大学、島根大学での講演会を聴講した若手研究者からは、海外の水事情を知ることができたことに対する感謝の念とともに、日本における下水処理水再利用の問題点が鮮明に理解でき、再利用を進めるための勉強の必要性が認識されたなど、日本ではあまり議論されていない視点での話題に関する大きな興味が示された。さらに訪問先の大学教員からは、再利用における世界の最先端技術と研究アプローチを知ることができ感銘を受けたと報告を受けた。 また、下水道行政の若手官僚からは、日本の再利用を進めるためには、法的な位置付けや制度の両面からの検討が必要であるとの新たな認識が示されるとともに、欧米で議論されていることを認識する良い機会であったとの感想が寄せられた。また、実務者からは、地球温暖化による水不足の懸念に対し、日本でも処理水の農業利用や地下水涵養が期待されるといった意見、下水処理水再利用を推進するためには、利用者に対して水質や安全性に関する情報提供が重要である点が認識できたとの意見が寄せられた。 水資源に関わる研究者、実務者からは、アメリカの地下水管理の方法や水資源開発の費用、下水処理水に関する水利権、水資源に関する広報等について質問が提出され、浅野名誉教授からの情報提供と解説により、アメリカの状況が理解されるとともに、日本での適用や検討に関して示唆が与えられた。 土木研究所にとって、研究者への研究指導や士気向上に加えて、土木研究所フェローとして全国各地で講演活動と行政への助言の社会貢献を行うことができ、今後、研究活動の幅の広がり、優秀な人材確保に繋がるものと考えている。 今回の招へいで、日本の学界と行政双方のトップクラスの方々と浅野名誉教授が直接面会し長時間に亘り意見交換する場を設けることができ、研究と実践への取組み姿勢や考え方に関して、著書などでは得られない大きな好影響を及ぼしたと考える。 その他 本招へいにあたり、多大な支援をしていただいた日本学術振興会に、心より感謝申し上げます。浅野名誉教授は今年度の後半に来日予定で、さらなるご活躍が期待できる。
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