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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Alexei A. Abriksov

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
平成17年  
10月12日 成田着
筑波大学を訪問、講演会打合せ
10月13日 筑波大学において筑波大学名誉博士称号授与式及び記念講演会
講演題目:Type II Superconductors and the Vortex Lattice
10月14日 筑波大学において記念懇談会「アブリコソフとその時代」を開催
10月15,16日 東京都内ホテルメトロポリタンエドモントで東京理科大学主催による「創立125周年記念ノーベル賞受賞者講演会」にて講演及び株式会社日立製作所基礎研究所での懇談会に関する資料作成
講演題目:Unusual Magnetic Transition and Its Consequences
10月17日 株式会社日立製作所基礎研究所を訪問・視察及び懇談会
10月18日 京都へ移動し、京都大学を訪問、講演会を開催
講演題目:Superconductivity: History and Modern State
10月19,20日 財団法人国際高等研究所訪問・視察及び金森所長を交えて討論会
10月21日 京都から仙台へ移動し、東北大学を訪問、講演会を開催
講演題目:Theory of High Temperature Superconductivity
10月22,23日 仙台から東京へ移動
日本科学未来館にて一般講演及び視察・見学
10月24日 講演会及び懇談会の報告書作成
10月25日 日本学術振興会において感謝状授与式及び懇談
10月26日 成田より帰国

受入実施の状況とその成果

 アブリコソフ氏の意向により、筑波大学を中心として日本の超伝導研究に関連する主要な大学での講演会を主な内容とする日程とした。滞在期間が本人の多忙な日程の関係から15日間と、大変短期間の招聘となった。そのため、異例の濃密なスケジュールであったが、無事、終了することができた。

 来日翌日から直ちに講演活動に入った。まず、筑波大学における記念講演会(10月13日)および懇談会(10月14日)をはじめとして、東京理科大学(10月15日)、京都大学(10月18日)、東北大学(10月21日)にて、ノーベル賞受賞の対象となった第2種超伝導体の渦糸の理論的な発見過程から、最近の高温超伝導体に関する独自の理論に至るまで、大変幅広く、学術的にも大変高度な内容の講演会を連日のように行った。これらの講演会では、我が国ではほとんど聞かれない独自のアイディアによる高温超伝導理論を展開し、77歳という高齢にもかかわらず現在においても最先端の研究を先導している様子が印象的であった。いずれの会場も教員や研究者を始め、若手研究者や大学院生など、満員の聴衆が集まって熱気に包まれた盛況ぶりであった。
 大学以外においても10月17日には株式会社日立製作所の基礎研究所の外村彰(日立フェロー)を訪問され、アブリコソフ氏の予言された超伝導の渦糸をリアルタイムで観測することのできる世界最高の分解能を誇るローレンツ顕微鏡を視察された。また、10月23日には日本科学未来館を訪れ、超伝導に関する一般講演を行い、聴衆の質問にも大変わかりやすく丁寧な説明をした。
 このように、アブリコソフ氏は滞在期間中、77歳という高齢にもかかわらず、大変熱心に、しかも精力的に多くの講演会や討論会などを行い、この分野での世界の最高峰であることを見せつけ、多くの聴衆に強い感動を与えてくれた。時には予定外のお話や、講演時間を大幅に延長するなど、形式に拘らず、大変有意義であった。特に、筑波大学で10月14日に開催された懇談会「アブリコソフとその時代」では、4時間以上にわたりアブリコソフ氏ご自身の激動に満ちたロシアでの研究内容とご自分の科学に対する姿勢、天才物理学者ランダウの実像や世界に冠たる成果を誇るランダウ研究所の設立、などについて詳細に話され、これまでロシアの秘密主義の中で知られていなかった多くのことが明らかにされたことは大変有意義であった。なぜ、ランダウ研究所からこれほど多くの世界的に著名な研究者が輩出されるのか、しかも、ランダウが悲劇的な交通事故死により無くなったあと半世紀近く経った現在においてもその精神が継続されているという事実を見るとき、翻って、我が国の研究や若手研究者の教育を如何にすべきかについて大いに考えさせられるものがあったのでは無かろうか。この一連の内容については後日、出版する予定である。
 超伝導の微視的な理解の過程は、現代物理学を理解する上で必要不可欠な基本概念の形成に重要な役割を果たした。超伝導は単に金属という物質としての一性質に過ぎないのであるが、なぜ超伝導になるのか、また、その超伝導状態とは一体どういう状態なのか、といった超伝導の本質を理解するためには、単にそれにとどまらず、現代物理学の基礎概念であるGL理論とその流れに沿った発展を理解することが必要不可欠なのである。このGL理論は超伝導でその威力を最大限発揮しその後の物理学における基礎概念の構築の基礎となった。このような超伝導の重要性の認識と現代物理学への発展の過程において、戦中、戦後の極端に劣悪な研究環境の中で、未だ後進性を引きずっていた我が国において、いくつかの極めて重要な貢献がなされているのである。しかしながら、当時を知る先輩達は既に現役を去り、このような歴史的な経緯を後世に伝承することが我が国においては甚だ困難になっている。アブリコソフ氏の来日は我が国のこのような現状を再認識するために大変有益であった。このアブリコソフ氏の来日を機会として今後、さらに交流を深めていくことは大変重要であると考えられる。  このように、超伝導の発展についての十分な記録を後世に伝える重要な機会を与えていただいた日本学術振興会に対し心から感謝の意を表します。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

 アブリコソフ氏自身の記念講演の中でも強調されていたように、約20年前の高温超伝導体の発見過程から現在に至るまで、超伝導研究において、筑波大学門脇教授とは理論と実験の違いはあるが研究上の相互信頼関係にあった。国際会議や、現在行われている国際研究プロジェクト(日本学術振興会による先端研究拠点事業)などでもアブリコソフ氏は拠点構成員として事業の中心的役割を担っている。2003年、アブリコソフ氏はノーベル物理学賞を受賞され、以後、多忙を極めたため、筑波大学への訪問がなかなか実現できなかった。今回、その機会が実現できたことから、これまでのアブリコソフ氏の超伝導の発展に対する功績と筑波大学との交流実績を称え、筑波大学名誉博士の称号を授与し、記念講演会を開催した。なお、アブリコソフ氏の来日はこれが始めてである。 この講演会はすべて英語で行われた。約600名以上の聴衆が詰めかけ、会場からあふれる状態となった。講演はアブリコソフ氏をはじめとして、国内外の招待講演者4名を含め、5件行われた。講演内容は以下の通りである。
  1. Abrikosov (Distinguished Scientist, Argonne National Laboratory, USA)
    Title: "Type II Superconductors and the Vortex Lattice"
  2. 外村 彰(株式会社日立製作所基礎研究所フェロー)
    Title: "Real-Time Observation of Abrikosov Vortex Lattices Using Electron Waves"
  3. Alexandre Bouzdine (Professor of University of Bordeaux, France)
    Title: "Vortex Attraction and Vortex Intermediate State: Is it Possible?"
  4. 立木 昌(東北大学名誉教授)
    Title: "Emission of Terahertz Electromagnetic Waves by Means of Vortex Flow"
  5. 田中昭二(財団法人国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所所長)
    Title: "Progress of Superconductivity Technologies in Japan"
 講演会においては講演を聴くに当たり、大学院生、特に理学・工学系の博士課程在学の学生に対して講演内容から得られる知見についてのレポートの提出を課した。これによると、多くの学生がアブリコソフ氏の研究の独創性と科学に関する合理的な考え方、その実行力に強く感動し、科学することに新たな意義を見いだしていることが伺えた。このことは若手研究者、特に、大学院生に絶大なインパクト与えたと思われる。また、同時にアブリコソフ氏は大学院教育にも大きな貢献を果たしたものと思われる。時間的な制約のため、多くを若手研究者や大学院生と直接語り合うことはできなかったが、このたびの訪日は筑波大学においては大学院生など、若手研究者に対して大変刺激的であった。
 また、翌日開催された懇談会「アブリコソフとその時代」はさらに興味深いものがあった。この懇談会には我が国の超伝導研究者や超伝導にゆかりの深い研究者5名(司会者として江沢 洋(学習院大学名誉教授)、パネリストとして、高野文彦氏(筑波大学名誉教授)、立木昌氏(東北大学名誉教授)、中嶋貞雄氏(東京大学名誉教授))、石川征靖氏(東京大学名誉教授)を招待し、パネルディスカッション形式で、アブリコソフ氏の研究史を振り返りながら、研究内容は勿論のこと、旧ソビエト連邦時代の研究体制、ランダウとの巡り会い、ランダウ研究所、アメリカ合衆国への亡命・移住などについて激動の半生を4時間以上にわたって聞くことができた。聴衆は筑波大学の教官をはじめ大学院生やつくば研究学園都市内の研究所職員、また近郊の大学教員など約150人が参加して熱心にパネルディスカッションに聞き入っていた。
 このような内容の話はこれまで断片的にはあってもまとまったものはロシアでもアメリカでも行われたことがない大変貴重なものである。なお、これは、一部は出版が決まっているが、来日中のすべての足跡を出版する予定である。
 このように、アブリコソフ氏の来日は、筑波大学における学術振興に極めて大きなインパクトを与えた。また、記念講演会や懇談会を通してアブリコソフ氏の超伝導研究の心髄に直接触れることができたことは若手研究者の将来に極めて重大な影響を与えたと思われる。また、アブリコソフ氏の滞在期間が15日間と短かったにもかかわらず、筑波大学以外に東京理科大学、京都大学、東北大学を訪問し、講演会を開催し、我が国の学術振興に大きく貢献したと考えられる。

その他

 10月25日には、アブリコソフ氏とともに日本学術振興会を訪れ、小野理事長と会見し、国際関係、特に日米の超伝導科学協力関係について具体的な内容にまで踏み込んで意見を交わすことができたことは大変有意義であった。また、アブリコソフ氏はこの外国人著名研究者招聘制度が大変ユニークで、有意義であり、我が国の国際友好、親善、発展において極めて重要な役割を果たしていると深く感謝の意を表明された。