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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Icko Iben Jr.

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
2004.7.1 成田に来日、札幌到着
2004.7.2-10.30 北海道大学理学研究科物理学専攻において、共同研究(教官・ポスドク研修員)と研究指導(大学院生)に従事
2004.8.3 講演会、演題「星の生涯とその冒険」
場所:北海道大学理学部5号館大講堂
主催:北海道大学学術国際部国際企画課
共催:理学部(理学部体験入学)
挨拶:岡田尚武理学研究科科長
2004.8.27-829 放送大学訪問(千葉県) 訪問・
施設と宇宙物理学の講義の視察
応対者:杉本大一郎放送大学教授
2004.8.29-8.31 東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設(Supe-Kamiokande)視察
宇宙線研究所長鈴木洋一郎教授と懇談
東北大学理学研究科ニュートリノ科学研究センター(KamLAND)視察
案内者:中村健二Duke大学COE研究員
2004.9.31-10.1 ワーク・ショップ「Stars as Probe into the Evolution and Origin of Astrophysical Objects」の召集、講演
場所:北海道大学エンレイソウ
主な出席者:国立天文台光学赤外線天文学・観測システム研究系教授 有本信雄教授、同教授 安藤裕康、同助教授 竹田洋一、同主任研究員 青木和光、岡山観測所主任研究員 泉浦秀行、東京大学理学系研究科名誉教授 辻 隆、日本原子力研究所研究員 岩本信之、東海大学総合教育センター教授 比田井昌英、北海道大学理学研究科教授 藤本正行、 同教授 小笹隆司、同助教授 羽部朝男、同助教授 倉本圭、工学研究科教授 馬場直志、低温科学研究所教授 山本哲生、 同教授 香内 明、ハンブルグ天文台研究員 N. Christlied、オーストラリア国立大学研究員 A. Frebel(他COE研究員、大学院生等20余名)
2004.10.18 講義、演題「Evolution of Stars」
北海道大学大学院共通授業科目「宇宙惑星科学特別講義」
2004.10.26 北海道大学学長 中村睦夫教授を表敬訪問
同席:副学長 中村研一教授
2004.10.31 札幌出発、成田経由で離日

 

受入実施の状況とその成果

 Iben教授は7月1日に札幌に到着、10月31日に札幌を出発するまでの4ヶ月間、主に北海道大学理学研究科物理学専攻に滞在され、宇宙物理学研究室を中心に原子核理論研究室、素粒子論研究室等で共同研究、研究指導、交流を行われた。この間、地球惑星科学専攻、化学専攻などの他専攻、工学研究科や低温科学研究所など他部局の宇宙科学、惑星科学の分野の研究者と交流を図り、8月末には、放送大学を訪問し放送教育設備を視察、また、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設、東北大学理学研究科ニュートリノ科学研究センターを視察、宇宙線研究所長をはじめ多くの研究者との懇談を通して交流を図られた。研究会についても、昨年度と同様、恒星分野の研究で活躍している国内の主要な研究者を招集し北大で開催したが、今年度は恒星の物理に関連する惑星形成の分野も取り上げ、北大の他部局の研究者も含めて関連するより広い分野の研究者との交流を図った。加えて今年度は、高校生あるいは大学院生を対象とする講演会、講義を実施し、天文学、物理学の研究活動についての普及、啓蒙活動にも取り組まれた。
 今年度は、2年にわたる招へい計画の最終年度であり、共同研究、研究指導の面では、主要なテーマである我々の宇宙の開闢時に形成された恒星の研究について、招へい期間の間にわが国のすばる望遠鏡で最も金属量の少ない恒星が発見されると幸運もあって、所期の成果を十分にあげることができた。これらの活動を通しての教授は指導的な役割を果たし、北大の恒星進化研究グループの発展のもならずわが国における恒星分野の研究の進展に寄与された。とくに、若手研究者への刺激となり、その養成に貢献できたといえる。また、北海道大学における宇宙科学、惑星科学の研究体制の整備に関しても、教授の豊富な経験を踏まえた助言、提言がこの間の進展に大きな力となった。また、一般講演は天文学の基礎研究に対する大学あるいは社会的な理解の促進ということで期待したものであった。教授の2年間にわたる滞在は、日常的に接することができた物理学専攻の構成員のみならず、多くの関係者にとって有益な成果をもたらした。

研究指導・共同研究
 Iben 教授を迎えての共同研究の中心テーマは、2002年の太陽の20万分の1しか鉄などの重元素を含まない恒星HE0107-5240の発見を受けて、宇宙の最初あるいは極初期に生まれたと考えられる超金属欠乏星の研究となった。この星は鉄などの重元素の組成が従来知られていたものに比べて1桁以上小さいという点で、初期宇宙の進化を解き明かす鍵として注目を集めた。教授の指導のもと、宇宙物理学研究室、原子核研究室の出身の博士研究員3人と合同で、この恒星の成り立ちについて、恒星進化の観点から検討し、宇宙最初のまったく重元素を含まないガスから形成された第一世代星であり、その後の長い生涯の間に、星間ガスの金属などの表面汚染を受けたものであるという新しいシナリオの提案を行った。この論文は、米国天文学会誌に掲載された(T. Suda, M. Aikawa, M. Machida, M.Y. Fujimoto, & I. Iben, Jr. Is HE0170-5240 A Primordial Star? -- The Characteristics of Extremely Metal-Poor Stars, 2004, Astrophysical Journal, vol. 661, pp.476-493)。
 今年度は教授の来日直前に北大の恒星グループが参加する「すばる望遠鏡」の観測プロジェクトでさらに2倍ほど重元素組成が小さい恒星HE1326-2326が発見されるという幸運があった。今回はこの恒星の解明のため北大の院生、博士課程研究員を含む恒星研究グループおよび日本原子力研究所研究員との共同研究を組織し、HE0107-5240との比較から、先のシナリオを発展させて、超金属欠乏星の内部での核種合成と進化の新たな側面を明らかにすることができた。この論文は準備中であるが、宇宙に第一世代星の生き残りを識別に必要な観測を提起し、今後の超金属欠乏星の研究に新しい展望を与えるものである。
 Iben教授は、滞在期間を通して、教授の指導で恒星進化の新しい発展段階に対応する恒星進化の計算ための数値計算コードの開発・改良に取り組んできた。このコードは、恒星の質量、金属量、それに進化の段階で大きく異なる状況に柔軟に対応できる核種合成のネット・ワークや恒星内部でのさまざまな形態での物質混合の機構を組み込んだもので、今後、恒星進化の研究を国際的にリードしていく基礎となると期待されるものである。現在、完成したコードで超金属欠乏星の進化の新しい計算に着手しているが、これによって、今後すばる望遠鏡等の大型光学望遠鏡で得られる詳細な観測結果と照合し、超金属欠乏星の進化の特異性と全体像を解明していくための基礎的なデータを提供できることを目指している。

学内での学術交流
 北海道大学では、宇宙科学、惑星科学の関連分野の研究者が、理学研究科だけでなく、工学研究科、低温科学研究所などの多数の部局に分かれて所属しているが、その研究組織を整備し、発展の方向性を見出す上でもIben教授は貴重な貢献をされた。昨年度は、北大関係者との懇談会をもっただけであったが、今年度、全国的なレベルで、恒星進化と惑星形成、原始惑星星雲の進化に関連する研究会を組織し、討議分野の研究状況を明らかにするとともに、今後の可能性について議論することができた。特に、教授の滞在中に、北海道大学理学研究科では、宇宙科学、惑星科学を統合して、来年度から「宇宙理学専攻」を設置することが決定された。この方向は、最近の電波望遠鏡の移設による電波研究グループの発足を契機に、太陽系外惑星、原始惑星星雲の発見等の分野の発展を受けてのものではあったが、教授の適切な助言と提言が選択の貴重な指針となった。

学内での学術交流
 わが国における天文学の教育・普及活動の実情を視察するため、放送大学を訪問し、杉本大一郎教授(図書館長)の案内で放送収録施設を見学、また、意見交換を行った。杉本教授は恒星進化の分野のわが国における草創期のお一人で、専門分野の話題も含めて意見の交換をした。
 また、Iben教授は、太陽ニュートリノの問題に関しては、カリフォルニア工科大学でFolwer教授が組織した最初の理論的研究グループに参加した草分けのメンバーの一人であり、その関係で、わが国のニュートリノ観測施設の訪問を希望された。今年度の滞在中、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設(Super-Kamiokande)と東北大学理学研究科ニュートリノ科学研究センター(KamLAND)を視察した。宇宙線研究所長鈴木洋一郎教授との懇談、わが国のニュートリノ観測の最先端に触れられた。この視察には、太陽ニュートリノ等問題を研究している北大物理の素粒子論研究室の石川健三教授も同行し、Iben教授を支援した。
 また、昨年同様、恒星物理の理論および観測に研究会を開いた。今年度は、Iben教授の研究の中心的なテーマのひとつである恒星進化の理論の宇宙の進化、天体の構造の探査手段としても側面に焦点を当て組織したものであるが、全国から国立天文、東京大、東海大学、日本原子力研究所等から30余命の参加があった。特に、上で述べたようにすばる望遠鏡でもっとも鉄等の金属の組成が最も小さい恒星の発見を受けて、ドイツやオーストラリアなど海外からの研究者の参加もあり、また、惑星物質や原始惑星星雲に関連する分野の研究者も多数参加した。教授は積極的に関与され、これまでの豊富な経験に基づいた真摯なコメントや議論を通して、研究者の刺激になったと思われる。研究会での討論を通して得られた知見や経験は、今後、北海道大学のみならず、わが国の恒星研究の発展に向けての礎となるものである。

招へい研究者の受入機関に対する寄与

 今年度は、北海道大学での日常的・恒常的な指導と助言を通して共同研究、および若手の研究者への指導、助言に教授の活動の主眼とした。長年の研鑽に基づく教授の直接的な指導を受けられたことは、北海道大学の若手研究者にとっては大きな刺激とり、共同研究、論文の共同執筆などの共同作業を通して、研究者としての視野を広げ、また、研究への洞察を深めるのに役立ったと思う。また、今年度の北大での研究会には、他大学からの参加者も含めて半数以上が博士研究員、大学院生であったが、研究会での発表、議論を通して、長年に培われてこられて豊富な天体物理学ならびに天体核物理学の知識をもとにした助言、指導に接することができたことは、貴重な経験であったと考えられる。
 わが国における恒星進化を含む恒星物理学の分野は、すばる望遠鏡等の大型観測装置が稼動が始まって若手の研究者の育成が急務となっているが、今回Iben教授を迎えて、その指導を直接受ける機会がもてたということは、北大のみならず、全国的なわが国の恒星研究の発展につながるものと期待される。
 また、天文学に造詣の深く、研究に精通している教授との交流は、北海道大学の宇宙理工学グループと研究者にとっても刺激となり、また、国際的な視野を広げるのに役立った。北海道大学においては、宇宙科学、惑星科学の新しい教育研究体制の整備を進めているが、Iben教授の適切な提言、評価は精神的なサポートも含めてその貢献は非常に大きかったと考える。また、今後、宇宙探査の道具としての恒星進化の研究、それと関連した惑星物質、原始惑星星雲などの研究分野での国際的なセンターを目指していく上でも、今回のIben教授の招へいは、教授との共同研究、あるいは、教授を交えての研究会等で交流などの活動を通して、その方向性を明確にし、あわせて、そのための基礎造りを進めることができ、非常に有益であった。

その他

 今年度は高校生の北大理学部体験入学の1日入学の一環として、Iben教授に専門とする恒星進化の研究の歩みおよびその成果についての講演をお願いした。講演会では、岡田尚武理学研究科長が教授の紹介し、聴衆は一日入学の高校生に加えて、学部学生も含めて150名余であった。国際的に著名な研究者の講演に接することは高校生、大学生にとって貴重な知的な刺激であり、また、天体物理学ならびに天体核物理学、さらには、天体現象についての他人の追随を許さない独自の理解に接することは、得がたい経験の機会であった。講演後、多くの高校生が残って教授をはじめとするスタッフと活発に質疑応答した。
 加えて、大学院生に向けても、文科系および理科系両方を対象とする共通授業をお願いした。講義内容は、教授の研究の経緯と成果についてということで、一こまではあったが、恒星進化の分野の国際的な第一線で長きわたって活躍してこられた教授の合理的かつ独自の推論、思考に触れ、また、国際的な水準を体感できたことは、院生の研究の進め方、研究のあり方について理解を広げ、意欲を高めることになったと見られる。