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国際事業部人物交流課
外国人著名研究者招へい担当
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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Amartya Kumar Sen

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
7月19日(月)  
16:35 JAL708成田着
宿泊:立川パレスホテル
7月20日(火)  
  一橋大学COE/RES Symposium on Social Choice Theory,
15:00-16:00 Honorary Degree Conferment to Prof. K. J. Arrow and A. K. Sen.
16:00-17:00 Commemorative Lecture by Prof. Amartya Sen
17:30-19:30 Commemorative Party in Honour of Professors K. J. Arrow and Sen
19:30-20:30 立命館大学主催 ワークショップ(with Prof. Sen)1「多元的民主主義と包括的信条間の重複的合意について」(一橋大学経済研究所会議室)講演&討議.
7月21日(水)  
11:33 東京発 のぞみ51号
14:09 大阪着→千里中央ホテル(タクシーで20分),check in, 休息。
15:30 千里中央ホテル→大阪大学吹田キャンパス・コンベンションセンター(正面から43番の建物:タクシーで20分)
16:00-17:00 招待講演(大阪大学主催)
18:00-19:30 dinner(千里阪急ホテル)
19:30-21:00 立命館大学主催 ワークショップ(with Prof. Sen)2「:正義と福祉の対話:ケイパビリティ・アプローチの哲学的基礎について」(千里阪急ホテル紅梅の間)講演&討議
21:00 大阪大学吹田キャンパス・コンベンションセンター→千里中央ホテル(タクシーで20分)
7月22日(木)  
  Social Choice & Welfare Society参加
18:00-20:00 立食パーティー(千里阪急ホテル)
20:30-21:00 立命館大学主催 ワークショップ(with Prof. Sen)3(外国人著名研究者招へい事業)”Towards the 2nd International Conference in Kyoto: Reconsidering the implication of Capability Approach in Theory and Practice」(千里阪急ホテル紅梅の間)講演&討議
7月23日(金)  
7:30 千里阪急ホテル→大阪関西空港(タクシーで1時間30分)
11:45 出発by Thai Airways623

 

受入実施の状況とその成果

本年の企画は,2003年6月,立命館大学で開催された国際コンファレンス「21世紀の公共性に向けて-セン理論の理論的・実践的展開」で得られた成果をもとに,2005年10月に,国際コンファレンス「倫理・経済・法:不正義に抗して」を開催するための助走的な位置にある.
 2003年6月のコンファレンスでは,センによって大きく発展を遂げた社会的選択理論及び潜在能力アプローチが,民主主義や権利など,従来,政治哲学で中心的に議論されてきたテーマに,新たな光を与えることが明らかにされた.例えば,帰結に関する広い理解のもとで個人の権利の実現を図るにはどうしたらよいか、また,個人の権利に対する考慮と福祉や環境に対する公共的関心とを適切にバランスづけるためにはどうしたらよいか,などの問題が論じられた。これらは、新古典派経済学の理論的道具を駆使しながらも、近代経済学の枠組みを、真に人間生活に寄与する学問へと改変することに努めてきたセン教授の1つの理論的到達点を示している。
 2005年10月に開催を予定している国際コンファレンスの目的は,このように,セン教授によって切り開かれた新たな視野を,同様の問題関心をもちつつも他のアプローチをとっている経済学者の仕事と広く照らし合わせることによって,それらを規範的経済学として体系化すること,ならびに,それを規範的法学や政治哲学など他分野の視点と結びつけることによって,「規範的法経済学」という新たな学問領域を展望することにある.
 両者の間に位置する本年は,一橋大学経済研究所を中心に開催されたシンポジウム,大阪大学で開催された「社会的選択と厚生」国際学会と連携しながら,セン教授を日本にお迎えし,理論経済学はもとより,開発経済学,法哲学,政治哲学などの分野で活躍している日本の研究者と,領域を超えた広い研究交流の場をもった.具体的には,3つのテーマのワークショップを,異なる場所で開催し,他機関の主催で行われたコンファレンスの感想を交えつつ,それぞれ活発な討議を行うことができた.

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

今回の研究交流の第一の成果は,3回のワークショップを通じて,①セン教授が切り開いた理論が,経済学という学問をどのように発展させる可能性をもっているか,②それは,経済学と他の学問領域とをどのように結び付ける可能性をもっているかという2つの点を明らかにし,2005年国際コンファレンスの進め方について,具体的な構想を立てることに成功した点である.以下に,議論の概要を記そう.
 1980年代から活発化した「法と経済」のムーブメントは、法理論の実証的研究を促進するものだった。そこでの主要な関心は、法的問題の解法を探るにあたって、近代経済学の理論や分析用具(価格理論、パレート改善、費用・便益分析、進化的ゲーム理論など)をいかに適用するかに向けられた。確かに,それは,私的契約や交渉など当事者間の利害調整が主題となる局面において一定の有効性を発揮している.
 しかしながら、現実にはその射程を超えた数多くの不正義が存在する。生来の資質や能力、あるいは社会的出自に起因する差異や格差が、特定の人々に社会的・経済的不利益にもたらしていく例は枚挙にいとまがない。公正な市場的競争を妨げる不正義-市場への平等な参加を妨げる社会的障碍-が存在するとともに、公正な市場的競争では防ぐことのできない不正義-初期賦与などの偶然的格差の温存など-が存在する。これらの問題に対して実証的な「法と経済学」の枠組みで対処することは困難である.
 ところで、法哲学者ロナルド・ドゥオーキンが正しく主張しているように、法は,本来,公共的道徳の一形態であり、社会的秩序の原理的枠組みを表現する性格をもっている。また,不正義に抗して人間の尊厳や善き生を支えるためには、いかなる法やルールを構成すべきか、権利・福祉・正義などの諸観念をどのように制度化すべきか、という問いが法学の中心的課題であった。他方,経済学には倫理的視点から経済システムを再構築するというモラル・サイエンスの伝統があり,また,社会的正義に取り組むための新たな理論や方法が発展しつつある。セン自身の理論はその1つの試みに他ならない.
 いま求められていることは、法(学)と経済(学)のもつこのような規範的側面に着目しながら,両者の関係を新たに問い返すことにある。現存する数々の不正義に抗する視点から,また,既存の学問領域を越えた学際的視点から,「法と経済」を問い直すことは、経済・法・政治システムの再構築に大きく資することになるだろう。
 2005年の国際コンファレンスでは,世界各地で活躍中の規範経済学者・政治哲学者、法哲学者等を招聘し、法と経済のあり方を規範的に問い返す公共的討議の場を創出したい。その主要な関心は、「不正義に抗する」という視点から人間の尊厳・権利・福祉などの諸観念とそれらを支える制度のあり様を理論的・実践的に問い返し、正義に適った経済システムと法政治システムを構想することにおかれる。

その他

これまでのノーベル経済学受賞者で、人々の人生観(How to live their life)や世界観 (How to see our world) に直接訴えかけることのできた人がどれ程いただろうか。そしてこれからもどれだけいると期待されるだろうか。1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン教授は人々の人生観や世界観に直接訴えかけることのできる稀有な人物である。
 既存の領域の垣根(ボーダー)を越えることは、セン教授の学問的な特徴に留まらない。セン教授の活躍は、国境というボーダーを越え、専門分野というボーダーを越え、学問と実践というボーダーを越えて、いまなお世界中に広がり続けている。日本においても、セン教授の著作は悉く邦訳され、学生や研究者たちはもとより,アカデミックな世界を越えて幅広い読者層を獲得している。今回、日本各地でなされた講演・ワークショップもまた、その寛容な人柄とあわせて、多くの人々に強い感銘を与えた。そこで、セン教授が日本の研究者や学生の業績を積極的に評価し、国際的に活躍する勇気と機会を与えてくれたことに、多くの人々が深い感謝の念を持ち続けている。
 申請時の予定とは異なり,セン教授を招聘する本企画は2003年,2004年の2年間をもって終了することになった.残念ながら,2005年の国際コンファレンスを,外国人特別招へい事業で実施することは適わなくなった.だが,本企画の終了直後から,セン教授の紹介をもって,2005年国際コンファレンスの準備は着々と始められている.現在,すでに,法哲学者ロナルド・ドゥオーキン,政治哲学者フイリップ・ペティットを初めとする幾人かの経済哲学者,哲学者が,2005年10月に来日し,国際コンファレンス「倫理・経済・法:不正義に抗して」に積極的に参加することを快諾してくれている.
 以上のように,本企画を通じてセン教授から得られた成果ははかり知れない.多くの種を蒔いて下さったセン教授に心から感謝するとともに,よき土壌を提供してくださった外国人特別招へい事業に心からの感謝をお伝えしたい.