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外国人著名研究者招へい担当
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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

巽  和 行

滞在中の日程
年 月 日 受入機関での研究活動・訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
10月  
25 (土) 東京(成田)着
26 (日) 東京(東工大)
27 (月) 午前:北里大学 午後:東工大
28 (火) 東京大学薬学研究科にて講演
29 (水) 東京から名古屋へ移動
30 (木)
~11月2日(日)
名古屋大学にて講演等
11月  
3 (月) 文化の日 名古屋 から岡山へ移動
4 (火) 岡山大学
5 (水) 岡山 から京都へ移動 京都薬科大学で講演
6 (木) 京都大学工学研究科
7 (金) 京都から金沢へ移動
8 (土) 金沢大学
9 (日) 金沢から岐阜へ移動
10 (月) 岐阜大学
11 (火) 岐阜から大阪へ移動
12 (水)~13(木) 大阪大学工学研究科
14 (金) 大阪府立大 総合科学部  神戸へ移動
15 (土)~16(日) 神戸
17 (月) 神戸から東京へ移動
18 (火) 北里大学でシンポジウム
19 (水) 東京
20 (木) 東京から福岡へ移動
21 (金)~22(土) 九州大学にて講演等
23 (日) 福岡 から熊本へ移動
24 (月) 休日 熊本大学
25 (火) 熊本から東京(羽田)へ移動  羽田から成田へ移動
東京(成田)からパリヘ


受入実施の状況とその成果

 カガン教授は国内外で多忙を極め,本年度の訪日は1ヶ月間に限定せざるを得なかった。しかし,短期間内に奥様とともに13カ所の大学(研究所)を訪問され,講演と綿密な研究打ち合わせを行われるなど,大変充実した招聘事業となった。

 下記の3種類の講演主題を準備され,各地の受け入れ研究者が選択した講演(複数の場合もあり)を引き受けられた。不斉有機分子の触媒的合成に関する最新の研究成果に,重要な発見の裏話を織りまぜた内容で,この分野で世界をリードされているカガン教授ならではの,記憶に残る名講演であった。名古屋大学では,講演の後の討論は極めて活発で,野依教授をはじめ若い研究者や大学院生が鋭い質問を行った。それらの質問に真剣にかつ丁寧に応答されていたカガン先生の態度が印象的であった。他大学の講演も同様に好評で活発な討論がなされたと,世話役の先生方から伺っている。

1) Is it possible to evaluate chiral auxiliaries from their racemic mixtures?
2) Catalytic asymmetric silylcyanation of aldehydes.
3) Practical aspects of non-linear effects in asymmetric synthesis.
 上記の講演では,1)ラセミ混合生成物における光学異性体の存在比に基づいた触媒に含まれるキラル配位子の役割の評価,2)新型不斉誘導反応の探索,3)不斉合成の非線形性の実用反応への応用,が主要点として提示されている。どれもが不斉触媒化学の今後の発展を左右する大変重要な研究成果であり,それをもとに我が国の先導的な研究者が率直に意見を交換した。このような機会が多くの大学で得られたことが本招聘事業の最大の成果だと言える。この分野の研究がますます充実することが期待される。

 研究打ち合わせにおいては,不斉触媒に関する研究のみならず有機化学,無機化学,物理化学にまたがる幅広い分野で討論がなされた。研究領域を異としてもそのめざすところには共通点があり,カガン先生の高い見識に基づく適格で有益なアドバイスを得た。カガン先生の強い要望で,休日以外は連日各研究室を訪問されて大学教官や大学院生と熱のこもった討論がなされた。様々な領域の,そして多様な研究者の報告に対して暖かい態度で根気よく対応された。

 今回の招聘では,国内の主要大学のみならず比較的小さな地方大学や私立大学も訪問された。これらの大学においては,カガン先生の存在感は特に大きかったと思われる。招聘スケジュールを立案する時点から,カガン先生は日本の広い地域の様々な大学を訪問することを希望された。その結果,名古屋大学訪問の期間を除いて大変ハードな旅程を組まざるを得なかった。受け入れ側として,申し訳なく思っている。

 最後に,北里大学において伝統あるシンポジウム(Max Tischeler Symposium)のPlenary Lectureをカガン先生が引き受けられたことを報告する。


招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

 名古屋大学における講演会では,若手研究者による質議応答が大変活発であった。他の大学でもその傾向があったと聞く。今日では外国人研究者の訪問と講演が日常化し,研究室内でも日本人研究者や学生が外国人博士研究者や留学生と肩を並べて研究を行う状況がより一般化されてきた。日本人学生諸君の語学力は依然として低いが,少なくとも海外からの研究者に対する違和感や障壁はかなり小さくなってきたように思う。それでも,著明研究者であるカガン先生の訪問はこれまでにない印象と刺激を若手研究者に与えたようである。

 不斉触媒反応の最も重要な基礎概念の多くがカガン教授によって提案され,野依教授のノーベル賞受賞に繋がった。その発展過程には,すべての学問に共通する「研究活動」のロマンと研究者の葛藤がある。その中心人物であるカガン先生と直接に接し,その歴史を本人から聞く機会が得られたことは,若手研究者や学生諸君にとって何ごとにも替えがたい価値があった。著明な研究者に若手研究者自身の最新の研究成果を報告し議論することにより,我が国の将来を担う人達に強いインパクトを与えたものと思う。カガン教授は研究に対して,そして研究活動に対して自身を厳しく律しられている。一方,他の研究者や特に若い研究者に対しては包容力を持って当たられる。カガン先生のそのような態度は,科学者をめざす若手研究者に研究活動以外の要因の重要性も教えたに違いない。

 今回の招聘では,講演および研究打ち合わせだけでなく,昼食時や休憩中も若手研究者がカガン先生と密接に接する機会を与えた。どのような会話がなされたかは知る由もないが,カガン先生は若い研究者との研究以外の会話を充分に楽しまれた様子であった。

 カガン先生の招聘は,名古屋大学をはじめとした受け入れ大学機関の国際化に大きな寄与をなした。名古屋大学においては,フランスおよび日本の大学や全国共同利用研究機関の国際的共同研究のあり方や大学の国際化に関して,物質科学国際研究センターの野依特任教授や巽センター長および各教官と意見交換を行った。フランスにおいて科学技術行政に深く関わっておられるカガン先生の見識と経験は,我々にとって大変参考になった。ヨーロッパ各国間の国際連携はフランスやドイツが中心になって進められており,これら先進国の大学等機関と発展途上段階にある諸国の大学,特に東ヨーロッパの諸大学,との連携の実体や今後の施策についての情報をもとに,我が国の対アジア諸国との大学間連携のあり方について議論した。

 我が国の主要大学の国際化は先進諸国間との協力関係を中心にかなり進展しており,今後は発展途上国との先導的科学技術政策に関する連携がより重要になると思われる。日本の将来を見据えた大学間協力の戦略の策定が必要な現在,カガン先生の招聘と意見交換は重要な意味を持つものであった。


その他

 カガン教授は不斉有機分子の触媒的合成に関する先駆的研究で世界的に著明な研究者で,テトラヘドロン賞をはじめ数多くの重要な国際賞を受けておられる。また,フランスの「文化勲章」を受賞されておられ,フランスの科学界を指導する役割を担っておられる。また,日本の文化に対する理解も深く,幅広い文化的素養と高い見識を身につけておられる。野依良治教授をはじめとして日本には知己が多く,今回の招聘事業も内容の充実したものとなった。

 今回の訪問先にはカガン研究室で博士研究員として指導を受けた若手研究者もおり,各大学訪問における講演や研究打ち合わせなどの多忙なスケジュールの合間を縫って,これまでの共同研究の成果のまとめや報文作成などの実務的な仕事もこなされた。学術的地位を確立された著明研究者であるカガン先生が,分子不斉触媒研究の分野でさらなる研究の発展に情熱を傾けられている姿を目の当たりにした。今後も,我が国の若手研究者の指導に尽力していただくためにも,本招聘事業は重要であった。

 本招聘事業では,奥様の同行に対しても手厚い支援をいただいた。カガン先生は典型的な旧来型研究者で,本人は常に研究活動に没頭されている。したがって,その他の生活活動は奥様が全面的に支えておられる。今回の訪問に際しても,滞在や移動に関する雑務は奥様に任せておられ,ハードな旅程にもかかわらずカガン先生は各訪問先で「研究活動」に精力を集中された。古き良き時代の理想的な研究者の奥様像を見る思いがし,我々も羨ましく感じた。

 奥様も日本の文化や風習に親しんでおられ,各地で文化的な交流に重要な役割を果たされた。招聘期間中に,受け入れ研究者およびその家族や学生諸君とも親しく接しられ,広義の国際化活動において本事業成功の一翼を担われた。我が国が必要としている研究活動の国際化においても,研究機関や研究者個人のみならずその家族の果たす役割の重要性を示された。

 最後に,本招聘に多大な支援をしていただいた学術振興会と,諸手続きや受け入れ実務を行っていただいた大学事務の皆様に深く感謝したい。今後とも本事業がさらに発展して,我が国の研究水準の向上と大学機関や研究者の国際化に貢献されることを強く期待している。