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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Icko Iben Jr.

滞在中の日程
年 月 日 訪問先名称・訪問内容
平成15年  
7月1日 成田に来日、札幌到着
7月2日
~9月8日
北海道大学理学研究科物理学専攻において、共同研究(教官・ポスドク研修員)と研究指導(大学院生)に従事
9月9日 国立天文台(東京都三鷹市) 訪問・
光赤外線による研究の視察 (応対:光学赤外線天文学・観測システム研究系教授、研究主幹 安藤裕康、同研究系助手青木和光)
9月10日
~9月11日
重力波望遠鏡TAMA300、重力波天文学研究の視察(応対:国立天文台位置天文・天体力学研究系助手 新井宏二)
国立天文台海部宣夫台長と懇談
ワーク・ショップ「Search for the first generation stars and study on the dawn of our universe」に出席、講演(主な出席者:北海道大学理学研究科教授藤本正行、東京大学理学系研究科教授 野本憲一、同付属天文教育センター教授 吉井譲、同初期宇宙研究センター助教授 茂山俊和、国立天文台光学赤外線天文学・観測システム研究系教授、安藤裕康、同助手青木和光、東海大学総合教育センター教授 比田井昌英)
9月12日 日本学術振興会(東京都千代田区)・表敬訪問(小野元之理事長と懇談)
9月13日
~10月31日
北海道大学理学研究科物理学専攻において、共同研究と研究指導に従事
9月25日 星周におけるダスト形成の研究討論会(北海道大学理学研究科地球惑星科学専攻教授 小笹隆司)
10月15日 北海道大学宇宙理工学研究グループとの懇談会(出席者:理学研究科物理学専攻教授 藤本正行、同教授加藤幾芳、同化学専攻教授 田中皓、同地球惑星科学専攻教授 渡部重十、同教授 小笹隆司、工学研究科量子物理工学専攻教授 馬場直志、低温科学研究所低温基礎科学部門教授 香内晃)
10月24日 低温科学研究所における雪氷物理・惑星科学研究の視察(対応:低温科学研究所低温基礎科学部門教授 香内晃、同助手 荒川政彦、 同助手 渡部直樹)
10月31日 札幌出発、成田経由で離日


受入実施の状況とその成果

 招へいの目的は、教授との共同研究を通して、北海道大学における恒星進化の研究分野を発展させ、特に、若手研究者を養成するとともに、また、全国的なレベルでも、わが国の恒星研究をすすめるための基礎づくりの貢献をすることである。あわせて、北海道大学における宇宙科学、惑星科学の研究体制の整備、研究の発展方向についての議論への参加、豊富な経験を踏まえた助言、提言へ期待したものである。
 Iben教授は、7月1日に札幌に到着、10月31日に札幌を出発するまでの4ヶ月間、主に北海道大学理学研究科物理学専攻に滞在され、宇宙物理学研究室および原子核理論研究室等を中心に共同研究、研究指導に行った。この間、地球惑星科学専攻、化学専攻などの他専攻、工学研究科や低温科学研究所など他部局の宇宙科学、惑星科学の分野の研究者と交流を図り、また、9月には、国立天文台を訪問、台長をはじめ多くの研究者と懇談するとともに、恒星の研究で活躍している国内の主要な研究者を集めて研究会を催した。
 今年度は、2年にわたる招へい計画の最初の年度であり、共同研究、研究指導の基礎作りと、北海道大学における宇宙科学惑星科学の教育研究の現状の理解、わが国に於ける天文学の分野の実情の把握をしていただくことを目指した。今年度の活動を通して、目標を十分に達し、次年度、これを基にして、共同研究の本格的な研究成果をあげ、北海道大学における宇宙惑星科学の教育研究体制、わが国の恒星進化の分野における研究のあり方、若手研究者の育成に関して具体的に検討していくための十分な準備ができたと考える。

研究指導・共同研究
 Iben 教授を迎え、若手研究者の育成を図るため、教授と宇宙物理学研究室、原子核研究室出身の博士研究員3人と合同での超金属欠乏星についての共同研究を組織した。また、今後の恒星進化の研究の基礎となる進化の数値計算コードの開発にも着手した。
 超金属欠乏星は宇宙のごく初期に生まれたと考えられ、初期宇宙の進化を解き明かす鍵となるとして注目され、最近は、すばる望遠鏡等の大型光学望遠鏡によって、その詳細な観測データが多く出されている。本共同研究は、これらの超金属欠乏星の形成・進化に関しての教授とのこれまでの研究で得られた理論を発展させ、最近の観測結果と照合することによって、その特異性と全体像の解明を目指したものである。さらには、この結果を基礎に、2002年に発見された金属量を太陽の20万分の1しか含まないHE0107-5240の起源に関して、この星が宇宙で最初に誕生した第一世代の恒星の生き残りである可能性を解明し、その識別に必要な観測を提起した。この論文は、超金属欠乏星に特有の新しい核種合成過程を定式化し、今後の超金属欠乏星の研究の基礎となるものと考える。この論文は、米国天文学会誌に投稿中である(T. Suda, M. Aikawa, M. Machida, M.Y. Fujimoto, & I. Iben, Jr. Is HE0170-5240 A Primordial Star? -- The Characteristics of Extremely Metal-Poor Stars)。
 近年、恒星研究の分野では、大型望遠鏡によって詳細な観測が可能となったため、これまでの標準的な恒星進化の理論では説明できない現象が多く発見されている。今回の共同研究の主要な目的は、これらの観測によってもたらされた恒星進化の新しい発展段階に対応する恒星進化の計算コードを開発・改良することである。そのためには、恒星の質量、金属量、それに進化の段階で大きく異なる状況に柔軟に対応できる核種合成のネット・ワークを装備することに加えて、これまでの標準理論では考慮されていない恒星の回転、勇退力学的な不安定に起因する内部での乱流の発生、それによる物質混合の効果を取り入れることが不可欠となる。その設計について、教授との討議をふまえて、分担して計算コードの作成することとした。これまでに、一通りの作成を終え、現在、コードの試験、デバッグを行っている段階である。次年度は、本格的な計算を実行する予定であり、このコードは、恒星進化の新しい側面を明らかにすることができ、今後、恒星進化の研究を国際的にリードしていく基礎となると期待される。
 加えて、研究指導の面では、定期的なセミナーへの出席(7月、10月、8、9月は夏季休業で中断)、不定期なセミナー、討論会の招集、院生、博士研究員との日常的な接触と研究面での議論、彼らの論文の内容への助言、英語の添削等を通して、天体物理学や天体核物理学の広い領域に渡って行い、効果をあげることができた。添削をお願いした論文の一部は米国天文学会誌で出版に予定されている(M. Aikawa et al. An Insight into the Reaction Rates of the NeNa and MgAl Chains from the Abundance Anomalies in Globular Cluster Red Giants, Astrophysical Journal June 30, 2004)。

学内での学術交流
 北海道大学には、天文学科がなかったため、宇宙科学の関連分野の研究者が、理学研究科だけでなく、工学研究科、低温科学研究所などの多数の部局に分かれて所属している。Iben教授には、理学研究科物理学専攻における宇宙物理学研究室、原子核理論研究室での上記の研究指導や共同研究を通した日常的な接触に加えて、研究地球惑星科学専攻の太陽系物理グループとの討論会、また、低温科学研究所低温基礎科学部門における研究、実験設備の視察等の活動を通して、学内の研究者・グループとの交流をはかり、研究の現状について把握する機会を設けた。
 これらの宇宙理工学の研究者の間では、最近の電波望遠鏡の移設による電波研究グループの発足を契機に、また、太陽系外惑星、原子惑星星雲の発見を受けて、宇宙科学、惑星科学を統合して、教育研究体制の整備を図りたいとする機運が高まり、その方向についての検討がなされてきた。今回の招へいの機会に、代表者が集まって、Iben教授と懇願会を催し、北海道大学における教育研究の現状の紹介をするとともに、統合した組織のあり方についての相談する場を設定した。これらの結果、Iben教授からは、米国のカリフォルニア工科大学、マサチュウセッツ工科大学で教員、イリノイ大学学科長、さらには、米国科学アカデミー会員として豊富な経験を交えて、貴重な助言をしていただいた。特に、マサチュウセッツ工科大学で実施されてきた、組織的な所属とは別に、部局の枠を超えて、定期的なコロキュウムとそれを媒介とした日常的な共同研究を中心として運営する方式が紹介され、これが、グループの活性を維持していく上でも、優れた実績を残していることが指摘された。この提言は、今後の北大における宇宙理工学グループのあり方を考えていく上で貴重な指針として参考になった。

学外での学術交流
 わが国における天文学の研究の実情を視察するため、国立天文台を訪問し、海部宣夫台長と懇談し、また、同研究所の関連分野の研究者と意見の交換をした。とくに、恒星進化と関連が深い、すばる望遠鏡の高分散分光観測装置を中心とした光赤外線天文学研究系のグループについては、活動についての詳細な紹介を受けるとともに、討論を通して、当該分野の発展の可能性、方向についての理解を深めた。
 恒星天文学の分野では、現在、すばる望遠鏡による観測が進展して研究が高揚してきているが、観測、理論の面でも、人材が極端に不足していて、若手研究者の育成が緊要な課題となっている。天文台訪問中に、国立天文台、東京大学、東海大学等で、現在恒星天文学の研究を担っている代表的な研究者に加えて、若手研究者を招いて、国際的に当面の主要な研究課題となって超金属欠乏星の形成と進化、その特性の解明をめぐって、ワーク・ショップ開いた。この研究会の目的は、今後の研究課題を明らかにするとともに、わが国の恒星研究の可能性が明らかにし、若手研究者を励ますことであった。1日だけの会であったが、教授は積極的に関与され、真摯なコメントや議論を通して、若手研究者の刺激になったと思われる。今回の天文台の訪問、研究会での討論を通して得られた知見、理解は、今後、北海道大学のみならず、わが国の恒星研究の発展につながる助言、提案の基礎となると期待される。


招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

 国際的に著名な研究者とセミナー、日々の議論を通して接することは、院生、博士研修員にとって刺激になった。教授が長年に培われてこられて豊富な天体物理学ならびに天体核物理学の知識をもとにした助言、指導は、彼らを十分魅惑するものである。特に、共同研究を通して、恒星進化の分野の第一線で長きわたって活躍してこられた教授の合理的かつ独自の推論、思考に触れ、国際的な水準を体感したことによって、研究の進め方、研究者のあり方について理解を広げ、意欲を高めることになったと見られる。これらのことは、教授離日後も、研究に対する態度、自信に反映している。次年度は、物理学専攻にとどまらず、教授の指導活動の場を、講演会等を通して広げていきたいと考えている。
 また、天文学に造詣の深く、研究に精通している教授との交流は、北海道大学の宇宙理工学グループと研究者にとっても刺激となり、また、国際的な視野を広げるのに役立ったと考えられる。加えて、北大における宇宙科学、惑星科学を統合した教育研究体制のあり方についての教授の助言は、これまでのわが国ではない新しいものであり、グループの研究を発展させ、国際的なレベルへ活動を高めていくために適した体制と考えられる。今後、わが国の大学でこのような組織体制の可能性を追求していくに値するものである。次年度も、グループの体制のあり方についての討議を続け、国際的に通用する具体的な提案をまとめたいと考えている。


その他

 9月12日に学術振興会を訪問して理事長と懇談したが、この際、この外国人著名研究者の招へい事業についての議論は、Iben教授自身にとっても、招へい研究者に期待されている活動を理解する上で貴重な機会であったようである。その折、話題になった、研究指導、共同研究等の学術的な活動と合わせて、高校生などの理科離れとの関連で、著名外国人研究者の生い立ち、研究者としての成長の過程、あわせて最新の研究成果の講演などが有意義であるとの議論には共感されたようである。今年度は準備の都合で間に合わなかったが、次年度は、このような社会的な活動にも取り組むことを計画し、その企画についての打ち合わせを行った。