お問い合わせ先

国際事業部人物交流課
外国人著名研究者招へい担当
TEL03-3263-3443
FAX03-3263-1854

外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Amartya Kumar Sen

滞在中の日程
年 月 日 訪問先名称・訪問内容
平成15年6月1日 (移動日)
→成田空港→京都
京都全日空ホテル泊
平成15年6月2日 (講演等)
立命館大学にて名誉博士号贈呈式出席
立命館大学大学院先端総合学術研究科開設記念国際シンポジウム
「21世紀の公共性に向けて--セン理論の理論的・実践的展開--
に、基調講演者として講演、パネルディスカッションに参加
総長主催のレセプションに参加
京都全日空ホテル 泊
平成15年6月3日 (研究討議)
立命館大学教員の参加するClosedな研究会にてスピーチした後、
ディスカッションに参加
京都全日空ホテル 泊
平成15年6月4日 (移動日)
京都→伊丹空港→関西国際空港→ロンドンへ


受入実施の状況とその成果

2003年6月1日の午前中に成田空港に到着したアマルティア・セン教授を、後藤玲子 (立命館大学先端総合学術研究科教授)がお迎えした。当初の計画ではセン教授は、 ロンドンから関西空港に到着し、6月1日の午後にミーティングをもつ予定であった。 同様に帰国日の4日も昼間に大学関係者のみの小規模な研究会を持ちたいと考えてい たが、3月以来の対イラク戦争とSARSの影響で、関西空港を離発着する航空機が 大幅に減便され、成田空港経由となったために、セン教授の日本滞在時間を必然的に 短縮する結果となったことは大変遺憾であった。

このような短期間の招聘であったにもかかわらず、その成果は大変実りの大きいもの となった。成田空港でセン教授をお迎えした後、京都までの新幹線の中では、セン教 授の公演内容および後藤玲子の報告内容に関して互いに質疑応答し、事実上の研究会 をもった。京都のホテル到着後は、大学関係者とともに夕食を兼ねて、翌日のシンポ ジウムのタイムテーブルに関して確認を行うとともに、シンポジウムのテーマと関連 して、トルコやアフリカなど西洋以外の国々における民主主義の可能性に関して、自 由な討議を楽しんだ。

6月2日、セン教授を基調講演者とした国際シンポジウム「21世紀の公共性」(別紙添 付資料をご参照下さい)が開催され、約2000人の参加者を得ることができた。本国際 シンポジウムは、立命館大学に2003年4月、開設された学部をもたない独立大学院 「先端総合学術研究科」の開設」記念行事として開催されたものである。「先端総合 学術研究科」は、プロジェクトを中心として運営される新しいかたちの大学院であ り、現在、「公共」、「共生」、「生命」、「表象」という4つのテーマのもとで、 それぞれに関連した複数の研究・教育プロジェクトが稼働している。セン教授の研究 テーマはもちろん広範な分野と多面的問題視角に及んでいるため、これら4つのテー マすべてに関わっているが、とりわけ「公共」に関連して現在進行しているプロジェ クト「21世紀の公共性」の機軸となると考えられる。そこで、このプロジェクトの担 当者であり、セン理論の研究者でもある後藤玲子が、国際シンポジウムの講 演および進行役を勤めることになった。

以下ではシンポジウムの内容に関して簡単にまとめよう。これまでにもセン教授を招 聘する国際シンポジウムは日本で幾度か開催されてきたが、いずれもノーベル経済学 賞受賞者であるセン教授の講演を一方的に拝聴するきらいがあった。それに対して、 本シンポジウムは、セン教授の理論を実践的に適用し、さらに発展させることを目標 として、セン教授と日本の研究者、院生、学生との間で本格的な議論がなされた点に 特徴がある。

セン教授の基調講演は、「民主主義と社会的正義:公共的理性の射程」というテーマ のもと、民主主義の成立条件を理論的に解明するとともに、歴史的に位置づける内容 となった。講演の主たる柱は次の通りである。(1)個々人の公共的理性に支えられた民 主主義の実践の中で、表現の自由、相互行為の自由、政治的参加の自由など市民的・ 政治的権利の他、基本的潜在能力の保障など経済的社会的権利の重要性が認知されて きたこと、(2)権利の重要性に関する認知はかならずしも権利の制度化の実現を意味す るものではないが、権利の制度化を阻む支配的環境を変化させようという要求を生む こと、(3)たとえ権利の侵害を引き起こしている状況に直接関連がないとしても、助け ることのできる位置にいる他の人々、適切に行為できると考えられる人々に対しても 援助を請求しうること、(4)民主主義と権利の分析的な解明に関して、社会的選択理論 がなした重要な貢献を確認しつつ、それを公共的理性の形成との関係で再定式化する 必要のあること、(5)このような公共的理性をベースとする民主主義の実践は、歴史的 事実として、西洋社会のみならず、世界各地で観察されることが指摘された。

続く講演において後藤玲子は、「セン教授の提出した<整合的な目標=権利システム の構想>について」というテーマのもとで、通常、対立的に捉えられがちな公共的福 祉と個人の諸権利をいかにバランスづけるかという問題に関して、セン理論の射程が 論じられた。はじめに、センの「自由」概念は、通常の理解とは異なり、「ひとが価 値をおく理由のある生を送ること」を意味する広義の自由であり、それを現実化する ために、市民的・政治的権利のみならず、経済的・社会的権利の制度化を要請する点 が明らかにされた。続いて、センによって発展させられた社会的選択理論及び潜在能 力アプローチは、帰結に関する広い理解のもとで権利の充足を解釈し、権利基底的な 考慮と人間生活の福祉と幸福への一般的関心のバランスづけを可能とするものである ことがあきらかにされた。これは、新古典派経済学の理論的道具を駆使しながらも、 経済学の枠組みを、真に人間生活に寄与する学問へと改変することに努めてきたセン 教授の1つの理論的到達点を示すものだった。

さらにパネラーからは、(1)公共的理性に基づく民主主義制度を実際に機能させるよう な政治的・経済的システムについて、(2)アジアの貧困問題に潜在能力アプローチを適 用する方法について、(3)共通悪(不正義)にコミットするという意味での不完全義務 と対応する制度化されていない権利、彼ら自身の主体的行為や意思との関係につい て、(4)民主主義に先立って、経済的・社会的権利の実現を促進する論理と内容を明ら かにすることの必要性について、問題提起がなされた。これらは異なる専門分野の視 角から、セン教授の理論をより明確にし、その展開を図ることを意図するものだっ た。パネラーからのコメントに関しては、時間的制約もあり、十分議論しつ尽くせな かった問題が残されたが、これらについては、今後、国内の学際的研究会および来年 度、継続されるセン教授との共同研究のなかで、解明に努めるととともに、教育・研 究の場で議論・実践していく所存である。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激、受入機関全体の国際化など)

上述したように、先端総合学術研究科におけるプロジェクト「21世紀の公共性」の 一環として、2003年4月から「セン理論に関する学際的研究コンファレンス」が後藤 玲子を中心としておこなわれてきた。具体的には、以下のような内容であった。

4月19日、第1回「セン理論に関する学際的研究会コンファレンス」、第1部「アマ ルティア・センの潜在能力アプローチをどう応用するか:ベトナム少数民族の貧困問 題」(池本幸生・東京大学東洋研究所)第2部「セン教授の共通悪思想について」 (若松良樹、成城大学)

5月2日、第2回「セン理論に関する学際的研究会コンファレンス」、第1部「貧困と 潜在能力アプローチ」(岡敬之助、立命館大学博士課程)、第2部「必要と公共圏」 (山森亮、都立大学)、第3部「アフリカの貧困と潜在能力アプローチ」(峯陽一、 中部大学)

これらの研究会に毎回、立命館大学学内の院生、学生のみならず、東京や大阪・神 戸などから延べ100名にもおよぶ研究者、院生が集い、セン教授の招へいのプレ勉強 会として非常に内容の濃い議論ができた。この研究会が、若手研究者へ刺激を与えた ことは間違いない。

国際シンポジウムは、当日の参加者が約2000人であったことからも、セン教授の知 的影響力の大きさは理解されよう。国際シンポジウムで出席者に依頼したアンケート 結果には例えば、民主主義的考え方が西洋だけで生まれたものではないということな ど民主主義に関する新たなとらえ方、人権尊重は福祉の原点であったこと、公共性と 個人の生活が密接していることなどセン教授の指摘や問題視角に触発され、考えさせ られ、今後の自らの研究に生かしていきたいとする意見がみられた。セン教授が研究 されている専門分野は、たんなる経済学にとどまらず、政治学、哲学、倫理学、社会 学、歴史学等々にかかわる議論であるために、学生・院生のなかには、いったいどの ような問題視角から、どのようなアプローチによって、セン理論を具体的に実践して いくことが可能であるのかを模索しているように思われる。そのために国際シンポジ ウムでは、環境経済、開発経済、法哲学、社会学などを専門とする研究者にコメント していただくことによって、具体的なアプローチの可能性を示すことができ、とりわ け修士、博士課程の院生へ大きな刺激を与えたと考えられる。

加えて立命館大学は、今回のアマルティア・セン教授の招へいに際して、セン教授へ 名誉博士号を授与した。(ユニタス添付)今後もプロジェクト「21世紀の公共性」の 枠内で、「セン理論の実践的研究」会を継続し、来年度には再びセン教授と研究会を もちたいと計画している。

最後に、このような貴重な国際シンポジウム開催に伴うセン教授招へいにご助力を賜 りました日本学術振興会様に心から御礼申し上げます。

その他

本シンポジウムの講演内容に関しては、『経済セミナー』10月号に、講演および討 論の概要に関する記事(8000字)を、後藤玲子が執筆いたします。さらに、当日のセ ン教授および後藤玲子の講演2本と、セン教授の最新論文2本、後藤の最新論文1本 が加えられて、1冊の本として東大出版会から出版されることになりました。出版の 際には、セン教授の招へいが日本学術振興会からの助成によって実現したことを注記 し、出版された次第、当該本を貴日本学術振興会へ謹呈いたします。

活動状況

2003年6月2日