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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Ferid Murad

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
平成15年2月17日
(月曜日)
午後3:50関西国際空港到着、タクシーで新大阪、新幹線(のぞみ28号:19:53 - 22:10)で新横浜へ移動した。その随行中にこれまでの共同研究テーマ「タンパク質のニトロ化・脱ニトロ化による細胞機能制御機構の解明」について、研究の進捗状況の概略を説明するとともに、その内容について討議し、さらに、その指示・指導を受けて、大阪大学顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室)に連絡のうえ、研究内容を具体化するための準備研究を開始した。横浜グランドインターコンチネンタルホテル宿泊
平成15年2月18日
(火曜日)
午前、横浜市立大学医学部を視察し、大阪大学顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室)と共同研究中の横浜市立大学医学部第三内科中島淳助教授を交え、研究内容「PPARγのニトロ化による機能変化」について討議し、ニトロ化が単なる機能障害のみではない可能性が示めされた。午後16:00~同横浜市立大学医学部で特別講演会を開催し、参加者 300名に対し、ノーベル賞受賞にいたるMurad博士の研究経緯を講演。聴衆に新しい研究を着想する難しさと、さらにその研究を維持することの重要性を解説した。同ホテル泊。
平成15年2月19日
(水曜日)
タクシーで新横浜駅へ移動、新幹線(のぞみ7号:9:09 - 11:10)で京都へ移動。京都大学大学院薬学研究科を視察するとともに、大学院生を含む若手研究者と研究懇談会を開催し、その研究内容について討議した。新幹線(のぞみ79号:18:38 - 18:53)で新大阪へ移動、タクシーでホテルへ移動。大阪リーガロイヤルホテル宿泊。
平成15年2月20日
(木曜日)
午前、タクシーで大阪大学歯学研究科へ移動し、大阪大学銀杏会館ミネルバおよび大阪大学歯学研究科に、Murad研OB(土肥敏博;広島大学大学院医歯薬学研究科教授、久野高義;神戸大学医学部薬理学教室教授、石井邦雄;北里大学薬学部教授、佐伯修一;愛媛大学保健管理センター教授ら)を迎え、意見交換を行った。大阪大学歯学研究科顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室)にて、既に進めている共同研究テーマ「タンパク質のニトロ化・脱ニトロ化による細胞機能制御機構の解明」について、同教室員による同教室における研究内容とその成果の提示説明、ならびにFerid Murad博士によるテキサス大学医学部ヒューストン、生化・薬理・生理統合学講座における研究内容の説明提示を行い、意見を交換するとともに、その指導の下に研究を行った。同ホテル泊。
平成15年2月21日
(金曜日)
第22回歯科薬物療法学会に参加し、特別講演(11:00 - 12:00)で、口腔科学領域における薬物療法について講演した。午後は、タクシーで大阪大学歯学研究科に移動し、残余研究指導を行った後、再び、学会会場にもどり、懇親会において、参加会員らと懇談した。同ホテル泊。
平成15年2月22日
(土曜日)
同歯科薬物療法学会に出席した。同ホテル泊。
平成15年2月23日
(日曜日)
午前、ホテルにて休養。午後、タクシーにてホテルから関西国際空港へ移動、15:45出発。


受入実施の状況とその成果

 本年度は、本助成の3年目に当たり、最終年度であるため、いわゆる特別講演などによるMurad博士の一方的な講演に加え、より成果が期待できる方法として、研究討論・懇談方式を導入した。これは、受入側である日本人研究者が現在進行させている様々な内容の研究をプレゼンテーションし、ノーベル賞受賞者であるMurad博士の貴重な意見を伺うという形式である。
 実際には、大阪大学歯学研究科に、全国のMurad研のOBほぼ全員(具体的には土肥敏博;広島大学大学院医歯薬学研究科教授、久野高義;神戸大学医学部薬理学教室教授、石井邦雄;北里大学薬学部教授、佐伯修一;愛媛大学保健管理センター教授、久野みゆき;大阪市立大学医学部生理学教室助教授、和田孝一郎;大阪大学大学院歯学研究科講師、入江康至;大阪大学医学系研究科助手、佐伯万騎男;大阪大学大学院歯学研究科助手)が集まり、同様の研究討論会を開催した。もともと、Murad博士から研究教育を受けた諸氏ではあるが、現況を解説し、同博士からコメントをもらえたことは、日本における将来の研究を推進して行く上でも、多いに参考になったことは、充分推察できる。

 さらに、大阪大学歯学研究科や京都大学薬学研究科でも同様の企画で、数名の博士課程大学院生を中心とした若手研究者による研究発表会を開催し、Murad博士を交えた研究討論を行った。総参加者は50名以上に上り、修士課程の大学院生や教官らと、プレリミナリーな研究データを討議したため、これまでの著名人による講演を拝聴するだけとは比較にならない刺激や、モチベーションを与えた。
 また、今回の来日は緊迫したイラク情勢やスペースシャトル事故直後であったが、予定通り日程が消化できたことは、前回、テロ事件の発生直後の来日と合わせ、Murad博士の当受入教室との共同研究に対する強い意志の現れであると考えている。
 ここでは今回の招聘による成果を中心に、これまでの3年間の共同研究に伴う成果全体についても触れることにする。


大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室)の受入状況とその成果:
 例年のように、共同研究のテーマ「タンパク質のニトロ化・脱ニトロ化による細胞機能制御機構の解明」について、同教室員ならびにMurad博士によりこれまでにあげた研究成果について相互に説明、提示を行い、それぞれの意見を交換した。メールによる遠隔討議ではえられない貴重な成果が得られた。このように同一のテーマで二つの教室が定期的にその成果を検討し合うことは、双方にとって研究の方向性の是正が可能となり有意義であった。この共同研究による成果は下記の発表論文一覧から容易に推察されるように、絶大なものである。
 さらに、受入講座の助手 佐伯万騎男は、平成13年4月より同10月まで、文部科学省の若手在外研究員として、 Murad博士の所属するテキサス大学医学部ヒューストン、生化・薬理・生理統合学講座に留学して研究を行うことができた。このチャンスが得られたことは勿論、留学直後に研究が開始され、短期間にもかかわらず充分な成果が得られたことは、本助成に負う所が大きい。受入機関は既に国際的な役割を充分に果たしているが、上記のような具体的な例を見ても、それらが更に促進されたことは明らかである。
 また、ここには上げなかったが、当教室の指摘により、Murad研の研究も促進され、より優れた研究成果を上げるようになったことは言うまでもない。
 また、Murad博士の指示により、「生命発生過程における微生物間の気体分子、NOによるコミュニケーション」について、当教室員が指導を受けて、研究にあたったが、来日毎の研究では充分な成果が得られなかった。このように、ノーベル賞を受賞した博士自身が研究することは考えられないので、来日毎の研究経費では、本共同研究による完全な成果が得られないと考えられた。
 以下に、本共同研究によりこれまでに発表した、一酸化窒素やタンパク質のニトロ化に関する研究発表論文を上げる。現在、さらにもこれ以外にも、執筆中の研究論文など数編の公表を予定している。

  1. Saeki, M., Kamisaki, Y., Maeda, S.: Potentiation of carbachol-induced Ca2+ release by peroxynitrite in human neuroblastoma SH-SY5Y cells. Neurochem Res, 25: 909-914, 2000.
  2. Saeki, M., Kamisaki, Y., Maeda, S.: Involvement of mitogen-activated protein kinase in peroxynitrite-induced cell death of human neuroblastoma SH-SY5Y cells. Neurosci Res, 238: 213-216, 2000.
  3. Fujimori, Y., Maeda, S., Saeki, M., Kamisaki, Y.: Inhibition by nifedipine of adherence- and activated macrophage-induced death of human gingival fobroblasts. Eur J Pharmacol, 415(1): 95-103, 2001.
  4. Saeki, M., Maeda, S., Wada, K., Kamisaki, Y.: Insulin-like growth factor-1 protects peroxynitrite-induced cell death by preventing cytochrome c-induced caspase-3 activation. J Cell Biochem, 84: 708-716, 2002.
  5. Saeki, M., Maeda, S., Kamisaki, Y.: Vanadate protects human neuroblastoma SH-SY5Y cells against peroxynitrite-induced cell death. J Cell Biochem, 85: 721-727, 2002.
  6. Shiojiri, T., Wada, K., Nakajima, A., Katayama, K., Shibuya, A., Kudo, C., Kadowaki, T., Mayumi, T., Yura, Y., and Kamisaki, Y.: PPAR・ ligands inhibit nitorotyrosine formation and inflammatory mediator expressions in adjuvant-induced rheumatoid arthritis mice. Eur J Pharmacol, 448: 231-138, 2002.
  7. Shibuya, A., Wada, K., Nakajima, A., Saeki, M., Katayama, K., Mayumi, T., Kadowaki, T., Niwa, H., and Kamisaki, Y.: Nitration of PPAR・ inhibits ligand-dependent translocation into the nucleus in a macrophage-like cell line, RAW 264. FEBS Lett, 525(1-3): 43-47, 2002.
  8. Yonehara, N. Amano, K., Kamisaki, Y.: Involvement of the NMDA-nitric oxide pathway in the development of hypersensitivity to tactile stimulation in dental injured rats. Jpn J Pharmacol, 90: 145-155, 2002.
  9. Yonehara, N., Kudo, C., and Kamisaki, Y.: Involvement of NMDA-nitric oxide pathways in the development of tactile hypersensitivity evoked by the loose-ligation of inferior alveolar nerves in rats. Brain Res, 963: 232-243, 2003.
  10. Katayama, K., Wada, K., Nakajima, A., Mizuguchi, H., Hayakawa, T., Nakagawa, S., Kadowaki, T., Nagai, R., Kamisaki, Y., Blumberg, R.S., and Mayumi, T.: A novel PPAR・-gene therapy to control inflammation associated with inflammatory bowel disease in a murine model. Gastroenterol., in press, 2003.
  11. Kudo, C., Kori, M., Matsuzaki, K., Yamai, K., Nakajima, A., Shibuya, A., Kamisaki, Y., Wada, K.: Diclofenac inhibits proliferation and differentiation of neural stem cells. Biochem. Pharamcol. in press, 2003.
大阪大学全体での受入状況とその成果:
 今回の計画では、横浜市立大学や京都大学など、これまで訪問しなかった大学においても、講演会や研究懇談会を開催したため、大阪における滞在期間が短くなり、大阪大学全体へ貢献は少なかったが、受入講座に限らず、研究討論会を公開で行ったため、歯学研究科内では口腔分子感染制御学講座の中川一郎講師もMurad博士にプレゼンテーションし、口腔感染に対する一酸化窒素の関与について、同博士のコメントをもらい、討議を行った。
 また、これまでに、医学系研究科情報薬理学講座(三木研)、タンパク質研究所(畠中研、相本研)、薬学研究科(北研、真弓研)などと、共同研究の可能性を含め、研究内容について討議してきており、直接的間接的貢献は大きいものと考えられる。
 このように、Murad博士招聘の成果は枚挙にいとまがなく、有形・無形のものにまでおよんでいる。

特別講演の状況とその成果:
 既に述べたように、今回は討論形式の意見交換に重点を置いたため、大阪大学においては特別講演は行わなかった。
 しかし、新しい場所や、新しい領域の学生や研究者に対しては、これまでと同様の特別講演を行った。具体的には、横浜市立大学医学部での講演、ならびに、大阪での第22回歯科薬物療法学会における特別講演がこれに当たる。これらは医学部関係者ならびに歯科医療関係者を対象としたものであり、その参加者はそれぞれ300名と、500名に上る。特に、横浜市立大学医学部では最大の300人収容の大講義室が、設立以来、始めて、定員を超過し、立ったままで聴講する学生がでるくらいの盛況であった。また、その内容は「The role of nitric oxide and cyclic GMP in cell regulation」という演題から判断される学術的な内容に加え、ノーベル賞受賞に関連した研究の発端やそれを着想するにいたった経緯までを含んだものであり、これらの分野の研究者にとっても、研究テーマの発掘や研究継続に有意義であったと考えられた。
 また、初回来日時の、平成13年10月の大阪大学歯学部における特別講演 「シグナル伝達としての一酸化窒素、NO」を始めとし、これまでに、平成14年9月の京都でのNeuro2001における講演ならびにその懇親会において神経化学および科学会会員との討論などを行ってきたが、それにより、Murad博士の研究に対する考え方などが、日本の各分野の研究者に周知されてきたと考えられる。特に、参加した学生にとっては世界的な研究者との距離が近いこと、また、研究者にとってはノーベル賞にいたる発想や研究テーマの発見、途中の経緯などが理解でき、今後の研究に対する態度、発想の重要性が再認識されたであろう。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激、受入機関全体の国際化など)

 今回は、研究討論会という、新しい方式で、大阪大学歯学研究科に限らず、大阪大学全体、さらに、学外からも研究者を招聘して、若手研究者を交えた、交流を行った。これは、Murad博士による一方的な講演よりも、逆に拝聴する側が自分の研究を発表し、それに対するMurad博士の意見を頂くという、他に例を見ない企画であった。これは、前回の講演で得たヒントを元に、日本の各研究者が独自のアイデアを加味し、発展させ、検証した結果について、再びMurad博士を交えて検討したものである。このことにより、Murad博士の研究に対する概念をより鮮明に具現化することができたもので、本助成の目的に完全に合致するものと考えられた。これは当該受入機関のみならず、京都大学薬学研究科でも同様の企画で研究懇談会を開催し、若手研究者を含む、活発な討論会を行った。これらの成果は、担当の大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室)からのみならず、日本中の教室から公表されることが期待される。
 また、これまでに講演を行っていない地区や対象者には、従来の講演形式で、Murad博士の考えをそれぞれの研究者に伝えた。つまり、横浜市立大学医学部、ならびに、第22回歯科薬物療法学会にて、「The role of nitric oxide and cyclic GMP in cell regulation」という演題で講演を行った。参加者はそれぞれ300名と500名に上り、医学部関係者ならびに歯科医療関係者を対象として、それに応じた講演を行った。特に、この公演内容は臨床面への応用が期待されている一酸化窒素の制御機構であるため、臨床家や医学研究者にも有益なものであったと考えられた。これまでに、大阪大学大学院歯学研究科・歯学部を始め、京都でのNeuro2001での講演や懇親会における膝を交えた討論会などで、充分な成果を上げていることは既に、前回までの報告書に述べた通りである。
 さらに、本助成の間に、受入講座(大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔病因病態制御学講座(薬理学教室))の助手 佐伯万騎男や、大阪大学大学院医学系研究科 情報薬理学講座の助手 入江康至が、Murad博士の所属するテキサス大学医学部ヒューストン、生化・薬理・生理統合学講座に留学できたのは、本助成がその契機をもたらしたことは明らかである。さらに、大阪大学大学院医学系研究科卒業大学院生を、ポスト・ドクトラル・フェローとして、 Murad博士の研究室に派遣でき、現在も、そこで研究を積極的に推進している。このように、本助成によるMurad博士の招聘が、大阪大学の若手研究者の海外進出の契機となったことは間違いない。