サイエンス・ダイアログ

2015/03/26 「サイエンス・ダイアログ」を実施しています。

サイエンス・ダイアログは、JSPSのフェローシップ制度で来日している優秀な若手外国人研究者(JSPSフェロー)に有志を募り、近隣の高等学校等に対して英語での研究に関するレクチャーを提供するプログラムです。

地域の大学や研究機関で活躍しているJSPSフェローから、英語で研究の話を聞くという経験が、生徒達に大きな刺激を与え、研究への関心・国際理解を深めるだけでなく、JSPSフェロー自身にとっても、地域社会と交流し、日本とのつながりを深めることを狙いとしています。

実施をご希望の場合は事業のウェブページをご参照の上、参加申込書をご提出ください。皆さまのご参加をお待ちしています。

■実施プログラム例の紹介

平成27年2月19日 山梨県立日川高等学校 (講師:Dr. Tamas J. SZIDAROVSZKY)

講師のDr. Szidarovszky

平成27年2月19日に、日本学術振興会外国人特別研究員(JSPSフェロー)のDr. Tamas Szidarovszky(タマス・ジダロフスキ博士)が、山梨県立日川高等学校の1年生及び2年生を対象に講義を行いました。日川高校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、理科教育・科学教育に熱心で、このサイエンス・ダイアログも既に何度も実施した実績があります。

講義は2部構成で、前半では講師の母国であるハンガリーの地理と歴史(建国、ソ連の衛星国化、冷戦後のEU加盟)について簡単に触れ、続いてその風土や文化について写真をふんだんに使った紹介がなされましたが、ハンガリーが良質なワインの生産地であることや、郷土料理にはパプリカが欠かせないことなど、日本ではあまりよく知られていない内容も多く盛り込まれていました。

これに続いて講師の経歴と研究歴について説明があり、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学で化学と物理学を修め、化学の博士号を取得したこと、のち同大学の博士研究員を経て、昨年から2年間の予定で東京大学大学院においてJSPSフェローとして研究を行っていることが紹介されました。また、専門は理論化学、特に分子の振動・回転のシミュレーションで、現在は分子の強レーザー場での振る舞いについて研究しているということでした。

講義の様子

後半では講師自身の研究テーマに関連の深いH3+とそれに関する研究やその応用例の紹介が行われました。内容は以下のようなものでした。

H3+は、水素分子H2が他分子等との衝突によって電子を一つ放出してH2+となり、これが水素分子と結合して生成される極めて反応性の高い分子で、強力な酸として化学反応を起こします。1911年に電子の発見で有名なトムソンによって見つけられて以来、H3+のエネルギー準位は長い間測定できませんでしたが、1980年に岡武史博士(現シカゴ大学名誉教授)によって初めて実験室でスペクトルが測定され、現在ではイオントラップという装置を用いることでその詳細がわかるようになっています。一方、近年になって理論的にそのエネルギー状態を計算することも可能になってきています(講師の専門はこうした量子化学的数値計算です)。

このような研究によって、H3+がどのような波長の光を放射又は吸収するかがわかりますが、その最も興味深い応用が天文学です。宇宙において最も多い元素は水素であり、これからできる水素分子も宇宙には多く存在するため、水素分子からできるH3+も宇宙空間に多く存在している可能性があります。これまでに多くの天体からの光が調べられましたが、そこから実際にH3+が検出されています。例えば木星では太陽から吹き付ける高速の粒子が木星大気と衝突して生成したと思われるH3+からの光が両極域で検出されています。これは地球で言うオーロラ中にH3+からの光が存在することを示しています。また、地球から遠く離れた星々の間にあって恒星や惑星を生み出す分子雲という天体の中などにもH3+が見つかっています。H3+はその高い反応性から宇宙における様々な化学反応の起点になっており、メタン・水・アンモニアをはじめとした生命を生み出すのに不可欠と考えられている分子の形成に大きな役割を果たしていると考えられています。このため、一見すると純粋な化学の世界にあるH3+の研究が、全く違う研究分野である天文学の大きな課題の一つである生命の起源を研究する上で重要な役割を果たしているのです。

小テストの答え合わせ。次々と手が上がります。

後半の研究部分についても講師の話は非常にわかりやすい入門的なものでしたが、もちろん高校生にとっては難しい内容です。このため、講師の所属する東京大学の同じ研究室から理学部4年生の学生さんが同行者として講義に参加しており、節目で丁寧な日本語の解説を加えていただきました。特に英語が苦手な生徒の皆さんにとっては、講義内容を理解するために非常に役立ったようです。

ここまでで講義は終わり、内容に関する簡単な小テストに移りました。小テストは全5問で、ハンガリーの国旗の色数から分子のエネルギー状態と出す光の色の関係まで、バラエティに富んだ内容が英語で出題されました。正解者には講義内容にちなんでプリズムが賞品として講師から贈呈されました。ちなみにこのプリズムを探して、講師は都内の某百貨店を行脚し、買い占めて回ったそうです。

小テスト終了後は質疑応答の時間が取られ、日本に来ようと思ったきっかけ、研究者を志望した理由、母国語ではない英語の習得法、宇宙と地球の元素組成の違い、日本の高校生の印象、果てはハンガリーワインと甲府ワインのどちらがおいしいか、といった多岐にわたる質問が挙がり、それぞれについて講師から丁寧な回答がなされました。 質疑が終わった後、締めくくりとして生徒代表から英語でお礼の挨拶があり、和やかな雰囲気で講義は終了しました。

生徒代表によるお礼の挨拶

特に後半部分については、初めて耳にする科学的内容を短い時間で、しかも英語で理解しなければならないため、生徒にとっては大変チャレンジングな講義でしたが、裏を返せば講師にとっても非常に難しい講義とも言えます。今回の講義では、例えばH3+やそのスペクトルを説明するにあたり、高校の化学や物理をベースに説明しつつ、それらの範疇を超えた量子力学の考え方は知識として与えることで、簡単でありながら本質を外れない説明ができるよう工夫がなされていました。また同行者も、事前に講義資料の鍵となる用語には日本語を付記し、解説も単に講師の話したことを訳すのではなく、理解の助けとなる内容を補足していました。さらに学校側でも、事前に講師から講義の概要を伝えてもらい、それを理解する上で必要な内容を予習するなど、講義の効果を最大にする努力がされていました。いずれもグローバルに展開されているサイエンスや研究のおもしろさを生徒が理解し、一人でも多く将来そうしたことに携わるような人材になるよう期待したもので、その熱意が感じられました。