平成25年度「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」

平成26年度「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」が実施されています。

  「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」は、科学研究費助成事業(KAKENHI)から生まれた研究成果を我が国の将来を担う小中高校生に広く伝えることで、人文学・社会科学から自然科学にわたるさまざまな分野の科学の楽しさを身近に感じてもらうために平成17年度から実施している事業で、今年で10年目を迎えました。
  小中高校生の皆さんに、最先端の研究を行っている大学等へ実際に来ていただき、大学等の研究室でしか体験できない最先端の実験や調査をするとともに、第一線で活躍する研究者から直接話を聞くことができる点にポイントがあります。
  今年度のプログラムは、全国の145機関で平成27年1月まで随時実施されています。皆さんのご参加をお待ちしています。

ひらめきときめきサイエンス
■実施プログラム例の紹介

8月5日(火)福岡女子大学「ナメクジは賢い!~ナメクジの学習行動と脳の仕組み~」

8月7日(木)京都大学「カオス・フラクタルの世界の魅力に触れる」

8月22日(金)東海大学「展覧会をつくろう!! 日本画の魅力と学芸員のしごと」


 




  平成26年8月5日に福岡女子大学で「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」によるプログラム「ナメクジは賢い!~ナメクジの学習行動と脳の仕組み~」が開催されました。ここではその様子を紹介します。


  ナメクジと言えば、「時々じめじめした場所で見かける気持ち悪い生き物」、というイメージを持っている人が多いと思います。そんな敬遠されがちなナメクジが、実は学習も可能な立派な脳を持っていることを知っている人はほとんどいないと思います。このプログラムでは、実習を通してそんなナメクジの意外な能力について学ぶことを目指しています。


  当日はあいにくの雨にも関わらず、病欠を除いて参加登録したすべての参加者(主に小学校5・6年生)が出席しました。
  まず講師の松尾准教授から、オリエンテーションののち、ナメクジやその脳についての講義がありました。講義では、ナメクジが軟体動物の仲間であること、ナメクジの体のつくり(カタツムリでいう殻に相当するマントルや、呼吸孔の存在など)、触角の機能(見る・嗅ぐ・触る)と再生能力(なんと切ってもまた生えてきます)、そして今日のメインである脳の学習能力について講義がありました。


講義の様子

講義の様子。ここではナメクジの体のつくりを説明しています


  この日取り上げたナメクジの学習能力は「嗅覚-味覚連合学習」と呼ばれるもので、具体的には、にんじんジュースの近くにナメクジを置き、ジュースを飲もうとしたまさにその時に苦い液体をナメクジの口にかけることで、にんじんの匂いという嗅覚刺激と「苦い」という味覚刺激を結びつける学習(連合学習)をさせるというものです(これを「条件づけ」という)。この条件づけを行ったナメクジが、にんじんジュースの匂いを嗅いだだけでジュースを飲もうとしなければ、ナメクジの脳が記憶保持をしている、すなわち連合学習が成立しているということになります。

  この講義につづいて、①実際に条件付けを行うこと、②条件付けを行ったナメクジとそうでないナメクジをにんじんジュースに近づけて、記憶を保持しているかテストすること、の二つの実習を行いました。


条件付けの手順を実演中。

条件付けの手順を実演中。まだ参加者はナメクジに抵抗が…

  実習は一人一人にナメクジを配布して行われましたが、多くの参加者はナメクジを触るのが初めてのようで、最初はおっかなびっくり眺めるだけでしたが、やがて決心がついたのか、「わー」「きゃー」と歓声とも悲鳴ともつかない声があちこちであがりつつも、ピンセットでナメクジをつまみ上げて実験装置に置くことができました。次第に慣れてきたこともあり、二つの実習とも無事に終わることができました。


記憶保持テストの様子

記憶保持テストの様子。一定時間経ってもジュースに近づかない場合は記憶していると見なします

  午後のプログラムも、最初は講義からスタートしました。この講義ではまずナメクジの脳構造を説明し、主要な感覚器である大小の触角について説明がなされ、外部からの刺激が触角を伝って脳に運ばれ、脳波として記録されること、学習によって脳波の変化が起こること、脳の一部の破壊によって学習ができなくなること、などが紹介されました。

  この講義を踏まえた上で、午後のプログラムの柱である、生きたナメクジの脳の摘出(!)の実習が始まりました。まず講師によるお手本が顕微鏡画像で示されます。さすがにナメクジ研究のプロ、ものの数分で見事に脳が摘出されました。と書くといかにもあっさりしていますが、実際は、わずか数ミリの脳を取り出すという非常に細かい作業である上、生きているナメクジに麻酔を注射→麻酔が効いた(ぐったりした)ところで体の頭側三分の一をはさみでカット→ピンで固定して体を開き、脳以外の不要部分を次々につかみ出して切除→最後に触角をカットしてできあがり、という子どもには少なからず残酷な手順のため、講師を囲む参加者は一様に神妙な表情で作業を見守っていました。


先生によるお手本オペ

先生によるお手本オペ。鮮やかな手つきで脳を取り出します

  演示実験も終わり、いよいよ実習開始です。さすがにこの実習は小学生には難易度が高いため、福岡女子大学の学生さんがサポートに入り、一つ一つの作業を教えてもらいながら行います。一人ではやりにくかった麻酔や体の切断といった作業も、学生さんから丁寧に教えられることで難なくこなすことができるようになりました。不思議なことに、最初は「かわいそう」「いやだ~」と言っていた女の子の方が、いざ始まると平気でメスをふるい、作業に興味を持つようになります。こうして、時間いっぱいまで実習は続き、最大で一人四体のナメクジから脳を取り出すことに成功しました。


先生によるお手本オペ

もちろん解剖は初めて。サポートの学生さんと一緒に、丁寧に作業を進めていきます

  実習が終わると、研究室と大学の見学です。まず、松尾先生の研究室で先ほどの実習のようにして取り出されたナメクジの脳波を測定している様子を見学し、化学物質の投与で脳波に変化が起こることを観察しました。続いてその他の研究室の設備等を見学し、飼育されている実験用の動植物や、遠心分離器などの実験装置を見て回りました。研究棟と図書館は立て替えられたばかりでまだ新しく、参加者は真新しい建物や設備を興味津々に眺めていました。


先生によるお手本オペ

研究室見学で、ナメクジの脳波を観察中

  見学が終わると、質疑応答ののち、修了証である「未来博士号」がすべての参加者に手渡されました。小学生にとっては長時間のプログラムだったにもかかわらず、次々と新しい体験と興味を引く現象があるせいか、参加者は最後まで集中力を切らさずに講義や実習などに取り組んでいたのが印象的でした。参加者の一人に尋ねてみたところ、最近は学校の理科の授業でこうした全員参加型の実験や実習は少ないため、今日のようなプログラムはとても面白かったということでした。

  ナメクジという意外な素材を使って生命の脳機能というサイエンスの一端を知るプログラムでしたが、参加者の態度の変化や熱心な様子を見ると、その趣旨は十分に伝わり、本事業の目的も果たされていると感じました。