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ひらめき☆ときめき サイエンス

プログラムの実施の様子
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プログラムの実施の様子

龍谷大学

アフガニスタンの不思議な世界

整理番号 HT3083

実施担当代表者

入澤 崇(いりさわ たかし)

経営学部・教授

開催日

平成19年 12月 16日(日)

開催会場

龍谷大学 深草学舎

住所:京都市伏見区深草塚本町67

実施の様子

実施の様子_写真1
チルボルジ遺跡
 
実施の様子_写真2
クシャゴラ石窟
 
実施の様子_写真3
バクトリア語碑文
 
実施の様子_写真4
 

 まず、研究部の河村課長の方から今回の講座の趣旨説明がなされた後、実施担当者である入澤が講演を行なった。講演の内容は、現在遂行している「アフガニスタン仏教遺跡の学術調査」のことが主で、新たに見つかった仏教遺跡をわかりやすく紹介した。遺跡の場所があるバーミヤーン西方のことなど、ほとんど知られることはなく、無論世界史の教科書にも取り上げられることもない。高校生にしてみれば、まさに「知らない世界」に触れる体験である。かつてそこには交易路があり、仏教文化が栄え、そしていま遺跡となっているものの、その価値に気付く人はいない。しかし、貧しいながらも穏やかな生活がそこにはある。スライドは遺跡の写真だけでなく、生活している人々の存在も知らせるよう配慮した。質疑応答の時間ではからずも参加者から出た「アフガニスタンといえば怖い国で、怖いテロリストばかりかと思っていたけど普通の暮らしがある」との声に代表されるように、私たちがいかに偏見をもち、世界を見ているようで見ていないか実感させた。さらに講演の最後には、バーミヤーン西方で発見され2003年に解読されたバクトリア語碑文を例にあげ、「イスラームと仏教の共存」を語るその新出資料で、「仏教とイスラームの出会い」を通して異文化交流を考える導入とした。8世紀以前のアフガニスタンではいかに異文化交流が活発であったか、今回はそれを参加者に知らせるのが大きな目的である。午前中最後には、1970年代に発見されたハッダのタパショトル寺院跡の「ブッダを守護するヘラクレス」を紹介し、どうしてここにギリシアの英雄神が造形化されたのか課題を出した。
 実施担当者は昼食も参加者と共にとり、質問を受けながら調査のエピソード、アフガニスタンの現状について語った。参加者の関心は高く、質問が多くて担当者を驚かせた。教室にはアフガニスタンに関する研究書を並べていたため、参加者は休憩時間でも熱心に写真に見入っていた。午後一番は、「映像でみるアフガニスタン」で、担当者がNHKに取材を受けたニュース映像やヘラクレス像をはじめとするハッダの遺跡の紹介をしたビデオを見せ、午前中の講義に繋がるようにして、各自が考えていた課題の回答を出し合った。遺物は歴史の証言者である。いまのアフガニスタンにギリシア文化が伝来した経緯を考える必要がある。ここで、世界史の知識が必要となる。参加者のもっている世界史の知識の中でヘラクレス像を考えてみようとディスカッション形式をとりながら既存の世界史教育の現場にヘラクレス像をあてはめてみる試みに移った。アレクサンドロス大王の遠征でギリシア文化が東漸、それを受けてギリシア系のバクトリア王国が誕生、マウリヤ王朝3代目のアショーカ王が古代アフガニスタンに遺したギリシア語碑文、ギリシア・ローマ文化を包み込んだイラン系のクシャーン文化、その中で生まれたガンダーラ美術など、世界史の教科書を使いつつ、仏像の横にギリシアのヘラクレスがいることが自然と頷ける流れで進めた。年号を覚えるだけが歴史ではないことを教え、奥行きのある見方を培うために歴史があるのだということを参加者が実感できるよう工夫をなした。とりわけ、「武力による統治から法による統治へ」を訴えたアショーカ王の政策転換は戦争の悲惨さを直視したことが契機となったこと、クシャーン朝のカニシカ王は寛容な宗教政策をとったことなど、現代社会に欠けている点をみつめるうえでヒントとなる事例を上げるよう努めた。
 「クッキータイム」にはガンダーラ美術を代表する仏像を取り上げ、京都の仏像ひとつ取り上げても仏像がどれほどの歴史をもち、遙かな旅を繰り広げ日本にまで伝わったか、このように考えれば歴史の面白さにふれることは可能であり、地域によって仏像のスタイルも違っているなど、仏像の楽しみ方を伝授した。
 さて、いよいよ最後の全体討議。「世界を考えるための視点」と題して、意見交換を行なった。「文明の衝突」といわれる現代であればこそ、異文化がぶつかりあったとき戦争という形ではなく新たな文化の創造がなされた古代アフガニスタンの世界に学ぶ点は多い。参加者は歴史が今日の世界を考えるためのヒントになるなど思ってもみなかったようである。最後に、いまのアフガニスタン東部・パキスタン北部(広義のガンダーラ文化圏)で流行した「燃燈仏授記物語」のレリーフを通して、参加者は「利他」の精神というものにふれた。自分の幸福や自分の利益ではなく、他者の幸福や他者の利益を優先させる考え方が不思議なことにいま不穏な情勢の地域にゆき渡っていた。血で血を洗う抗争を乗り越える道を古代アフガニスタンの為政者や交易商人は見出していたのである。どうして担当者が「アフガニスタンの不思議な世界」と題したか、思いを打ち明けた。「利他」とは、他者への思いやりであり、これは私たちが日常生活で養うことのできるものである。担当者は参加者全員に各自が家庭で、教室で、地域で、「利他」の精神を発揮しもらいたいと希望を述べ、参加者全員に未来博士号を授与して「アフガニスタンの不思議な世界」の幕を閉じた。
 なお当日の模様は12月17日の毎日新聞紙上で紹介された。