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体の中では、タンパク質という分子がはたらいています。タンパク質は20種類あるアミノ酸が一列に100個以上もつながってできていて、タンパク質の種類ごとにアミノ酸の並び方が決まっています。この順番を決めるのが遺伝子の役割です。遺伝子はDNAでできています。科学の進歩によって、人間はDNAに書き込まれた遺伝子の暗号を解読することに成功しました。そして、その暗号がくるうと異常なタンパク質ができて、病気になったりすることがわかってきました。
今回のプログラムでとりあげた題材は、実験動物としてよく使われる黒と白のマウスです。黒いマウスがメラニンという色素を作るはたらきがあるタンパク質(チロシナーゼという酵素)を持っているのに対して、白いマウスはこのタンパク質のはたらきが失われメラニンを作ることができません。この違いは、30億文字あるマウスのDNAの暗号が、たった1カ所変化したことによって生じたものです。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という方法を使うと、このたった1カ所のDNAの違いを調べることができます。本プログラムの参加者は、実際にひとりひとり手を動かしてPCRを体験するとともに、PCRのしくみや遺伝暗号について学習しました。
当日は小学校6年生から高校生まで36名の未来の研究者が参加しました。迎えるは、慈恵医大の研究者、大学院生、事務員など24名のスタッフです。小児科を開業している卒業生や、ちょうど遺伝子を勉強している医学科の学生も応援に駆けつけてくれました。午前10時から、広々とした実習室でプログラムが始まりました。まず1日のスケジュールと科研費についての説明があり、配られたテキストを使ったDNA とPCRについての簡単な講義を聴いてから、すぐに実験が始まりました。手袋をはめたひとりひとりに2種類のDNAが渡されます。黒と白のマウスのDNAですが、どちらがどちらかはわかりません。2通りのプライマー(PCRに用いる短いDNA)の組み合わせによって最後に結果がわかるのです。実験では、ピペットマンという器具を使って5種類の試薬を小さいプラスチック容器に入れていきます。1滴よりもはるかに少ない量の試薬を正確に測りとらないといけません。初めはみんな緊張していましたが、各実験台の担当スタッフの手ほどきで、すぐに全員上手にピペットマンを操れるようになりました。4本のプラスチック容器にそれぞれ試薬を入れて混ぜ、PCR装置にセットしたら、反応終了まで1時間ほどの待ち時間です。渡されたDNAをマウスの尾から採取してくる様子をスライドで見ます。次にデモンストレーションとして、プラスチック容器に入ったサケのDNAの溶液を渡されます。そこにエタノールを加えると、白い綿のようなDNAが見えてきました。これは今日のおみやげのひとつです。
昼食をはさんで、実験は続きます。こんどはアガロースゲル電気泳動という方法によって、どの試薬の組み合わせのときにDNAが増えたかを調べます。全員にアガロースでできたゲルが配られます。電気泳動装置にセットしたゲルの小さな溝の中に試料を入れていく難しい操作も全員が難なく成功し、電気泳動が始まりました。感電しないように、また、後で使う危険な試薬を手につけないように、という注意を真剣に聴きます。試料に混ぜた青い色素がゲルの中を動いていく様子に感心しています。電気泳動とその後のDNAの染色に少し時間がかかるので、その間にテキストを見ながらPCRによってDNAの1文字の違いを調べる方法や、遺伝暗号について、実験台ごとに討論をしました。
いよいよ実験結果の観察です。ゲルを撮影装置に置き、装置のスイッチを入れて観察窓からのぞくと、紫外線によってオレンジ色に輝くDNAが見えてきました。これを撮影して、結果をプリントアウトします。どちらが黒と白のマウスのDNAかを、全員が正しく判定することができました。同伴の保護者もDNAをのぞいて実験についてスタッフに質問したり、熱心にメモをとったりしていました。
最後に再びホールに集まり、軽食をいただきながら、今日の実験でおもしろかったことや、スタッフの大学での研究生活について話がはずみました。そして、実施担当代表者の松藤から、参加者の代表に修了証書と未来博士号が授与されました。それ以外の参加者ひとりひとりには、それぞれのテーブルの担当者から修了証書と未来博士号が渡されました。
多くの参加者が、おもしろかった、ためになったと評価してくれました。実施担当者一同も、未来の研究者たちから刺激を受け、元気をもらい、とても楽しい一日を過ごしました。
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