日本-欧州先端科学セミナー

日本側参加者による参加報告書(抜粋)

自身の研究に役立つと思われるセッションや、本セミナーで得られた研究上のメリットについて

赤木 剛朗(神戸大学・大学院システム情報学研究科・准教授)

  3月2日からの参加となったが、非常に興味深い講演が多く、Short TalkやPoster Sessionまで含めて、質の高さを実感した。以下、いくつか例を挙げる。Session 5:中川 淳一 氏の講演内容の一部と報告者が最近取り組んできた研究対象が合致しており、多くの示唆をうけた。また産業における数学者の役割という点についても興味深く、工学部に席を置く申請者にとっては非常に参考になった。
  Session 6:Volker Schulz 氏の講演で紹介されたShape Optimizationから示唆を受け、ある自由境界値問題の変分的定式化に展望を持つことができた。また佐々田 槙子 氏が、報告者のここ数年の疑問を部分的に解決していることを知った。Azaouzi Mohamed氏の講演では、工学的問題における有限要素解析について知見を広げることができた。報告者は工学部の研究指導において同分野の問題に取り組み始めたばかりだったため、非常に有意義な情報収集となった。同氏とはExcursionの途中から有限要素解析の数学的研究と工学的研究について意見交換することができた。ここで挙げた講演者とは国の違いや専門分野のグループの違いによってこれまで接することがなかった。よって、このような国際的かつ学際的なセミナーであったがために得られた研究上のメリットと言える。


岩崎 敦(九州大学・大学院システム情報科学研究院・助教)

  完全に分野外からの参加であったため,最初は専門用語などがわからず苦労したが,前半のセッションに多く見られた,偏微分方程式による材料や流体の構造解析などにおける専門家の関心や,まだ未解決の課題について知らないことが多く,自身の知識の幅を拡げるのに役に立った.
  最適化に関するセッションでは,自身の専門に関係することもあり,どれも非常に楽しく聞くことができた.とくに,穴井先生の限量子消去にもとづく代数最適化の研究は,自分の研究に適用できる可能性があり,今後も継続して勉強していきたいと考えている.
  最後に一番印象に残った発表として,合原先生の非線形理論とその応用をあげたい.とくに薬に対するガン細胞マーカーの反応を線形・非線形の式でモデル化し,投薬の量とタイミングを最適化する研究は,様々な科学の基礎となる数学の強さを実感させてくれた.自身も自分の専門において.社会的に役立つ成果を出していくためにも非常に勇気付けられる発表であった.


出原 浩史(明治大学・研究・知財戦略機構・研究推進員)

  非常に興味深い研究内容が多く, 私の研究への刺激にもなりました. 普段の研究集会では聞くことのない, 物理学や数値解析, 数理生物の分野等の最新の研究成果を聞くことができ, 非常に良かったと思います. 特に, hydrodynamic scaling limitと呼ばれる確率論の手法を用いて, 粒子系から偏微分方程式を厳密に導出する方法を講演された舟木先生の講演は, 偏微分方程式系を研究している私の立場からは非常に興味深いものでした. どのような粒子系からどのような偏微分方程式が導出されるのかということは私も興味があり, どこまですでに解明されているのかが分かり, 非常に有益でした. またMathematics in biology and life scienceのセッションでは, 数学を生物や生命といったものに応用し, 実社会に還元するというテーマが多かったと思います. 今後, 私もモデリングや数学を通してこのように社会に貢献する研究を行いたいと考えており, その一つの方向性として講演を聞けたメリットは大きいと考えています.


松井 孝典(大阪大学・大学院工学研究科・助教)

  普段は主に生態系管理を中心とした環境学に関わる学術会議やシンポジウムに参加することが多いが、この度は環境学を進める上で特に重要な位置にある数学をテーマとした本セミナーに参加できたことで、普段利用する帰納的なモデリングとは逆の数式による演繹的なモデリングのアプローチを各種の実研究事例で学ぶことができた点は極めて意義深いと考えている。特に現在進めているデータ駆動型の生態系の挙動のシミュレーションに関して、ほぼ同じテーマとして解釈できる数学的な系の分析で類似の結果が得られていたことが非常に印象深い。


三浦 佳二(東北大学・大学院情報科学研究科・助教)

  私自身、統計学を用いた研究を行なっていることもあり、逆推定の立場からの研究が興味深かった。特に、Stuart先生、Ogata先生、Garnier先生、Kaipio先生の話は、いずれも私自身の研究と密接に結びつくもので、大変興味深かった。
  それに加えて、普段の研究集会では「異分野」と決めつけてわざわざ聞きには行かないような分野の話がきけて、また、それが予想以上に面白くて楽しめたのが収穫であった。今回の会議のテーマである「数学によるイノベーション」を目指すならば、問題を解決するために複数の分野の手段を組み合わせることが必然的に重要となるが、幅広い数学分野の全体像を鳥瞰できるような内容であったことは、少なくとも応用志向の自分にとって大変良かった。


森田 英俊(京都大学・大学院理学研究科・特定研究員)

  格子気体の流体極限に関する二つの講演を興味深く聴いた。このトピックについてはこれまでも解説等で目にしたことはあったのだが、実際に講演を聞くのは初めての機会であったため多くを学ぶことができたし、基本的だが疑問であったことを質問することもできて有意義であった。実際、私の専門分野の一つである(二次元)流体力学の基礎方程式は、この流体極限の対象のひとつである。私が今回発表した二次元流体(連続体)における振動現象を、この格子気体の枠組みで研究するのは興味深いと思われる。連続体のシミュレーションに特有の数値的な困難さを回避できるし、数理物理として問題がよく定義(well-defined)になるので、いままで以上に数学者の興味を引くことができるかもしれないからである。


中澤 嵩(岡山大学・大学院環境学研究科・助教)

  私の研究に役立つセッションは、“Session 2. Disaster prevention and risk”であった。筆者は、これまで、いかに異分野と連携し、数理科学的アプローチで社会に貢献するかを考えてきた。そのため、“Session 2. Disaster prevention and risk”では、数理科学的アプローチが現代社会における種々の問題に対して大変有用であることを実感することができた。一般に、社会問題は複数の問題が内包しており、単純に問題を解決することは困難である。しかし、“Session 2. Disaster prevention and risk”で講演された、逆解析・統計・金融・数値シミュレーション等の分野の研究者は、「複雑な問題から本質的な要素を抽出する」ための手法を様々な社会問題を例にして、示して下さった。当該手法は、筆者個人で身につけるのは非常に困難であったが、“Session 2. Disaster prevention and risk”を通して各研究者の当該手法に触れることができた。
  本セミナーで得られた研究上のメリットは、数値流体シミュレーションを専門にしている筆者が、より数学的な流体研究者と意見交換数することができたことである。当該セミナーの参加者には、数学から工学までの流体力学の研究者が参加しており、各個人が扱っている研究課題はそれぞれ異なっていたが、彼らは流体の本質的な性質に興味があるようであった。そのため、研究課題が数学か工学であるかによらず、互いの研究に興味を持ち、その結果、今まで知ることのなかった流体力学に関する知見を交換することができた。このような経験から、今後、筆者自身の流体力学研究をより多角的に考察することができると思われる。


新納 和樹(京都大学・大学院情報学研究科・博士課程学生)

  “Mathematics of New Materials”, “Mathematics in Information Science/Electronics/
Visualization”, “Optimization in Engineering” のセッションは、私が行っている研究とも関連があり、興味深い話が多かった。特に普段参加する工学の学会ではあまり聞けない、物理現象や数値解法の数学的な背景を学べたことは大きな収穫であったと考える。またこれまで学んだことのない分野の発表においても、自分の研究と結び付けて考えることで新たな発見が得られるなど、このような広い分野から研究者を募ったセミナーに出ないと得られない経験ができた。


野津 裕史(早稲田大学・高等研究所・講師)

  本セミナーは私の研究内容に密接に関係しており,開催を知ってすぐに申し込むことを決断しました.予想通り大変勉強になりました.特に欧州からの先生・研究者に私の研究分野である数値解析が多く含まれていました.Introductory SessionでのBrezzi教授, Griebel教授や, Mathematics of Production EngineeringでのBermúdez教授は,有限要素法,マルチグリッド線形計算の内容で印象的でした.さらに,欧州からの若手研究者であるBenítez氏は特性曲線有限要素法の研究ということで,ほとんど同じ研究といってよく,とても刺激的でした.欧州の方が私の研究内容の研究は多いのだろうと思いましたし,引き続き欧州の学会に参加したり,研究者に会ったりすることが,私の研究を効果的に進めることを確信しました.


小布施 祈織(京都大学・大学院理学研究科・博士課程学生)

  Session 1: Introductory Session, Session 3: Mathematics of New Materials, および Session 5: Mathematics of Production Engineering が特に役に立ちました。これらのセッションには、現在の私の研究において参考にしてきたアイディアについての発表、現在の私の研究テーマを異なった立場から見て議論した発表、これから私が行う予定の研究分野に添った発表、が含まれていました。そのことにより、現在の研究内容に対する再考察および理解が進んだということ、これから行う研究分野に対する基本的アイディアおよび最新の研究テーマの収集が進んだというメリットがありました。
  またPoster Session では、異分野の方との議論を通じて、現在の研究の今までとは異なった方向への新たな進展の可能性を見出しました。ここで議論した何名かの方々とは、これからも連絡を取り合って、議論を続ける予定です。


岡部 考宏(東北大学・大学院理学研究科・助教)

  自身の研究は、流体力学に現れる基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式の解の漸近挙動について、数学的手法により研究している。本研究の対象は、流体の運動の解明と密接に関係しているが、研究の手法からは、実在する流体の詳細な運動を把握することは一般には困難である。本セミナーでは、数学をコアとする、応用分野の研究を対象としており、実学的に流体の研究をしている研究者と交流することができた。特に流体力学からの帯状流の研究や、工学分野からの水流のシミュレーションなどの研究から、流体の運動に関する知見を得られた。これらの知見から、ナビエ・ストークス流の時間大域的挙動の満たすべき、見識と感覚を得ることができた。


佐々田 槙子(慶應義塾大学・理工学部・助教)

  Opening session および Optimization in Engineeringのsessionにおいて、様々な現象を表す偏微分方程式に関する講演が行われ、これまで知らなかった現実の問題において重要な偏微分方程式の存在を知ることができた。これまで自身が研究してきたテーマは、ミクロな現象を表すモデルから、そのマクロな挙動を数学的に厳密な手法によって導出することであり、その方法論については一定の知識を得てきたが、一方で、実用上の重要性を持つ問題としてどのようなモデルを研究対象としていけばよいかということに関する知識が不足していた。今回のセミナーを通し、現実の問題に興味を持つ様々な研究者と交流ができたことにより、どのようなモデル、現象を今後研究対象としていけばよいかという方向性がしっかりと見えた。また、ミクロなDynamicsとマクロな発展方程式を確率論的な手法を用いて厳密につなぐという数学の分野があることが、これまで現象論を実際にやっている研究者達にはあまり知られていなかったようだが、今回のセミナーをきっかけとして、広く伝えることができたと思う。今回、この分野に複数の研究者が強い関心を示しており、今後の共同研究の可能性を強く感じた。


牛越 惠理佳(東北大学・大学院理学研究科・博士課程学生)

  日本‐欧州先端科学セミナーで得られた研究上の最大のメリットは、それぞれの分野のトップクラスの研究者と、気軽に議論をできたということである。特に、自分の研究対象としているものは、イタリア、フランス等で盛んに研究されているものの、日本ではあまり研究が行われてはいない。それ故に、このセミナーを通して、自分の分野に近い研究者と、もしくは異分野の研究者の方とじくりと議論をすることによって、現在の研究の応用に関して、新たな知見を得られようことを強く望んでいた。この思いをもって、本セミナーで行われたポスターセッションに臨み、私は日本、欧州に問わず多くの研究者と、非常に有益な議論を展開することができた。特に、フランスから参加されていた自分の興味のある分野と非常に近い研究をされている先生と議論をすることが出来、研究の方向性を模索することが出来たように感じた。そういう意味で、自由に自分の研究について話す機会が設けられているポスターセッションは自身の研究の発展に役立つように思われる。


横山 俊一(九州大学・大学院数理学府・博士課程学生)

  今回のセミナーでは、自身の専門である代数系の研究成果よりも解析系・応用数学を軸とした発表が多く、個人的には難しい部分も多々あった。しかしながら、各発表者がどのようなことを目標として研究を行っているかというビジョンと熱意、各分野のトレンドは非常にクリアに伝わって来るものがあり、大きな刺激となった。また今回何よりも素晴らしかった事は、普段交流する機会の余りないヨーロッパ圏および国内の若手研究者との人的コネクションを強く築くことが出来たことである。このうち十数人の研究者とは連絡先を交換し、今後の大学教育・研究事情をはじめとして、数学に関する幅広いディスカッションを続けて行く予定である。加えて、実社会問題への数学適用活動や離散数学に長けた研究者とは特に交流を深めることが出来たように思う。



本セミナー参加により、今後欧州との研究交流を進める展望が持てた場合には、その予定について

出原 浩史(明治大学・研究・知財戦略機構・研究推進員)

  本セミナーは様々な分野から多くの研究者が集まっていたため, 自分の研究テーマに近い研究者が少なかったと思います. そのため研究交流を進めるまでには至っていませんが, 今後もさまざまな分野に興味をもち, 欧州の研究者と研究交流をしていきたいと考えています.


三浦 佳二(東北大学・大学院情報科学研究科・助教)

  研究内容の似た研究者との交流は今後も一定のレベルで続くと考えられるが、今回の会議で特筆すべきものとしては、その他にも、会議の最後に行った討論会が大変興味深いものとなった。特に、日本とヨーロッパにおける応用数学の立ち位置(「市民権」)に関する議論で、日本で応用数学が立ち遅れている事実に関しては一定の同意が既にあったものの、進んでいると(少なくとも)日本側が考えていたヨーロッパにおいても、常に社会と数学の接点を最適なものにするように、さらなる努力が必要であるという話が出て興味深かった。このように、国境を超えて共通の問題意識を持つことが確認できたこと、問題点を率直に話し合えたことの意義は大きく、今後も情報を共有しながら、大学教育の改善を行なっていける仲間ができたと考えている。数学の応用とその教育のあり方に関しての強い問題意識を持つ人と繋がりを持つことが出来たのが今回の最大の成果である。


森田 英俊(京都大学・大学院理学研究科・特定研究員)

  直ちに共同研究をしようという欧州のプロジェクトや研究者は、残念ながら見つからなかった。ただし、セミナー終了後、ひとりの研究者から、私の講演に興味を持ったので発表資料と関連論文を送るよう依頼があり、それに応えた。その研究者の所属している大学には私の研究周辺の研究者が多くおり、実際、今回の発表の一部でもある私の論文をレビュー論文で高く評価していただいた著名な研究者や、実際過去に会って議論したことのある研究者もいる。それに加えて今回、人的関係をまた一つ築くことができた。これにより、将来的な研究交流につながるかもしれない。


中澤 嵩(岡山大学・大学院環境学研究科・助教)

  Peter Kolti先生(Germany)から、私の研究に関してコメントを頂きました。今後、メールで進捗状況を連絡し、研究交流を進めていく予定です。


新納 和樹(京都大学・大学院情報学研究科・博士課程学生)

  即座に行える欧州との研究交流を進める具体的な展望が持てたわけではないが、今回のセミナーにおいて様々な分野における欧州の研究者の方と話をすることができた。今後参加する国際学会においてこれを生かし、交流を進めていきたいと考える。


野津 裕史(早稲田大学・高等研究所・講師)

  本セミナーの欧州側代表であるMehrmann教授に,専門分野の一つである制御理論の話題を非公式に2時間していただきました.順問題を解く方法の開発も重要であるが,制御理論などを用いて産業界が求める問題へ適用して有用性を示すことも重要であり,事実産業界はそのような解決方法を求めている,ということでした.現在の流体(順)問題の数値解法の開発を進めると同時に,産業界が求める問題に耳を澄まし,産業界の目線で有用性を示すべきであると思いました.研究の推進とその有用性を示すことも含めて,欧州との交流を積極的にもつようにしたいと思います.


小布施 祈織(京都大学・大学院理学研究科・博士課程学生)

  これから行う予定の研究分野において共同研究を行える可能性のある方と知り合いになり、すぐに共同研究を始めるわけではありませんが、互いが興味を持ちそうな話題を入手した時には連絡をとりあうことになりました。また、その方には私が共同研究を出来る可能性のあるお知り合いがいらっしゃるようで、何名かを紹介して頂けることにもなりました。


岡部 考宏(東北大学・大学院理学研究科・助教)

  本セミナー参加者で、流体に関する研究を行っている欧州からの研究者と交流することができた。特に、流体の運動の解析には、大規模なシミュレーションが必要であり、これらの研究者との議論やコミュニケーション、共同研究ができれば、自身の研究に関する見識を養う上で大変有意義と感じている。今回のセミナーを通して、具体的な研究協力を確立することには至らなかったが、今後は、この交流を発展させて、自身の研究に関する情報収集と成果発表を行いたいと考えている。


佐々田 槙子(慶應義塾大学・理工学部・助教)

  欧州からの参加者は、日本の参加者に比べより現実の問題解決を重視した研究者が多かったように感じた。一方、私自身は参加者の中ではかなり厳密な数学の問題を扱っていたため、日本の研究者との交流に比べ、欧州の研究者との研究面での具体的な交流は少なかった。しかし、将来的には現在自身が行っている研究手法を用いて解決できそうな問題が複数あると感じた。また、欧州からの参加者とも具体的な研究以外の面で非常に深く交流ができ、今後もこの交流が続いていくと強く感じられ、有意義であった。


横山 俊一(九州大学・大学院数理学府・博士課程学生)

  ヨーロッパ圏の若手研究者との交流の中でも特に収穫だったのは、イギリスのウォーリック大学の数学部門やオーストリアの RISC の関連部署に属する人物と繋がりが持てたことである。代数計算に関する知識に関しても議論を行い、それぞれの研究環境に至るまで様々な情報を交換出来たことは非常に意義深い。更に、自らのショートトーク内で紹介した内容に用いられた数学の枠組みに非常に近い研究発表をイタリアの若手研究者がポスターにて発表しており、ポスターセッション時には細部に至るまで細かなディスカッションを行うことが出来た。これは全体的に流体力学などの研究者が多い中思いがけないことであり、今後の研究の進展に大いに役立つものとなるだろうと確信している。